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『777』 トリプルセブン

ホテルを訪れたのは、逃走中の不幸な彼女と、とびきり不運な殺し屋――

伊坂幸太郎 

2024年の幕開け

地震のニュースがお正月特番を吹き飛ばした元旦だった。
一流芸能人なら一流の食事や音楽の違いがわかるはず、格付けする例の番組を見ようとしていたところに地震の速報が流れ、それ以降はどのチャンネルも警報と度重なる余震のニュースとなった。元旦から不運に見舞われた被災地の方々が寒く不安な夜を迎えていくことを想像し憂鬱な気分になる。自分と同じく久々に帰省し、夕食に何を飲もうかなんて相談しながら家族団らんを楽しんでいた家族も多かっただろう。
16時頃の地震だったが、総理は17時台には会見を開いており、いつものごとく大した実のある発言は一つもないものの、総理も元旦くらいは家族との団らんを予定していただろうに、と、総理含めて緊急対応で勤務している皆さんに頭があがらない思い。

2日、新千歳発は19時だったが、JetStarが年末からストをしていたので早めに空港に入る。問題なく飛びそうだったので、一幻ラーメンを食べる。一気に眠くなってきたので寝過ごさないように搭乗口にできるだけ近い位置で缶ビールを飲む。直前に新札幌でAさんから貰った伊坂幸太郎最新作『777』を読み始める。そうかなと思ったけれど、開いてみたらサイン本だった。

伊坂幸太郎さんを好きになったのは、海外ボランティアに行く前だったか、後だったか。間違いなく兄から勧められた本がきっかけだろう。伊坂ファンの例にもれず、『重力ピエロ』、『ラッシュライフ』、『オーディボンの祈り』の三部作にはまり、『ゴールデンスランバー』や『魔王』で衝撃的に大ファンになっていた。そのことを知っているAさんは、札幌から離れて今年で10年。どの国にいた時も、どこで入手しているのか伊坂幸太郎のサイン本を送ってくれた。

読み始めて数ページだった。ふと目線を上げた待合用の大きなテレビモニターに飛行機が燃えている映像が流れている。

ざわっ

周囲の人も目線をあげモニターをみつめる。映っているのは羽田空港。燃えているのはJALの旅客機。着陸した旅客機と海上自衛隊の機体が接触したらしい。中継画像では消防車が水をかけているが、火がみるみる広がっていく。
保安検査場にいた空港警察の人がモニター間近まで歩み寄り食い入るように画面を見つめている。
乗客が降りている様子は見えない。燃えている機体は、新千歳からの便との情報も流れる。まさに今、全員がモニターを見つめているこの空港にさっきまでいた人たちが乗っている。

「やばくない?」
「JALじゃん」
「羽田?」

乗客全員無事の模様との知らせに自分を含め周りから感嘆と安堵のため息が出る。胸にきてJALの知人にCAの訓練の賜物だねとたたえるLINEを送る。今日、東京に帰ることを知っている家族や友人から心配の連絡がくる。

TVのニュースは消化作業をうつしている。徐々に新千歳空港内にも羽田便の欠航を伝えるアナウンスが流れはじめる。冷静に本を読める感じではなかったが、1時間以上早く来ていたこともあり、アナウンスを聞きながら本を読む。羽田便が止まれば、成田便にも影響が出てくるだろうなと思いながら、目線を手元とモニターにいったり来たりしながら『777』を読む。

伊坂幸太郎の本はいつだって非日常的なストーリーだけど、今日は新千歳発羽田便の追突・炎上という映画のようなシーンを空港で見ているということもあり、殺し屋のストーリーすらノーマルに感じてくる。マリアビートルやグラスホッパーの流れの作品。
伊坂作品のギャングや殺し屋系の話では、登場人物ごとに場面が切り替わりつつ、いつの間にか場面がリンクしたり交錯したりと、じわりじわりと面白味が増していく。複数作品に登場するキャラもいてゆったり繋がっている感じもファンにはたまらない。極悪非道で胸糞悪いという言葉が浮かんでしまうキャラがいて、最後に逆転劇的にやっつけられる爽快感もある。

成田空港が混雑で着陸に時間がかかる恐れもあることから燃料を満タンにしていくとのことで約1時間ほど遅れて出発。羽田便は全便欠航。すでに出発していた機体すら新千歳に戻ってくるとのことだったので、飛んでくれるのであれば全然ありがたいし、なぜだか申し訳ない気持ちになりながら搭乗する。1機、2機の話ではなく、すべての羽田便の乗客、正月休み時期、みんなホテルなんて取れないだろうに。。。眠かったのが噓のように目がさえ、夢中で本を読む。
10時前には成田空港に着。電車に乗って引き続き読みながら、家に着く前に完了。

畑仕事をしていた頃、テントウムシとカメムシを見つけて潰せと命じられていたけど、7星テントウだけは生かしてよしと言われてた。7星テントウは害虫をやっつけてくれるらしい。7星テントウが草の先にとまり、薄い羽根を広げて、重たげな丸い体格に似つかわしくないくらいフワッと飛び立つ姿を思い起こす。



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