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納豆、BEEF(ビーフ=罵り合い)、熱海、水俣曼荼羅_m

GW前半は晴天だった。

某日。母と桂文珍独演会。文珍は「らくだ」を1時間近くやってくれて、愛嬌がありサラッとしていてわかりやすくってよかった。

あさ、納豆の白いトレーの端に箸で穴を空けて、そこから納豆のうえにひいてあるビニール部分を抜きだすと、納豆つぶがビニールにつかなくってよい、というtwitterでみた小ネタを披露したところ、「すごい、だれが考えたんだろうね?」と、伊藤家の食卓(昔やってた裏ワザ紹介のテレビ番組)的な薄い反応が得られ、大いに面目をほどこした。

さいきん、すべての会話をtwitterで見たネタを繰り出すことで乗り切っており、同タイプの人物と対峙すると、「さいきんtwitterで見たんですけど」「あ、それ」「私も見ました」「これも」「あ」「見ました」「よね~」「やだー、同じのみてる」とタイムライン第2会場となることがままあり、人間はすでに終了し、息をしているのはbotだけなのではないかという疑いが濃厚だ。

もうすこし深みのある会話をしてみたいが、加速する現代社会において記憶の在庫はナッシング。陳列棚に並んでいるのはtwitterで見た他人の小ネタばかりであり、「そこになかったらないですね」という100円ショップの無情な店員の声が頭にこだまする。めいくあめりかぐれーとあげいん。

めいくあめりかぐれーとあげいん、ということで言うと、主要キャラクターがほぼすべてアジア系アメリカ人ってことで話題のnetflix配信作品「BEEF(ビーフ)」を一気見してしまった。みんな大好きスティーヴン・ユァン(「ミナリ」「バーニング」「ノープ!」)が今回もいいぞ。

アメリカの「勝ち組」のヤヴァさかげんが見どころの一つとなっている本作だが、中でもほぼ唯一の白人主要キャラである大金持ちのジョルダンの精神的荒廃っぷりがすごかった。アメリカの金持ちにだけはなりたくない。

ビーフ、ということで言うと、昨日◆さんと熱海にいったんだが、その途中で入ったラーメン屋でお店の人同士がガチで”ビーフ”をやっていて、いたたまれない思いでラーメンをすすった。

どうも、黒い服のニヒルな男性+おかみさん、体育会系金髪男性+その舎弟、の2陣営に分かれ、接客方針とかで意見があわないらしくて、お互いに「頭がおかしい」と言い合っている。ときどき、「もうよしな、やりすぎだよ」とおかみさんが静止に入るんだけど、お客さんを巻き込んで、「あの”だしがら”が、ぐじゅぐじゅ変なこと言ってごめんなさいね(だしがら、というのは罵り言葉らしい)」「びっくりしたでしょ、あのバカが、お茶も出さないで」などと言い合っている。「もういい加減にしろ、きちがいが」と絞り出すように黒服から、「うちの店、グーグルマップになんて書かれているか知ってるか? "見世物小屋"って書かれているんだぞ!」と悲痛な叫びが漏れた。

見世物小屋か……なるほど、それはつらいな。
チャーシューの脂身が胃を重くし、ぐったり疲れた。

熱海は伊豆山神社と「走り湯」が目的で行った。しおっからくて、すこしみどりがかった、よき泉質。途中で入ってきたおばあさんから話しかけられ、近くの旅館で何十年も仲居さんをしていたが足を悪くして引退したこと、最盛期は600人も泊ったこと、北海道の「ぽつんと一軒家」のような4㎞四方になにもないド田舎出身ということ、心臓にペースメーカーが入っていること、足は2回、眼を2回手術していること、歯は一本もなくしていないのが自慢であること、姉の娘が自殺したこと、つい先日親類が牛に蹴られて亡くなったことなどを聴いた。牛は慣れていれば大丈夫なのだが、その人とはしばらく会っていなかったため顔を忘れていての悲劇だそうだ。

北海道から一体どうして熱海に、など聞いてみたいことはいろいろあったが、このまま聞いていると1時間コースになることは必定ゆえ、ほどほどに切り上げて、「おたがいに健康を大事にしましょうね」と言い合って別れた。外に出て歩いていると汗がどんどん出てきた。

自分の身体のことと、人生でもっとも衝撃だったことを数分のあいだに話してくれるおばあさんはけっこういる。そのことばかり考えているんだろう。いつもそれが陳列棚に並んでいるのだろう。

走り湯は源頼朝も政子も実朝も入りに来ていて、実朝は3つ歌を残している。

少し歩くと水害で土砂崩れが起きたところに出くわす。立ち入り禁止ロープが張られ、のぞくと、津波の爪痕とそっくりで、家の土台だけ残した遺構、折れ曲がった道路標識、ひしゃげてつぶれて骨が見えた鉄筋コンクリートなどが見える。あとワンブロックで伊豆山神社も走り湯もつぶれていたという場所で、こういうところで土砂崩れが起こるなんて誰も想定していなかっただろうと思う。

今日は、平井の小松川区民ホールでやっている「メイシネマ祭 '23」で、原一男監督の「水俣曼荼羅」を見てきた。6時間12分(あいだに2回休憩を挟む)。だけどまったく飽きずに引き込まれて集中して見てしまった。

メイシネマ祭は27年以上続く手づくりの老舗映画祭なんだそうだ。初めて行った

ニコーッ ニコーッ と音をたてるような笑顔がすごいのであるが、笑顔が笑顔なだけではないことがいろいろな場面で語られている。

第1部、「病像論」を糾す、だけでもう、びっくらこいて腰を抜かしてしまったので、時間がない場合は第1部だけでも見たらいいが、これまで水俣病は末梢神経障害だとされてきたが全くちがって、有機水銀は脳機能を侵す、ゆえにこれまでの8割の患者認定されず酷い場合は詐病扱いされてきた人たち、これは末梢神経障害用の検査をしていたからで、正しい検査をすれば未認定の患者の方こそ、むしろ典型的な水俣病患者ということになるんだそうだ。これは素人目にもすべてが符合して、真実そうに思えるんだけど、これを30年かけて調査して証明したお医者さんは医学会からも行政からも村八分にされているんだそうで、まったく報道もされていない。

こちらのインタビューがくわしく、また映画の「その後」を知ることができて面白かった。
映画『水俣曼荼羅』で描けなかった大切なこと 監督・原一男氏へのインタビュー
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/23272


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