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いい映像作品(ドキュメント)は、音と絵で見せる。ナレーションは最小限に。

岩がご神体の神社、三重県熊野市の花の窟《はなのいわや》神社で3年ぶりに行われた、お綱掛け神事。
その準備から本番まで、5月~10月にかけて熊野の自然信仰や、祭りびとたちに密着したドキュメンタリー、
「ダイドードリンコ日本の祭り 『神の岩・花の祈り』」が
10月29日日曜日午後2時から、名古屋のCBC-TVで放送されます(後日、BS-TBSで全国にも放送されるそうです)。

最終MA作業でナレーターにキュー出しする坂田ディレクター

 私は熊野の自然信仰や生きもの、自然現象を撮影しただけで、実際の密着取材と編集、演出をしたのはbirdfilmの坂田チーフディレクター。彼は、どの土地の人にも愛される人柄で、祭りびとである地元の人々の生の声を聞きだし、素の姿をカメラで捉える事ができる、素晴らしいドキュメンタリー監督です。
 作為や制作者の想いが先行せず、取材させていただく人々の想いや事実を、まず着実に聞き出して、丹念に事実を積み重ねていく、極めて真摯な取材姿勢で取り組むのが坂田流。
 
 その撮りためた取材映像を、一つの流れに構成するのが、時に徹夜にもなるほど、身を削って作る編集作業です。
 テレビの場合、一般の視聴者の方々に、面白く分かりやすくするためには、インタビューだけでは足らず、ナレーションがどうしても必要です。
 birdfilmのディレクターの作り方は、30年前から、自分で仮のナレーションを入れながら映像をつなげていく方法です。
 この時、どうしても取材したディレクターは、伝えたいことをつい盛り込んで、言葉が饒舌になりがちです。下手なディレクターは、ナレーションとインタビューがギュウギュウに詰まった、言葉だらけの番組になってしまいます。
(昨今は視聴者を逃さないために、バラエティーや情報番組はわざと間をつくらず、機関銃のように言葉が続く番組を要求する、恐がりなテレビプロデューサーがほとんどです。)

 ひと通り番組が出来上がった(粗編集)時、もう一度ナレーションを読み直し、ナレーションの言葉を練り直します。
 この時、絵で見てわかるなら極力ナレーションの言葉数を削ります。また、言葉を厳選します。これが力技なのです。
 語彙が豊富であること、言葉の感受性が豊かであること、言葉のリズム感がいいこと、などなど、いわゆる国語力とセンスが問われる、とても難しい作業です。
 いかに素晴らしい取材ができ、映像が素晴らしくても、ナレーション一つで台無しにしてしまう事もあります。
 こうなると、どれだけの本を読み、どれだけの映画やドラマ、落語や漫才、講談や芝居を見てきたか、という経験の豊富さも必要ですし、また、それらから「言葉」と「その意味」を学び取り自分のモノにしていく感受性も必要です。
 
 最近は分業制で、こうしたナレーションを「構成作家」「放送作家」に書いてもらうケースも多いようです。
 しかし、そもそもは取材したディレクターやプロデューサーが言葉を固めるのが望ましいと思っています。そうした意味で、ドラマからスポーツ、バラエティーからドキュメンタリーまで種々の番組のディレクター経験者である今回の佐藤プロデューサーは、ナレーションの言葉を選び固める最終確認者としてありがたい存在です。「自分はコストカッターならぬ、ワードカッター!」と本人が言うように、ナレーションの言葉をギリギリまで削り込んでくれました。

奥がワードカッターの佐藤プロデューサー

 私も佐藤氏と組んで、何本か番組を作らせていただいていますが、言葉選びのセンスや表現には、いつも助けられています。
 こうして削り込まれ、言葉が厳選されたナレーション原稿は、読み手であるナレーターも、リズムよく読め、映像に命が吹き込まれていきます。今回のように声も技術もある夏目アナのようなナレーターが読むことで、さらにナレーションが際立って、ひとつひとつの言葉が心に残る、より高品質な番組に磨きあげられるのです。
 また、ナレーションが削られた分、映像や現場の音、現地の人の言葉、間と沈黙が持つ意味、そこにかかる音楽などが生きてきて、視る人の心に響く作品になっていきます。
 

ナレーションを読むCBC-TVの夏目みな美アナウンサー

    そもそも絵で見てわかるのに、饒舌な説明はいりません。映画は、そのナレーションの部分をきちんと役者の演技力や映像で見せていくではないですか。テレビ、という誰もが見られる(つまり視る人を選ばない)メディアだから、ナレーションが必要なわけですが、それでも全部をいちいち説明されたら、視聴者をバカにしているのかと思われます。逆に、何でもナレーションで説明してくれるだろうという作りが、視聴者をどんどんバカにしていってしまったのです。本当にちゃんと視る人は、情報過多な説明はかえって迷惑千万なことでしょう。

 私自身は、最近はドキュメンタリーはあまり作らないように心がけています。坂田ディレクターのように地域や人々に密着取材する体力が私にはない、というのもありますが、事実よりフィクションの方が好きというのが本音です。
 なぜ、私がドキュメンタリーを作りたくないのか、そこには様々な理由がありますが、それはまたの機会に。
 今回は今流行りのYouTubeなどとは違う、プロのテレビドキュメンタリストが骨身を削って作った「映像作品」を、
みなさんにご堪能いただければ幸いです。


          文責:birdfilm 映像作家 増田達彦