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「ターン」の読書感想と思い出

本の概要と出会い

著:北村薫氏のタイムシリーズの「ターン」について。一番最初に読んだ小説は「そろそろ文庫本とか読んで欲しい」と言ってた母親を少しでも満足させようと図書室で見つけた本。表紙は見ずに背表紙の「ターン」の文字だけが気になったので開いてみた。

簡単なあらすじ

本書のあらすじを簡単にまとめると、銅版画家の29歳女性の真希が衝突事故を経て、1日がループし続ける世界に突入。植物等はあるが、人はおろか動物が見当たらない空虚な世界。最初は色々工夫してたが、どうしようもなく感じてた所、無音であるハズの電話が鳴り始めて慌てて受話器を取ったところ「あなたの版画を使わせてほしい」という泉洋平との会話が始まる。
二人は諸々会話を交えつつも、真希が味わう無情にループし続ける世界が作品を残すことなど許さない事実から絶望を覚えつつも、泉さん越しの母親との連絡や、二人の会話上で繰り広げられる景色の共有を経て希望を見出す。そしてなんやかんやあって真希が昏睡状態から目覚める話。

印象と読み進め

ある程度の作品を読み進めた今だからこそ言えるが、北村薫氏は淡々と日常を書き上げた上で不思議に思ったことを、抽象的な言葉を使わずそのキャラクター原寸大の言葉で象るのが大変特徴的である。この感覚は言わば、大きな公園内にある植物案内の軽い文章を読んだ程度の素人が、公園を歩く上でそれ以上の知識を蓄えないまま景色を楽しむのと同じ。やれ歳時記だ、やれ園芸として珍しいだ、やれ庭園の構図が云々だとかを気にせず、今の景色を素朴なまま味わう。
このスタイルの小説が、初めて読む小説に適してた理由としては、最初は淡々と情報を仕入れつつキャラ形成がしやすい。特に銅版画家の真希が見てる景色と感じてた印象がスルスルと入ってくるし、何に感動して何に彩りと風情を覚えるのかも簡単に把握できる。従って、大変感情移入しやすいし、銅版画家という自分より遠い存在ではなく、ちゃんと主人公の真希のために読み進めてる感覚がある。
そして個人的には丁度良い時に物語が佳境を迎えるため、真希のハズの物語だが読み進めるのが止まらないし、自分も半分読み進めたのが電車の待ち時間中で、以降は長い帰り道にページを捲る手を止めることもなければ、母親が夕飯のお皿嬉しそうに置いた上で本を閉じ、食器を食器洗い機に入れたらずっとリビングで読み耽っていた。

ネタバレ含んだ感想

当時流行っていた「ハヤテのごとく」や、兄の英才教育の延長線上で読んだ恋愛漫画なんかよりも、物凄く身に染みた恋愛小説だった。
またループ物の作品を読んでいるのに、SF小説特有の理論展開や特定設定による読者の解釈補間等を要求しないし、だからこそ主人公の真希が感じ取っていた絶望も恋心も、決して設定によって捻りだされた必然性ではなく、すごく自然な感情だと直感できた。

自分との深い関わり

今もそうであるが、読み始めた当初も捻くれていた私は、歌とゲームでしか感情表現できないことを憂いてたし、簡単な宿題や数学等では余裕で高得点取れるのにエッセイや感想文の提出で悉く駄文を書いていたことも、自分の価値が無いんじゃないかと思う程自責の念を覚えていた。
だからこそ、最初こそ惰性で手に取った「ターン」だったが、読み進めていく上でのシンプル性と判り易さが本当に身に染みていったし、真希には申し訳ないが自分も彼女が体験した程の景色をゆったり眺める日々と連続する絶望の最中に見つけた希望と泉洋平さんのような素敵な人との恋がしたいと本気で思わせてくれた。
そして何より、北村薫先生のように親身にさせてくれる原寸大でリアリティ溢れるキャラクターだけでなくそれに見合った表現を文章で書き起こしたいと思わせてくれた。
今もこうして書き続けてるのは、色んな縁が交じり合った結果だが
きっかけはこの本だった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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