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元マネージャーが戦略的にランチを奢りまくった先にあったのは大量離職だった

私は日本でもそこそこ有名なインターネットメディア事業をやっている会社に勤めていたことがあります。
そこは経営層であるオーナー社長と創業メンバーが事業の中核を担う部門を抑え、経営層が苦手とする部門を転職組で固めているような組織でした。

私はIT部門のマネージャーとして入社し、会社の序列でいうとNo.3のポジション。
注目度抜群の大型新人という扱いでした。
「ボロボロになっているIT部門を立て直して欲しい」という社長からのミッションを受けていたため、直ぐに成果を出さなければいけないという責任ある立場でもありました。

IT部門がどのくらい酷かったのかというと、こんな感じでした。

  • 15年以上前のコンピューターが現役稼働していて一度もOSアップデートがされていない

  • ハードウェア周りが原因のサービス障害が頻発している

  • バックアップや監視システムが正常に動いていない

  • 人的リソース不足や技術不足が原因で他部門からの依頼はほぼ止まっている

  • 他部門からの信用が一切なく社内の関係性は最悪

そんな中、入社二日目にして大規模障害が発生。
まだシステムやネットワーク構成図も見ていない状態だった私は、社内の皆が右往左往しているのを見ていることしかできません。
事の成り行きを見守っている中で大きな違和感に気付きました。

「事業責任者は何してるの?」

サービス障害の陣頭指揮を行っていたのは開発グループのリーダーで、社長は会社におらず事業責任者は自席でカタカタと社長に報告のチャットを入れているだけという異様な状況。
大きな問題意識を感じた私は、何も分からない状態なのに声を上げて、開発リーダーを補佐する形で首を突っ込み始めました。

数十分後、サービス障害の原因はデーターセンターにあるネットワーク機器だと判明。
それを見つけたのは、まだ何も知らないはずの私でした。
すぐにメンバーと一緒にデーターセンターへと行き、障害対応に着手。
その後すぐに大規模障害はあっさりと解決へと向かいました。

この一件で分かったことがありました。
社長はほぼ会社に居ない。
事業責任者は機能していない。
あの時、サービス復旧に尽力していたのはIT部門だけだったという事実。
IT部門がボロボロだった訳ではなく、実態は組織がボロボロだったということ。
つまり問題の本質は、現場ではなくて上層部にあると感じたわけです。

この会社を良くするためには何が必要なのか。
少なくとも私がいる間はまともにしたい。
ここで私はそれを実行するための戦略を練りました。

まず私が感じた違和感、上層部が問題という疑惑を確認する必要があるなと。
そのためには、周りからの証言が必要です。
正しい情報がないと適切な対処はできません。
思い込みだけで動いた結果、間違った方向に行ってしまうというのはよくある話です。

しかし、入社したばかりの私は周囲からの信用はゼロ。
嘘偽りない本当の情報に辿り着くためには、周りからの信用を取り付けることから始めないといけないわけです。

では、どうやって信用を得ていったのか。

一つは仕事を誠実にこなす姿勢を見せ続けること。
これは業務時間内に精一杯頑張るだけです。

もう一つは、信用してもらえる関係性を築くこと。
これはタイトルにも書いてあるように、ランチを自腹で奢りまくるという戦術を取りました。
ここでポイントとなるのが、どうやったら効率的に信用してもらえるかということです。

大人数で会食としましょう。
みなさんも経験があるとは思いますが、参加メンバーの共通する事柄がメインの話題になるため、基本的に深い話にはなりません。
仮に大人数で深い話をしたとしても偉い人が一方的に話すのみで、それを聞いている全員から細かい反応を受け取ることは難しく、結果として薄い体験になってしまいます。
つまり、信用度が貯まりづらい会食は可能な限り避けたいわけです。

そこで私が基本としたのは、一対一でのランチでした。
例外として認めるのは一対二まで。
その場合は相手が同じチームや同じ職種などの共通の属性を持つ場合のみ、という自分なりの制限を設けていました。
誘う人物は部門やチームの中心人物から始め、次に頭角を現しそうな人物を抑えていく感じで、次々と社内メンバーをランチへと誘って行きました。

何を話していたのかというと、内容はとてもシンプルです。
仕事の悩み相談を軸にした愚痴聞き、あとはアドバイスの二つだけでした。
週に三日以上は誰かにランチ代を奢り、悩みある人の相談に乗るということを延々と繰り返しました。

この効果はすぐに表れ始め、上層部が原因の組織課題が各所で起こっているという事実を掴みました。
そして一ヶ月が経過する頃には、業務時間内に他部署から相談を受けることが増え始め、更に一ヶ月ぐらい経つと、私とランチに行っている人達が徐々に影響力を持つようになりました。
社内の重要メンバーから貴重な情報が私のところに集まる、そんな環境が出来上がったわけです。

最初は私が奢るだけだったランチでしたが、一部の人からは話を聞いて欲しいと逆に奢り返されることもありました。
悩みを抱えている人は雰囲気で分かるので、そういう人には優先的に声を掛けていたのもあって、私がエレベーターホールにいくのを狙って追いかけてくる人も多かったです。
そんな地道な活動が徐々に広がり、信用できる人物という話が周囲に伝播していきました。
その結果、あり得ないくらい仕事がやりやすくなっていったんです。

「社長がこう言ってた」と言うと意見が通りやすくなる会社は多いですよね。
それは社長に大きな権力があるからなんですが、私はランチを奢るというのを起点として周囲からの社会的信用を得て、社内権力を握ることに成功しました。
その結果、「びじさばが言ってた」「びじさばが言っていることは正しい」という言葉が至る所で発生。
最終的には、私がその会社の精神的支柱と多くの人から言われるようになりました。

本来は経営陣がそう言われるべき存在なのですが、入社半年くらいの人物がそのポジションを奪ったわけです。
まともな会社であれば、こんなに簡単に周りから信用を得ることはできません。
冒頭のやり取りを見てもらうと分かる通り、経営陣が従業員から信用されない行動を日々行っていたことが一つの要因になります。
そういう境遇に耐えかねた人達が一気に私を推し始めたこともあって、社内権力の急激な変化に繋がったのでした。

この状況になると私の改善提案に反対する人は経営層含めてほぼいません。
なので、緊急課題の中から早急に直せる範囲をバシバシと解決していきました。
これは私を支持して動いてくれた多くのスタッフの賜物でもあります。

ここで一つ注意しなきゃいけないことがあって、それは天狗にならないこと。
社内の人気を集めて影響力を手に入れたからといっても、会社の全てを掌握したわけではありません。
株はオーナー社長が過半数以上を持っていて、人事権も私にはないので、経営陣や役職者を変えるといった強硬策はできません。
どんなに頑張っても人の会社なので、やれることは限られてるわけなんですよね。

そろそろまとめに入りたいと思います。
社長の勅命であったIT部門立て直しも成功し、最初に挙げていたIT部門が抱えていた大きな課題は全てクリア。
5年はシステム更改の必要もないという状況を作り上げ、この会社での役目を終えたと感じて退職の意志を社長に伝え、皆に惜しまれつつ私は退職しました。

まだタイトルの大量離職という部分を回収してない、と思われている人もいますよね。
なので敢えて書いておきます。

察してください

これは自己紹介の方にも書いてあることですが、創業期から従業員として今もその会社で働いている私の元部下曰く「私が居た時代が一番幸せだった」と今も語り継がれているとのこと。
そんな感じでこの話は終わりになります。

びじさばの自己紹介記事はこちら。

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