見出し画像

「GUNDA」が暮らす農場が風刺する、人間社会のあるシステムとは? 森直人(映画評論家)×町山広美(放送作家)が徹底解説! トークイベントレポート

名優ホアキン・フェニックス(エグゼクティブ・プロデューサー)と“最も革新的なドキュメンタリー作家”ヴィクトル・コサコフスキー監督がタッグを組んだ『GUNDA/グンダ』が、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか絶賛上映中です。公開直後のSNSでは「今年のマイベストを揺るがす大傑作」「母ブタGUNDAは主演女豚賞もの」「音楽もセリフもないのに、そこにドラマが浮かび上がってくる不思議な体験」「ラストシーンに今年1番くらいの震度で胸を揺さぶられた」と絶賛の感想が相次ぎ、“今年のベスト候補作”として映画ファン必見の作品です!
この度、公開を記念して、12月12日(日)新宿シネマカリテにて、森直人さん(映画評論家)、町山広美さん(放送作家)によるトークイベントを行いました。映画界のとある潮流や本作をより楽しめる“ブタ”の生態豆知識、そして本作が風刺している人間社会のあるシステムについてなど、映画評論家に徹底解説していただきました!

◇ ◇ ◇

想像力でいかようにも解釈できる“開かれた映画”


森:とにかくすごい映画だな、と。名だたる映画作家が絶賛しているので、ハイブローで教養を求められる映画なのかなと思いきや、すごい精度でありながら難解さはありません。こちらの想像力でいかようにも解釈できる、開かれた映画ですよね。
この時代には、いくらでも足して、いかようにも加工できる映像技術がありますが、いま意欲的な映画監督はどんどん引き算する傾向にあるのではないかと。例えば、ヴィクトル・コサコフスキー監督の前作『アクアレラ』(18)はカラー&音楽ありで撮っていたのが、本作では音楽も色彩もなし、と要素を削ぎ落としています。その分、動物の動きや些細な音にものすごく集中できるようになっている。同様にアルフォンソ・キュアロン監督(偶然にもコサコフスキー監督と同じ1961年生まれの同世代監督)が、『ゼロ・グラビティ』(13)というハリウッド超大作を撮った後に、モノクロのアートシネマ『ROMA/ローマ』(18)を撮ったことがすごく象徴的な流れのような気がします。要素をどんどん引いて映画の精度を高めていく。今のデジタル技術を駆使して、映画史の初期にやっていたような表現をもう一度試みているのが、めちゃくちゃ面白い。本作もその一つの中にある大きな成果のように思います。

町山:いま映画を観終えたみなさんは、すごく耳が良くなった気がしているのでは。韓国映画を観て、韓国語を喋れる気になるように、ブタの言語が分かるような感覚がありました。撮影する際は小屋に8本のマイクを仕込んでいたそうですが、音のバランスにはとても凝っていると思います。劇場の閉ざされた空間で、この音だけを聞くという体験が良いと思うので、DVDや配信ではなく劇場で観ることをおすすめましますいろんな映画監督が要素をあえて減らしているのは、劇場で観ないと良さを体験できない映画を目指すという理由もあるかもしれないですね。

イベント写真_③

“私たちのメリル・ストリープを見つけた”

町山:「音」といえば、ブタはすごく耳がいいらしいです。そういう意味でもブタの感覚に近づいたような気にもなりますね。嗅覚も犬以上に優れていて、麻薬探知ブタもいるほど。視力はあまり良くないそうですが、本作をモノクロで描いたことの理にもかなっているかもしれませんね。ちなみに牛は色彩を2種類(青・緑)で識別していて、鶏は紫外線が見えるからいろんなものが発光して見えるそうです。

森:色彩は人間中心主義の見え方とも言えますね。

町山:人間の視覚や聴覚は自然全体でいうと一部でしかない。本作を観ていて動物の仲間になった気がするんですが、ラストシーンで母ブタGUNDAと目が合う瞬間に、「あ、自分はあくまで人間なんだ」と気づかされて、突然突き放される感覚がありました。あれは衝撃的です。

森:まさに本作には共感と断絶がありますよね。

町山:あと、GUNDAが子ブタを踏みつけるシーンがありますね。知能が高いから、昔の日本でいうところの“間引き”のように、痩せて弱った子をあえてつぶしたのか、間違えたのか…でも実際、養豚場では圧死が良く起こるから母と子を離したりするらしいですよ。アリ・アスター監督が褒めているのは、このようなシーンを序盤早々に見せてくる部分なんじゃないかという気もしたり(笑)。

森:本作を絶賛している監督が、ポール・トーマス・アンダーソンにアリ・アスターに、結構ゴリゴリな方々なんですよね(笑)。単にいい物語ではなく、自然の残酷な摂理をしっかり映していることも理由のひとつかもしれません。
そして、映画はある種、俳優のドキュメンタリーでもあると思いますが、その意味ではGUNDAの「非演技」の演技力というものを感じました。ホアキン・フェニックスは、俳優としては無双状態の方なので、もう動物にしか嫉妬できないのではないかと(笑)。リサーチのために農場を訪れた製作陣がGUNDAと対面した瞬間、”私たちのメリル・ストリープを見つけた”と言ったという話があったぐらいですから。

あの名作“ブタ映画”とのある共通点とは?


町山:ブタ映画といえば『ベイブ』(95)ですが、よくよく考えたらどちらも名前がタイトルで出産シーンから始まるんです!続編『ベイブ/都会へ行く』(98)を『マッドマックス』シリーズのジョージ・ミラーが監督していますが、観直してみるとあれも知らない土地に行って帰ってくる話で、ほぼ「怒りのデスロード」のような(笑)。また、「GUNDA」はギリシャ神話でいうとアテネ・闘争の女神ですね。なぜそういう名前にしたんだろう。

森:確かに『GUNDA/グンダ』もある意味、行って帰ってくるという点では一緒かもしれない!


イベント写真_②

人間が敷いたシステムの中で生きている動物たちの物語


町山:実はそもそもブタという動物自体、イノシシが家畜化された動物なので、ある意味で自然ではないのですよね。

森:しかも農場が舞台なので、人間が敷いたシステムの中で生きている家畜たちの物語なんです。よく見ると耳にプレートが付いていて、要は奴隷です。それが一種の風刺性を感じたりもします。見方によっては、システム下に生きる我々とも重なるのではないかと。

町山:ブタは多産に作られていて、2年で約5、6回ほど出産します。おそらく彼女はまた出産を繰り返すのだと思いますが、彼女がそれを望んでいるのかはわからない。

森:とても皮肉ですね。一時、某政治家が女性を「産む機械」と発言し炎上しましたが、それが人間の食育システムのなかで行われていて、我々はそれを甘受しているのだということが掘っていくと見えてくる。そして、コサコフスキー監督はベジタリアンだそうですが、エグゼクティブ・プロデューサーのホアキン・フェニックスもヴィ―ガンとしてすごく有名です。ヴィーガンのプロパガンダ映画ではないけれども、本作にはその心象がにじみ出ていますよね。

町山:でも例えば、ブタを食べることを人間が止めたときに、ブタはその後いったいどうなってしまうのでしょうか。人間が家畜化するために改良した動物だから簡単に自然には放せないし、外来種問題もありますね。

森:改めて、この映画が描いているものってすごく切ないですよね。この農場のシステムの中でしか生きられない動物であり、でも自由を求めてもいますから。

◇ ◇ ◇

母ブタ“GUNDA”と農場に暮らす動物たちの深遠なる世界。
イマジネーションを刺激する【93分】未踏の映像体験。

ある農場で暮らす母ブタ GUNDA。生まれたばかりの子ブタたちが、必死に立ち上がり乳を求める。一本脚で力強く地面を踏み締めるニワトリ。大地を駆け抜けるウシの群れ――。迫力の立体音響で覗き見るその深遠なる世界には、ナレーションや人口の音楽は一切ない。研ぎ澄まされたモノクロームの映像は本質に宿る美に迫り、驚異的なカメラワークは躍動感あふれる生命の鼓動を捉える。ただ、そこで暮らす生き物たちの息吹に耳を傾けると、誰も気に留めないようなその場所が、突如 “無限の宇宙”に変わる――誰も観たことのない映像体験が待ち受ける。
斬新な手法と叙情豊かな語り口で描かれる映像詩に、名優ホアキン・フェニックスがエグゼクティブ・プロデューサーに名乗りをあげ、世界の名だたる映画作家たちが大絶賛!これまでに国内外で100 以上の映画賞を受賞し、“最も革新的なドキュメンタリー作家”と称される、ヴィクトル・コサコフスキー監督渾身の傑作ドキュメンタリー『GUNDA/グンダ』をスクリーンで体感せよ!


ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにて
全国上映中!

【公式SNS】 Twitter / Instagram / Facebook 

【公式サイト】https://bitters.co.jp/GUNDA/



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?