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【シカゴでバードウォッチング!】 猩々紅冠鳥

バーディングを長年なさっていらっしゃる方なら「猩々紅冠鳥」の読み方をご存知かもしれません。「ショウジョウコウカンチョウ」と読みます。

「猩々」は、宮崎駿の映画『もののけ姫』の中で、ニホンザルよりも大きな霊長類として描かれ、体は黒く目だけが赤く不気味に光っていましたが、一般的に「猩々」は、オラウーンタンの和名です。また、想像上の動物でもあるようです。中国の古典書物では、人間の言葉を操り理解する獣で、酒を好むとされています。また、日本では能の演目に「猩々」というのがあり、真っ赤な能装束で着飾り、お酒に浮かれながら舞い謡うそうです。

https://www.the-noh.com/jp/plays/data/program_053.html

おそらくこの日本の能の「真っ赤な能装束を着て舞う」という猩々と、冠羽が紅色ということから、「猩々紅冠鳥」という名前が生まれたのではないでしょうか。文字通り、全身赤い鳥です。

「赤い鳥」と聞くと、鈴木三重吉が1918年に創刊し、1936年まで刊行されていた童話と童謡の児童雑誌や、1969〜1974年に活動していたフォークグループを思い描いた方がいらっしゃるかもしれませんね。日本に、全身だけでなく冠羽まで赤い鳥がいるのかというと、残念ながら、生息していません。アメリカに生息している鳥なんです。

英語名は、Northern Cardinalです。以前書いた記事「ツンツンヘアの鳥たち」にチラリと登場しています。

ヨーロッパからの入植者がアメリカ大陸に来て初めてこの全身赤い鳥を見て、真紅の衣を纏うカトリックの枢機卿をイメージしたので、英語で枢機卿を意味するCardinalと名付けたそうです。

Northern Cardinalのオス     ©Dan Lory

この鳥は留鳥で、雀たちに混じって庭のバードフィーダーによく来ます。でも、Northern Cardinalは全長21センチほどあり、14~15センチほどの雀よりずっと大きいですし、嘴とピンと立った冠羽を含め全身派手な真紅で、顔から喉にかけての黒いマスク部分が髭のように見えて強面ですから、Northern Cardinalが現れると他の鳥たちはサッといなくなります。それでもフィーダーにしがみついている雀やHouse Finch (メキシコマシコ)がいると、Northern Cardinalは「そこどけ、そこどけ!」と言わんばかりに他の鳥を突いて追い払います。

私はその大きな態度があまり好きになれませんが、他の鳥たちと違って換羽をしないので、冬枯れの茶色の世界や雪に閉ざされた真っ白い世界にツンツンヘアの全身赤い鳥がいてくれると、そこだけ火が灯ったようになり、存在感に圧倒されます。

https://cottagelife.com/outdoors/wild-profile-meet-the-northern-cardinal/

雄の赤さは衝撃的ですが、私は、柔らかな栗色の体にところどころ赤味があり、濃いオレンジ色の嘴を持っている雌が好きです。顔から喉のマスク部分もチャーコールグレーなので優しい印象です。ツンと立っている冠羽もちょっとだけオレンジ色で控え目。態度も雄のように横柄ではありません。(笑)

巣作りのための草を咥えているメス     ©Dan Lory
メスの背後から     ©Dan Lory

うちのフィーダーに来る雌雄のNorthern Cardinalは、二軒お隣のお宅にある常緑樹に住んでいるようで一年中見ることができます。Northern Cardinalは、一度つがいになると死ぬまで一緒に暮らすようで、餌を食べに来る時もほぼ一緒に来て仲睦まじいのがよくわかります。

ある年、我が家の庭の木の茂みに毎日何回もオスとメスが出たり入ったりしていたので覗いてみたら、Northern Cardinalの雛がいました!いつも来ているつがいの子たちで、もう嬉しくて、嬉しくて。次の日、巣の中の雛を見ようと思ったら、影も形もなくなっていました!!前日に見たのは幻だったのかと思っていたら、夫が野良猫が見つけて食べてしまったんだろうと言ったのでビックリしました。よくあることだそうです。愛猫家の方には申し訳ありませんが、小鳥たちにとって猫は大敵なんです。小鳥を守るために、くれぐれもお宅の外には出さないようにしてくださいね〜。(涙)

Northern Cardinalの雛たち     ©Dan Lory     

閑話休題。春のように暖かい日があると、このNorthern Cardinalが樹の梢にとまって、澄んだ美しい声で鳴き始めます。私は声を頼りに赤い鳥を探し、Northern Cardinalに「ありがとう!春を知らせてくれて。」とささやきます。是非All About Birdsのここで鳴き声を聞いてみてください。長くて寒い、暗〜い冬の後、柔らかな日差しを感じながらこの透き通った綺麗な歌声を聞くのがどれほど嬉しいことか!

梢にいるNorthern Cardinalのオス     ©Dan Lory

アメリカに生息しているsongbird (鳴禽)の雌はほとんど鳴きませんが、Northern Cardinalの雌は鳴くんです。時々雄とデュエット (上から5番目のDuet)をするんですよ。こんなきれいな歌声をシカゴの大都会の住宅街で聞くことができるなんて、なんて贅沢なんでしょう!

皆さんにも是非一度この歌声を聞いてもらえることができたらと思います。


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