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昔見かけた誤った恐竜記事その2

 昔見かけた誤った記事のふたつ目。記事というかマンガなんですが、大御所漫画家さんの学習マンガ風のコメディ作品で、学術の場での捏造をテーマにした回。考古学のゴッドハンド氏の話題から入って、ピルトダウン人と並べてブロントサウルスを「ディプロドクスの胴体にカマラサウルスの頭をつけたもの」と紹介していました。違うぞ!と思いつつも、この漫画は学習漫画のパロディで真面目に科学的な解説をしているかのような流れから、珍妙な話に流れていくのもパターンのひとつなので、これも意図的なものかもしれません。けれどギャグでやってるにしてはわかりにくい感じなんですよね。ですがわかる人だけに向けたネタという気もして。
 ここは野暮は承知でネタにマジレス。この記述がどう間違っているのか解説しましょう。この記述にはアパトサウルス・ブロントサウルスの名称問題と、頭骨の復元を巡る問題がゴッチャになっているのですが、順を追って説明していきます。

 まずはアパトサウルスが属している竜脚類について、この記事を読んでいる方には不要かと思うのですが、解説します。映画や漫画、アニメなどでもよく目にする、首の長い巨大な恐竜の仲間です。ティラノサウルスやトリケラトプスと並んで、恐竜という言葉から最もイメージされやすい生物ではないでしょうか。首が長いからと言って「クビナガリュウ」と呼んではいけません。クビナガリュウは海に住む爬虫類で、竜脚類とは近い仲間とは言えません。竜脚類は太い脚で巨体を支える陸上動物であり、その中には地球の歴史上最大の陸上動物にあげられる種を含みます。

 さてジュラ紀の北米大陸には代表的な3グループの竜脚類が繫栄していました。前脚が後脚よりも長く、首を斜め上に持ち上げていたと考えられるブラキオサウルス類。頭骨は鼻孔が頭の上に配された特徴的な形をしています。
 次に首と尾を細長く伸ばしたディプロドクス類。頭骨も細長いです。
 最後にディプロドクスに比べると、首や尾が短くがっしりとした骨格のカマラサウルス類。頭骨はディプロドクスと違って短い形です。
 他の大陸にはアジアのマメンチサウルス類や、南米のディクラエオサウルス類のように他のグループもいましたし、3グループ以外の竜脚類がジュラ紀の北米に全くいなかったわけでもないのにはご注意ください。

 さて恐竜の全身骨格がまるごと見つかることは稀であることは、ある程度恐竜に興味をお持ちの方ならご存じかと思います。体格の大きな恐竜ほどバラバラになりやすく、体の先端に飛び出した部分ほど失われやすくなります。故に竜脚類の頭骨はとても見つかりにくいので、近い種類の恐竜の頭骨を参考に復元することになります。
 アパトサウルスは比較的がっしりした体格からカマラサウルスの仲間と考えられ、カマラサウルスの頭骨を取り付けて復元されました。しかし骨格の特徴などからディプロドクスの方に近いのではないかという意見もあったようで、実際頭骨が発見されてみるとやはりディプロドクスに近い形状の頭骨でした。ここまでがアパトサウルス・ブロントサウルスをめぐる記述の一つ目の誤解となります。

 次は恐竜の名称について。まず学名とは何でしょう。生物の名称は多種多様で同じ言語を話す国の中でも、地域によって呼び名が違ったり同じ種類の生物でもサイズによって名前が変わったりします。一つの言葉が時代によって指す生き物が変わったり、雌雄で名前が違ったりもします。これが別の言語での呼び方まで考えれば一つの生き物がとんでもない数の名称を持つこともあります。少なくとも学問の場では、生き物の名前を統一しなければ、その論文で述べられている生き物がそもそも何か、自分たちはどう呼んでいる生き物なのかを確認するために大変な労力がかかることになります。
 そこで時代や地域によって変化しない。世界の誰でもその名前を聞けば同じ生き物を思い浮かべ誤解が生じない、そういう名前が必要になります。その機能を果たしているのが学名で、世界中の人が誤解無く使えるよう幾つかのルールがあります。その中の一つに、もし一つの生き物に複数の学名がついていることがわかったら、先に発表された論文で命名された学名が有効となり、後から命名された名前は無効な名前(ジュニアシノニム)となります。
 恐竜の場合、体の一部しか化石が見つからないことが非常に多いですし、多数の化石で性別や成長度による違いや個体差を研究することができるということも稀です。なので恐竜の完全な骨格化石が発見された時、歯は歯で独自の学名が、前脚の骨は前脚の骨で別の学名が、頭骨には更に別の学名がついていることも珍しくありません。また別々の学名を持つ恐竜が一緒に暮らしていたことが解って、同じ種類の雌雄だったり、成体と幼体だったりしたことがわかったりもします。
 アパトサウルスとブロントサウルスもこのように別々の学名が付けられた個体が、同じ種類だと判明したためブロントサウルスが無効名とされました。

 纏めると、確かにかつてアパトサウルスがディプロドクス類と確定するまでは、アパトサウルスにカマラサウルスの頭骨をつけて復元され、更に「ブロントサウルス」と表示されることは、書籍でも展示でもあったんです。ですが、それは2つの誤り、というよりは、以前の知見が更新されて新しい知見に取って代わられた2つの要素が重なった結果であって、最初に紹介したマンガで述べられていたような捏造化石ではなく、ましてや正真正銘の捏造であるピルトダウン人と並べるようなものではない、ということです。

 アパトサウルス、ブロントサウルスについては、近年、新しい展開がありました。
 詳しくは補足記事を上げています。

 こちらの記事の「その1」はこちら。

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