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ムーミン谷の彗星*・*スナフキン初登場回*・*

ムーミンとの"再会"

ムーミンは可愛らしい見た目から
好感を持っていましたが、ムーミンの性格や
物語には触れたことがありませんでした。

幼い頃から知っていたムーミンを、
改めて知りたいと思ったきっかけは
墓場のラジオというPodcastです。

ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの半生を描いた
映画『TOVE』について話している回でした。

トーベ・ヤンソンの人柄を知り、
彼女が生み出したムーミンは
どんな心を持っているのだろうと興味を抱き
大人になった私とムーミンが再会した瞬間です。


POPUP SHOPムーミン谷の不思議な住人たち


昨年末イオンモール徳島で開催されていた
POPUP SHOPムーミン谷の不思議な住人たち
に行ってきました。

私は可愛いらしいグッズの中から、
サコッシュと一冊の本を購入しました。
タイトルと裏表紙のあらすじを読み直感で決めた
ムーミン谷の彗星です。

今回購入したのは文庫サイズの翻訳版で
原作は1946年発表の作品になります。
約230ページありますが、
私は高速バスと飛行機の移動時間
(4時間ちょっと)で読めてしまいました。

挿し絵の可愛らしさと、
ときに柔らかく、ときに臨場感のある
翻訳の文章表現に引き込まれます。

とはいえ彗星が衝突するという物騒なお話し。
ムーミンをはじめとした可愛いフィルターを通して
微笑ましい描写になるお話しも、
これが人間だとしたら楽しく読めるのでしょうか。

彗星が衝突すると知ったらどうする?

彗星が地球に衝突すると知ったら、
私はどうするだろうと考えました。
どこにいても助からないのなら
おそらく大切な人に会いに行って、
最期の時まで一緒に楽しく過ごしたいと思うはず。

作中のムーミンのパパとママは、
ムーミンとスニフを天文台まで旅に行かせました。

彗星が衝突するという噂を広めるネズミが
ムーミン家に現れ、一緒にいると不安を煽るだけで
悪影響だと判断した結果です。

旅の途中で出会ったスナフキンは、
彗星というものを大体知っていました。
しかし自分の欲は一切なく、
ふたりの旅をサポートし始めます。
彗星がこようとくるまいと、
みんなが良いようにしたいという気持ちでした。

昆虫学者のヘムルは、
昆虫にしか興味がありません。
彗星には赤くて長い尾があると説明すると、
昆虫の一種だと勘違いします。

天文学者は、彗星は日に日に大きく
美しくなると嬉しそうに話します。

スノークのお嬢さん(ムーミンの彼女)は、
彗星よりも失くしてしまった足輪のことを
気にしています。足輪が見つかってからは
自分の前髪を気にしています。
でも彗星の話になると耳を背けるので、
少しは怖いという感情もあるようです。

スノーク(ムーミンの彼女のお兄さん)は
彗星に興味はあるものの、
彗星に関して議論をすることが好きなようです。
彗星抜きにしても、議論するのが好きなのです。

ニョロニョロは長い行列をつくり、
地平線を睨んだまま東へ向かう様子です。

切手好きのヘムルは切手整理に夢中でしたが、
彗星が衝突すると切手は残らないと知り
助かる術を求めてムーミン達と一緒に行動します。

旅の途中で会うキャラクターは、
彗星と聞いて慌てふためく様子がありません。
理由は様々ですが
自分の信念をしっかり持っています。

そんな彼らに感じる安心感と危うさは
私の心を揺さぶり、
最期の過ごしかたを問いかけました。

じわじわ迫る恐怖


ムーミン達は天文台へ行き、
彗星なんて近づいてなかったことを知ります…
というハッピーな話しではありません。

確実に彗星は地球に迫っています。
その描写はほとんどの人類が
味わったことのない恐怖だと言えるでしょう。

赤い彗星によって空は赤く染まり、
気温が上昇し川の水が干上がります。
ムーミン達の旅の食糧も底をつきはじめました。
全10章の物語の中、最後の最後に彗星が衝突するまでじわじわと地球環境が悪化していきます。

木の葉は悲鳴をあげ
どす黒い雲からは大つぶの黒い雨がぱらつく
川の水は空と同じようにどす黒い
赤い空の中へ黒ずんだ太陽がすべりこみ
だんだん暑くなってくる
もはや一羽の鳥もうたわなくなっていた
海岸で見られるものがなんでもあるのに、海がない
湯気が立ち、くさったようないやなにおいがする
風がなくおそろしく暑い日、彗星はとほうもなく大きくなりムーミン谷めがけてやってくるのがはっきり見てとれた。
彗星のまわりのほのおは、強く白く光っていた

以上は、彗星接近による自然の変化を
描写した表現の一部です。
時系列で紹介しているので
じわじわと迫る恐怖が伝わると思います。

作者のトーベ・ヤンソンは
第二次世界大戦を経験しているので、
戦禍と彗星を重ねているような印象を受けました。
彗星を砲弾に置き換えても、
上記の表現は成立します。

ムーミン達は彗星の衝突をどう乗り越えるのか、
結末はぜひ原作を読んでいただきたいです。


スナフキン初登場


ムーミン達は天文台への冒険の途中で、
生涯の親友となるスナフキンと出逢います。
このムーミン谷の彗星は
スナフキンの初登場作品なのです。


いきなり名言連発


ムーミン作品をよく知らない人でも、
スナフキンが名言製造機なのは周知の事実。
初登場からスナフキンは名言を飛ばしており、
私がとくに響いた言葉をいくつかご紹介します。

彗星というのはね、ひとりぼっちの星で、
頭がへんになってるのさ。それで、尾をひきながら
宇宙をころげまわってるんだ。
ほかの星は、みんなちゃんとした軌道を
まわってるけど、彗星というやつは、
どこへでもあらわれるのさ
ムーミンとスニフに彗星とは何かと聞かれて
ぼくが、ここに住んでるうちはね。
自分で、きれいだと思うものは、なんでもぼくのものさ。
その気になれば、世界じゅうでもな
谷に落ちてるガーネットは君の物かとスニフに尋ねられて
なんでも自分のものにして、もってかえろうとすると、
むずかしいものなんだよ。
ぼくは、見るだけにしてるんだ。
そして、立ち去るときには、
それを頭の中へしまっておくのさ。
ぼくはそれで、かばんをもち歩くよりも、
ずっとたのしいね
ガーネットを持ち帰ろうとしたスニフがトカゲに襲われて
ぼくたちは、本能にしたがって歩くのがいいんだ。
ぼくは、磁石なんか信用したことがないね。
磁石は、方角にたいする人間の自然な感覚を、
くるわせるだけさ
ムーミンが天文台の方角を方位磁針で調べようとして
あれは、海の音だよ。貝が、海のことを思ってるんだ
スノークのお嬢さんが大きな貝の中から音がすることに気づいて


スナフキンは究極のミニマリストでありながら、
彗星など自然に対する感覚は洗練されていました。
余計なものを捨ててきたからこそ、
自然の美しさや温かさに気づけるのでしょうか。
その感性はなかなか真似できません。

やはり私は彼の言葉から、
真意を読み取って勉強するしかなさそうです。


スノークのお嬢さん(ムーミンの彼女)も初登場


ムーミン谷の彗星では、
スノークのお嬢さんも初登場します。
前髪のあるムーミンによく似た女の子です。

スノークのお嬢さんの足輪を拾ったムーミンは、
冒険で出会うキャラクター達から
彼女が足輪を探し回っていることを聞きます。
彗星が衝突するというときに、
足輪のことばかり気にする彼女に呆れつつも
惹かれていくムーミンがとても可愛いです。

この作品で、
ムーミンはスノークのお嬢さんのために
けっこう命をかけた行動をします。

そんなムーミンの気持ちが彼女に伝わり、
お互いにプレゼントを贈りあったりと
早い段階でわりと相思相愛です。
私が好きなふたりのやり取りは、
ムーミンの優しさを感じるこの場面です。

スノークのお嬢さんの平常色は黄色ですが、
その時々の感情によって身体の色が変化します。
彼女が、今の黄色い自分に似合う
むらさきの花がほしいと呟けば、
ムーミンはすぐに探しに向かいました。

その間にスノークのお嬢さんが
彗星のおそろしい姿を見てしまい、
身体が緑色になってしまいます。
そこへすみれの花束を持ったムーミンが戻ってきます。

スノークのお嬢さんが
「私が黄色だったらよかったのに、
このとおり緑色になってしまったのよ」

と言うとムーミンはすぐに
「ぼく、べつの花をとってこようか」
と答えます。

彗星が近づき川の水も干上がるなか、
スミレを花束ができるまで集めるのも
大変だったと思います。
それでも彼女を喜ばせるために、
自分の労力はいとわないムーミンが
純粋で愛おしかったです。


楽しいだけの物語ではない


私は初めてムーミン作品を読みましたが、
家族愛・友情・冒険・人生哲学・価値観など
様々な要素が詰まった物語だと感じました。
ちなみに、時々バトル要素もあります。

また、翻訳の文章がとても綺麗で表現が鮮やかです。

私がこの物語のヒントがある予感がしたのは
いよいよ明日、彗星が衝突するという場面での
ムーミンとスナフキン会話でした。

彗星って、ほんとにひとりぼっちで、
さみしいだろうなあ……
うん、そうだよ。
人間も、みんなにこわがられるようになると、
あんなに、ひとりぼっちになってしまうのさ


ムーミン谷の彗星は
ムーミン達の可愛らしさと不穏な描写が
交互にやってきて読者の心をかき回す、
楽しいだけではない感情が湧きだす作品でした。

次はムーミン谷の彗星のひとつ前の作品
小さなトロールと大きな洪水を
読んでみたいと思っています。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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