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日本語教師日記156.どうやって言葉を定着させるかー①芋づる式

レッスンを始めてくれたけれど、長く続かない人の、やめるタイミングは、1ヶ月、3ヶ月、半年がピークです。あとは今 私が教えている人は、最短で1年、長い方では8年、10年ぐらいの人がちらほらいます。

分布図でいうと、2年から4年の人が多いです。週に2回の人などは、画面越しにしか会えないのが残念なほど、話が通じるようになってきたりします。

あれどうしました?
あれ? ああ、あれね。だいぶいいです。
そうですか、よかった。

・・老夫婦の会話かということになったりします。
まあ、誇張ですが、似たような感じ。

レッスンを受けてくれている期間が長いと、飽きてしまわないか、君は、ここで留まって幾星霜いくせいそうなのだが、嫌にならないだろうか、と心配になります。

もしかして日本語レッスンがジョギングのように、習慣になっていて日常に組み込まれてしまっているのかもしれません。やらないと気持ち悪い、みたいな。
それはないのか。

生徒たちの中には、日本に来る予定も、日本語で仕事をしたいという将来への希望もないという人も、たくさんいます。
「趣味の日本語」でしょうか。

短い方のやめかたは、「来週から忙しいので、再開できるようになったら連絡します」とおっしゃることが大半です。理由はどうあれ、もうこれ以上レッスンは受けないということには変わりないので、それはそれでいいと思っています。

日本語の個人レッスンは、いいところもたくさんありますが、まずい点ももちろんあり、その一つが、教師が甘くなってしまうところ。
特に子供生徒だとそうなりがちです。
原因の一つは、あまりに進まないと不憫になってきて、必要以上に優しくなってしまうからでしょう。

脱線ですが、日本語学校のグループレッスンではそうはいきません。
進み方が早いですし、よく使われる教科書では、プライベートレッスンなら同じ章では絶対に一緒には出さない、混乱しやすい文法もよく出てきます。
テストもありますし、落第もさせます。数学と同じで、情けで進級させても、その前の段階がわからないなら、全く無駄になってしまうからです。むしろ、情けの落第です。
そうやって私のところへ漂着なさる人もたまにはいて、
3ヶ月のコースを終えながら、

①ここに鋏があります。

②鋏はここにあります。
の違いがわかりません。教えてください。
ぐらいの人がいます。

(ちなみに①は 見ている(思っている)その場所に、「何が」あるかについての文であり、②は、思っているその物体が、「どこに」あるかについての文です。このぐらいの文が出てくるのは、
「日本語の語順と、適正な場所にあるべき助詞の大切さ」
はまだ会得していない段階ですので、実は混乱しやすいです。
文中の部品でいうと、この二文はほとんど同じなので、じっくり理解していかないと、たちまち混乱します。
この場合は、媒介語を使っても、教師の力が足りないとさらに大混乱です。
私も駆け出しの頃、うっかり英語で教えてしまい、
「結局、どういうことですか? 全くわかりません」
と生徒に言われて、冷や汗が出たことがあります)

さて話を戻しますが、語学は直感、みたいなところがあり、すいすいと進む人もあれば、何度も同じところへ戻ってきて苦しむ人もたくさんいます。
でも、そのどちらにも是非言いたいことは、

とにかく、今まで出てきた言葉は全て覚えてください。

です。
丸暗記奨励ではありません。

「このぐらいの数の動詞・名詞・形容詞ぐらいは覚えてもらわないと、
先に進めません」

ということに尽きるからです。
そう、文法をどんどん入れていかなければならないのに、口から出てくる言葉が少なすぎる人が大変多い。
しかし、言葉がすっと出てこないことだけでへこたれてしまい、嫌気がさしたら、ここまでかけた時間とエネルギーとお金がもったいないです。

そこで、迎合するわけではないのですが、できない部分にハイライトを当てるより、出来ることもたくさんあるということを言いたいのが人情で、
「相手の口から易々やすやすと出るとわかっている言葉を使ってしまいがちになります。
アウトプットもインプットも、いつも同じ、動詞10、形容詞10ぐらいの間でぐるぐる回るようになると、だんだんレッスンに、精彩というものが欠けてきてしまい、それは教師の責任です。

私がやるのは、一つは芋づる式に思い出してもらうことです。
例えば、先月・・という言葉を出したとしたら、ついでになんとなく、思い出しやすいグループを出します。

私:Last monthは?
生徒:せんがつ。
私:せんげつ、です。
では、last month、this month, next month と言ってください。
 生徒:は、はい。えー・・・せんがつ、じゃなくて、
     せんげつ・こんげつ・らいげつ。
私:はい、できた。もう一回。
生徒:せんが・・せんげつ・こんげつ・らいげつ
私:last weekは?
生徒:せ? せせ、せんしゅう、こんしゅう、らいしゅう
私:いいです。らいしゅうのつぎは?
生徒:さらいしゅう
私:その次は?
生徒:ささらいしゅう?
私:ははは、ありません。ごめんごめん。


ひとり、ふたり、と言ってもらったあとは、ついでに、
「ひとつ、ふたつ・・・はい、とお、まで言ってください」
と、必ずやっています。

テキストに出てきた日だけ覚えてもらい、
あとで出さないでいると、もちろん忘れるからです。
掛け算の九九を覚えたら、毎朝先生の前で言わされた、あんな感じです。

勘と記憶力がよくて、努力しないでもどんどん進む人は、いますが、稀です。
そうでない人向けに、なるべくミニマムの時間で、言葉の数を増やしたいです。
宿題や課題をしない、できない人も多いですので、言葉増やしはレッスンの中でやってしまいたいもの。

続きます。



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