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エッセイ490. 家庭内英会話(4)たかがアイドンノー、されどアイドンノー

日本語を教えていて思うのは、「A=Aではない」ということ。
名詞ならいいのです。
りんごはりんごですし、鉛筆は鉛筆ですので。

でも、A言語でカバーしている意味が、B言語では狭かったり、逆に広かったりがあります。

どういうことかと言うと、
「面白い  」
は、日本語では興味を持ったりして知的興奮をするために、「面(おもて=顔)」が、ぱっと明るむ状態だそうです。
なので日本語では、「笑いたくなるような可笑しさ(おかしさ)」も「おかしい」と「面白い」と、対象によって、微妙に使い分けますし、
「面白い」は、「ワクワクする知的興奮」までも意味的にカバーして
(例:それはなかなか面白い視点である、とか)、
英語のinterestingよりは、どうもだいぶ広い気がします。
英語は、笑える面白さは、どちらかというと、funnyを充てるようです。

ところが、夫は言葉について、ときどき独特です。
新婚時代に、何かをぱくっと食べて、
「う〜む、これはインタレスティングな味だね」
と言うのを聞いて、言葉については細かい私は
「味が面白いとは?」
と不思議に思いました。で、

「美味しいとは違うの?
珍しい、食べ慣れない味ということ?
味わい深いということ?
エグザクトリ〜に、どういう意味で言ってるの?」

とガンガン質問して、夫にたじたじとなられたことがあります。
夫の答えは、
「インタレスティングはインタレスティングだよ。
でも他の人はあまり言わないかも」
でした。

いやいや夫よ、英語では貴殿が私の唯一の師匠なのですから、
そういうことは言わないでくださいよ。

そういえばレッスンで、日本語がまだまだの初心者にも、
私が必ず教えることがあります。

それは、

「知りません」は、必ずしも I don't know ではありません。

ということです。

I don't know=知りません

で問題ないのは、動かしようのない情報・事実です。
良い例は。

 A:このお菓子の名前知ってる?
B:知らないなぁ。

これは大丈夫。お菓子の名前という、厳然とした事実だから。

でも、

A:遅いなあ。彼は何か言っていた?
B:知りません。

は、まずいときがある。

なぜなら、日本語でこの文脈だと、言い方にもよりますが、ことによると、ちょっと冷たい感じ。
言いようによっては、「さてね、知らないね」とか、
なんとなく、突き放したように聞こえます。
怒ってんの?  という感じになることも。

学習者にとって、この二つは
Shirimasen
Wakarimasen
という、一連の音声に過ぎないので、聞いただけでニュアンスがわかるはずはありません。

で、生徒は私に指摘されると、混乱します。

「あ、あなたは今、
『これまで、【わかります 】は I understand とか I CAN understand
だと教わってきたのに、「知っている」の意味もあるのか』
と思ったでしょう?」
「はい」
「なんか話が違うと思ったでしょう?」
「思いました」

という感じになりますかね。

私:これはあくまで私の感じ方なのですが、
わかりません、というときは、『私が知っていて当然なのに、
(力不足にして・寡聞にして)知りません』
という気持ちがあって、
『そこらを理解していなくて、わかりません』
と言いたい気持ちがあるんじゃないかなと。
どうでしょうか。

生徒:言われていればそんな気も・・

それからしばらくレッスンで、

生徒:いいえ、知りません。あ、今のところは、
         わかりませんの方が正しいですか?
私:そうですね。
   知りませんでも間違いではありませんが、
  わかりませんのほうが、私が聞く限りでは、より自然です。

生徒:知りません。あ、今のはわかりませんのほうが?
私:いえいえ、「すもうを知っていますか?」という質問ですから、
   「知りません」の方がいいですね。

生徒:うわぁ・・
私:大丈夫ですか?
生徒:大丈夫です。

というようなことが、続きます。
大丈夫、みなさん、すぐ上手になりますよ。


長々と書いてしまいましたが、家庭内のやりとりでも夫の言葉の選択が、
私の感じ方と違うために、ん? と思うことはよくあります。

私:さっきカーテン捨てた時、プラスチックのピース取った?
夫:取らなかった。取るべきでしたか?
私:燃えるゴミとプラごみと分けるので。
夫:知りません。I don't know.

このときなぜか、カチンと来ます。

私:今の『知りません』は、ちょっとだめかな?
夫:そうですか? なぜ?
私:ここで日本語で知りませんというと、
   Who cares? =知るもんか😤
というふうに響きますので。
夫:でも、実際に知りませんでしたから。
私:だよね。そしたらね、知らなかったぁ〜、と言うといいでしょう。
夫:知らなかったぁ〜
私:いいんですけど、もっと切ない感じの顔をして、言ってください。
夫:うん。知らなかったぁ〜😩
私:マッチ・ベタ〜ですね!

家庭内でもつい熱がこもります。
この人、元々私の教え子ですので、仕方ないですね。

夫の頭の中に、調布市のゴミ分別が入っていなければ、
確かにそのことについて、自覚的には「知らない、アイドンノ〜」
ですので、全然、間違いではありません。
ありませんが、日本人が聞くと、違和感はあります。

レッスンに戻ります。

私:どの言語でも同じかと思うのですが、
間違いでなくても、「そうは言わない」ということがありますね。
そのときの場面に合わせて、正しい言葉を選べると良いですね。

生徒:そうですね。

私:あまり早く上手くならなくても良いです。
みなさんが早く上手くなると私が失業します。

生徒:わかりました。


結婚して30年。
お互いが完璧にお互いの言葉と母語のバイリンガルであれば良いのですが、そうではないので、いろいろとあります。

次回は、
「私にオフコースと言うの禁止」の巻です。

トップ写真は、今まさに進行中の、私の人生8回目の引っ越しです。
夫との言葉の壁の厚さを感じる引越しについては、また別に書きますね。


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