父のフライパン

 世の中によくある話ですが、僕は大学進学のため一人暮らしを始めました。その時、父は一本のフライパンを持たせてくれました。昔から家にあった鉄のフライパンでした。
 ところが僕は鉄のフライパンの手入れの方法など全く知らなかったので、洗剤で洗ってそのまま乾かして、あっという間に赤錆だらけにしてしまったのです。

 そのフライパンが料理人である父が独身時代から使っていた物であったこと、鉄のフライパンの手入れの仕方、そして「フライパンを育てる」という概念。大学卒業後に実家に戻ってから、それらのことをだんだん知っていくにつれ、自分は大変なことをしてしまったのではないかという後悔を覚えました。
 ある時、僕はその話を父にして「フライパンをダメにしてごめん」と謝罪したところ返ってきた言葉は予想外のものでした。
「ダメになんてなってないよ。油を引き直して、使っているよ」

 プロ仕様の道具って凄い!と思い知らされた出来事でした。

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