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#ブンゲイファイトクラブ への参加、「惑星と口笛ブックス」のこと

西崎憲主宰の電子書籍レーベル「惑星と口笛ブックス」が、「ブンゲイファイトクラブ」なるものをおっぱじめました。

ブンゲイファイトクラブについて

文芸創作であればジャンルを問わない、総合格闘技風の賞レースだ。また、トーナメント方式で大会は進み優勝するには4作品必要であることや、勝敗を決める審査員もまた出場者に審査されるという、さまざまに斬新なシステムが導入されている。

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上図は本戦のトーナメント表だ。雛倉さりえさん、北野勇作さん、斎藤優さん、大前粟生くん、そしてぼくの5人は招待ファイターとして予選免除で本戦からの参加となったわけだけれども、他のメンバーはおよそ300の公募を勝ち抜いてきている。

注目の参加者

対戦表をみて思ったのは、ちょくちょくと兼ねてからの知り合いが出ていることがうれしかった。Cブロックの蕪木Q平くんは同人誌をやっていた時に毎回文フリの売り子などのお手伝いをしてもらっていたし、Gブロックの伊藤なむあひさんはいつもぼくの小説を読んでくれていて、ご自身が編集する電子書籍アンソロジーにも声をかけてくれたりする。
校正段階で読んだ限り、ふたりともじぶんの個性を出した良い作品だとおもった。特にQ平の小説を読むのは5年ぶりとかそれくらいだったのだが、ここまで凄まじいものを……!という驚きがあり、個人的には全参加者のうち一番印象に残った。

出場ブロックについて

ぼくはAブロックの招待ライターとして参戦することになった。同じブロックにいる金子玲介くんもまたかねてから友だちであり、しょっぱなからぶつかるということにびっくりした。

審査もまだ終わっていないので自作についての言及は避けるけれども、このブロックは全員が小説で、提出作品は「読書のロマンティック」と「ナンセンスな笑い」のどちらかにスパっと別れている。前者がぼくと冬乃くじさん、後者が鵜川龍史さんと金子玲介くんだ。ふたつの色に別れているからといって、安易に比較できるものでもないし、技術的な狙いやおもしろがりかたがまるで違う。しかし、それぞれの作品を読む上で評価がガラリと代わりそうな急所のようなポイントがそれぞれにあり(とぼくは読んでいて)、それがどう論じられるかを個人的に楽しみにしたいとおもう。

惑星と口笛ブックスについて

「惑星と口笛ブックス」は、作家・翻訳家・アンソロジストとして文芸界で活躍されていた西崎憲さんが立ち上げた電子書籍レーベルだ。世の中には膨大な数の書き手による膨大な量の作品が存在してはいるものの、現実問題としてぼくらはその大半を──それこそ99.999999999999...%を──読むことができない。その原因は単に量が多すぎるとも言えるし、出版可能かどうかの制約もある。
ぼくがはじめ「惑星と口笛ブックス」についてのお話を聞いた時、電子書籍のもつ可能性とは「絶版がないこと」だと西崎さんから聞いたのを憶えている。出版が商売である以上、やっぱり売れなければならないわけで、売れない本の在庫を抱えるわけにもいかない。そういう構造がある以上、一定の時間が経過することによって、ひとの手が届きうる場所から消えていまう本というものが絶対に出てきてしまう。しかし「在庫」という概念が電子書籍にはそもそもなく、一度出してさえしまえば、求めた人はいつでもそれに手を伸ばすことができる。当時のぼくは電子書籍に馴染みがなかったのだけれど、電子書籍は書籍を死から遠ざけるものなのかもしれないな、とかそんなことを考えた。

そんな話をしたのは三年前の東京だった。銀座かどこかで、大前粟生くんといっしょに西崎さんにランチをご馳走してもらっていた。その日、文学賞をとってデビューした友だちのお祝い会をする予定があって、そのための上京だった。秋だ。このとき、ぼくらは「惑星と口笛ブックス」の最初の刊行物である『ヒドゥン・オーサーズ』についての寄稿と、ぼくらそれぞれの短編集の刊行についての説明などを受けていた。このアンソロジーには、SF回で話題の伴名練さんも寄稿していたりする。

この打ち合わせの段階で大前粟生くんは掌編・短編のストックが200個ほどあったらしく、それをまとめたものが「ヒドゥン・オーサーズ」と同時発売になった短編集「のけものどもの」だ。

ぼくはそのとき短編のストックがひとつもなく、この打ち合わせのあとに、
「とりあえず、30〜50枚程度の小説を4つ書いてください。書けたらひとつずつで大丈夫ですので、私に送ってくださいね」
と言われ、1ヶ月に1本くらいのペースで書いていき、4つでひとつの小説になるような「コロニアルタイム」という連作にした(よかったらどうぞ!)。

当時、すでに2つの文学賞を受賞していた大前くんと違い、ぼくなんてなんの実績もなかったのに、よく声をかけてくれたなぁとおもう。

ブンゲイファイトクラブは、西崎さんがいうに「2回目のヒドゥン・オーサーズ」らしい。「ヒドゥン・オーサーズ」も小説・現代詩・短歌といったジャンル不問の文芸作品がひとつの本に収められたアンソロジーで、ぼく自身がそうだったのだけれど「隠された書き手」の作品を絶版のない形で世に出したという功績がある。もちろん、ぼくもまだ世間的には全然無名であることは変わりないけれど、「イチかゼロか」ってめちゃくちゃ大きい。

今回のブンゲイファイトクラブは予想以上に盛り上がっているだけに、まだ誰からも表されてない書き手が発見されたらうれしいなとおもう。

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