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日本電産

~日本電産 永守会長のパワハラ老害支配~

日本電産株式会社は、精密小型モーターの開発・製造において世界一のシェアを誇るメーカー。現在のようにM&Aが一般的になる遥か以前、1980年代初頭から積極的に企業買収をグローバルで展開。「回るもの、動くもの」に特化し、技術・販路を育てあげるために要する「時間を買う」という考え方に基づいたものであり、現在約300社もの連結子会社を擁する。直近(2022年3月期)の連結売上高は1兆9,181億74百万円、連結従業員数は114,371名の大企業グループである。

代表取締役会長・永守重信氏は28歳のときに日本電産を創業し、1代で世界トップシェアの大企業に育て上げた名物経営者だ。2014年、日本経済新聞社が実施した「平成の名経営者ランキング」において第1位となったほか、同年の「日経ビジネス」誌で発表された「社長が選ぶベスト社長」ランキングにおいても第1位を獲得している。

永守氏のM&Aは、優秀な技術を持つが経営不振に陥った企業を買収し、子会社化して再建させる手法で知られる。人員削減はおこなわず、永守氏が個人で筆頭株主となり、同時にその会社の会長にも就任して、直接経営陣を送り込むことで再建していくのだ。実際、買収した会社はほぼ1年以内に黒字化させている。

永守氏が常に標榜している経営哲学は「情熱、熱意、執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」の3つだ。買収先企業の再建にあたっては、まず意識改革、企業カルチャーを変えることを求める。さらには、競合企業が追随できない圧倒的スピードを求めて実践させていくのだ。たとえば同社がM&Aした芝浦製作所(現・日本電産テクノモータ)の再建に際しては、「1年以内の売上高倍増」、「営業マン1人当たり訪問件数月100件」を要求。従前は月20件だったところを100件に上げれば、受注件数が増え、売上高は上がり、従業員全員がやる気になるという構図だ。また、見積作成も試作品作成も競合より短期間で仕上げ、それらのアクションを徹底するカルチャーにすることで、競合はスピードについてこられなくなる。そして、競合が脱落しても手を抜かずスピードを継続する。これら一連の感覚が、組織DNAとして染みついているわけだ。

「すぐやる」がスピードなら、「必ずやる、できるまでやる」は目標未達成(未達)を許さないカルチャーと、達成のためにあらゆる準備とアクションを起こしていく、組織全体でのフォロー体制に現れている。未達は不可というカルチャーが浸透しているため、そもそもの段階で必達するための計画と準備を周到におこなうし、計画達成が微妙になったとしてもすぐに諦めることなく、「新規客への拡販をやろう」「既存客に全く別の切り口から提案しよう」といった形で、現場で様々な考えを巡らせて挽回のためのアクションを起こすようになる。このようなフォローの仕組みによって、個々の社員が日常的な業務管理を主体的にできるようになり、強靭な体質に繋がっていったのだ。

永守氏は過去のインタビューにおいて、常々「仕事が一番楽しい」と答え、1日16時間、年間365日、元日の午前を除いて働くというスタイルを公言していた。また「社員全員が休日返上で働く企業だから成長できるし給料も上がる」と、同社の成長の原動力が従業員の「ハードワーク」にあるとの認識で、業績とは裏腹に、労働環境の過酷さはかねてより懸念されていた。しかしM&Aした海外企業での見聞を通じて、永守氏は生産性を重視する方向へと考え方を変え、将来の残業ゼロを目指すことを宣言。2015年下期から働き方改革の取組を開始し、その直後から次のような目覚ましい成果を挙げている。

・働き方改革着手から1年弱で残業時間が半減
・2017年には在宅勤務制度や時差勤務制度、時間単位年次有給休暇制度導入。働き方改革への「1,000億円投資」宣言
・日本電産トーソクではわずか4カ月の改革で、社内会議の件数や時間が
4割減から半減
・日本電産コパル工場ではロボットの導入などで樹脂部品部門の従業員数約半減、現地駐在技術者数は1/3に

また創業以来、カリスマ経営者である永守氏が常に先頭に立って組織を率いることで急成長を遂げる中で、有価証券報告書では「永守氏への依存」が事業リスクとして明記されるほど、後継者問題が深刻であった。それも2021年6月、日産自動車副COOの経歴を持つ関潤氏がCEOとなり、新型コロナの感染拡大や米中対立といった未曾有の環境下でも、日本電産の業績を成長させることに成功。先日7月20日におこなわれた決算発表では、過去最高益をマークしたと発表している。

…と、ここまでが世間で知られている日本電産の「表の面」である。しかし、同社の内情は大きく異なるようだ。実際、生え抜き社員や幹部社員を中心に離職が相次いでおり、永守氏から幹部宛には「休むなどもってのほか」といった、働き方改革以前に逆戻りしたかのような滅私奉公を求める指令が出されているという。永守氏の経営判断ミスによって損失が発生したにも関わらず、それを幹部社員の責任として押し付け、役員から現場へとパワハラの連鎖も発生。「組織崩壊の危機」にあるとして、今般同社を退職した元部門責任者A氏から筆者宛に告発があった。今回はA氏からヒアリングした内容を基に、同社内の現状をお知らせしたい。

永守氏は関氏にCEOの座を譲り、自らは会長に退いたが、それから1年も経たない本年4月、関氏をCOOに降格したうえで自らCEOに復帰した。永守氏の言い分としては、「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」といった企業文化が、関氏を迎えて以降崩れてしまい、収益が出なくなったというものであったが、市場ではこれを「事業継続リスクの再発」と嫌忌し、株価は低下してしまった。自分がCEOに復帰すれば株価が回復すると信じていた永守氏にとっては大きなショックであったという。A氏は語る。

「株価低迷の理由はやはり後継者問題。永守依存体制から脱却できていない事に対する市場の評価だと思います。加えて成長の鈍化、人材の流出や内部崩壊など数多くあります」
「永守のスタイルは昔から変わりませんが、株価低迷に対する焦りを感じます。とにかく株式時価総額ランキングへの拘りが強く、なんとか株価を回復させるために業績回復に躍起になっています。なりふり構わぬ人事や罵詈雑言が増えました。人は離れ負のスパイラルに陥っています」

人心が離れている原因は多々あるが、大きな要素として「モーレツ経営による疲弊」「パワハラの連鎖による離反」「永守氏の指導力と求心力の低下」が挙げられる。

まずモーレツ経営について。2018年前後、同社の働き方改革における成果が各種メディアで大いに喧伝されていたが、どうも実態とは食い違いがあるようだ。

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