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不死身の杉元はPTSD? 【読書感想文】 キャラクターが来る精神科外来

★★★★★
Amazonでレビューしたものです

ルフィはADHD? エヴァのアスカはパーソナリティ障害!?
アニメや漫画・映画などの物語、歴史上の人物がもし精神科外来に訪れたら、どのようにアセスメントし、診断を下すかをテーマに全38のキャラクターを精神分析。
自治医科大学の医学生の診断レポートをもとに、教員が真面目に考察してみた。
精神科における診断のプロセスを楽しく学べる一冊。
精神科医のみならず、心理学に興味のある方にもオススメ。


1.コロナ禍で逆転のおもしろ講義


こちらの本は、2020年のコロナ禍で対面の講義ができなくなった自治医科大学において、オンラインに講義が移行した時に、実際に患者と接する機会の代用として、物語や歴史上の人物を精神科診断させる、というレポートをさせた記録のまとめになっています。

自治医科大学は栃木の大学ですね。
各都道府県から少数それぞれ入学して、地域に貢献するという大学だったと記憶しています。

こちらの精神医学講座のHPを見ると、筆者の須田先生も小林先生も教授でした。教授が複数いる講座のようです。平成8年卒の須田先生は、52歳ぐらい?

ちなみに偏差値は67とかで、学生さんも優秀です。

内容は、38人の歴史上の人物や創作の人物に対し、学生さんが精神科診断をつけ、それに対して先生が、対話形式やレポートに回答する形式で、回答指導を行うというものです。

精神科は病跡学という分野もあり、ちょっと推理っぽくて、面白い試みだと思い、話し言葉で読みやすく、楽しませていただきました。

2.診断がつくケース、つかないケース

取り上げられているのは38ケース。
全員は知りませんでしたが、有名人や有名な漫画や小説から取り上げられた人物が多く親しみやすかったです。

①クララが立った!

アルプスの少女ハイジのクララ。
我々世代には有名な”失立失歩の女王”ですが、今の学生さんたち若い人たちにも知っていてもらえたとは嬉しいです。
転換性障害の例えにとても利用しやすい例だと思うので、このまま女王で居続けてもらいたいものです。
ハイジは夢遊病になるのでしょうか、当時の子供達も病んでましたねえ。
下の名前ゼーゼマンだったのか、、知らなんだ。

②ASDのヒーローと歪む人格

DEATH NOTEからは、Lと月。
実は私、DEATH NOTE大好きです。日常生活で度々「ああ、DEATH NOTEがあれば、、(以下自粛)」と思って過ごしているのはここだけの秘密です。

元々正義感の強い優等生だった月が、人智を超えた力を手に入れることによって、徐々に傲慢な人格に変貌していく様子がよく描かれていました。彼の正義が全て間違っているとは私は思いませんが、周囲を見下し自分に反対する人間を粛清するのは違うでしょう。

一方、LはASDの典型例でありながら、天才的な知能、膨大な知識と観察と計算と推論により、他人を他人の立場で理解することが可能になっています。ある意味ASDの理想かもしれません。

③世界でゆらぐ正常

ゴールデンカムイの主人公・杉元佐一。

学生さんは、彼はPTSDと考えました。そして、

”杉元が殺戮を躊躇なく行えるのは、杉元自身「殺されるくらいなら殺してやる」という信念があるからと述べているが、私はPTSDの症状の感覚麻痺から本来人間が持っている理性という制御が利かなくなってしまったからなのではないかとも考えた。”

(p.103)

と書かれました。

それに対する先生の回答は、精神疾患には当たらない、というものでした。

”ここにみられるのがPTSDのフラッシュバックであるという診立てはいいと思いますが、DSM-5のPTSDの診断基準では、それによって社会的機能が障害されているということが必要とされています。フラッシュバックがあっても、「生命の危機に脅かされたときは自らを鼓舞して殺戮を行う」というか「生命の危機に対して、殺人も厭わない」という、この作品の状況設定においては合目的な行動がとれているので、昨日の障害を引き起こしていないといえます。躊躇なく人を殺せることがよいことかどうかは倫理的な問題ですが、躊躇なく人を殺すことが適応的であるという状況が、残念ながらこの作品の明治末期ばかりではなく21世紀になったって人の世にはあるわけです。”

(p.104)

他のケースでも、まずはその世界のルールを受け入れることから始まっていました。
その世界によって時代によって社会によって、常識や規則はそれぞれです。今の現代社会でも、国によって違うでしょう。
精神疾患の診断には、その世界、社会に適応できるできないがポイントになってくるところが、身体疾患と異なる点であり、わかりにくく興味深い点ですね。

3.創作の人物の精神病理


この本は、基本的には精神医学に興味のある医療関係者や心理関係者に向けられた本ですが、小説や漫画やアニメが好きな人にも、読んで面白いのではないかと思いました。
こう言った言動や性格の人はこう言った診断がつくと知っておくと、創作でも人物に深みが出るのだなとより興味が湧くと思いますし、このように診断をつけられるほどしっかりと人物を描かれた、作家の方々はすごいと思います。

そういう点から考えますと、
DSM-5のそれぞれの診断基準についての引用をChapterの最初に入れるなど、もう少し疾患と診断基準についての解説が別に入っていた方が、一般の人にも読みやすくなりそうな印象を受けました。(途中で先生が解説されていましたが、なぜ学生さんがそう思ったかが同じ条件の方がわかりやすいかなと)
どうせならDSMの順番のChapter順がわかりやすかったかもしれません。(そうすると内容が面白く無くなってしまうかもしれませんが)

また、実在の人物と、創作人物の両方を扱われていますが、実在の有名人はすでに色々考察がされている方がほとんどなのと、子孫がいる場合もあると思うので、創作人物だけの方が良いかと思いましたあ。想像も膨らませやすいですし。

面白い試みで良かったです。学生も先生の話を聞くだけより、こういった講義は楽しそうです。(失礼ですが)
これからも、また他でも、続けて欲しいですね。

0.CONTENTS

Chapter1 キャラクターと作品世界とそれを診断する視座
・リムル=テンペスト(転生したらスライムだったけん)
・サラ・コナー(ターミネーター2)
・里見健一(サトラレ)
Chapter2 注意欠如・多動症
・メロス(走れメロス)
・野比のび太(ドラえもん)
・剛田武(ジャイアン)(ドラえもん)
・モンキー・D・ルフィ(ONE PIECE)
・平沢唯(けいおん!)
Chapter3 自閉スペクトラム症
・大正天皇
・L(エル・ローライト)(DEATH NOTE)
・野口笑子(ちびまる子ちゃん)
・津崎平匡(逃げるは恥だが役に立つ)
・童磨(鬼滅の刃)
Chapter4 パーソナリティ障害
・夜神月(DEATH NOTE)
・りりこ/比留駒春子(ヘルタースケルター)
・惣流・アスカ・ラングレー(新世紀エヴァンゲリオン)
・蓮実聖司(悪の教典)
・ジョン・ゲイシー
Chapter5 心的外傷後ストレス障害・解離性同一症
・先生(こころ)
・杉元佐一(ゴールデンカムイ)
・南波日々人(宇宙兄弟)
・クレイ・ジェンセン(13の理由)
・ロールパンナ(それいけ!アンパンマン)
Chapter6 神経症とその周辺
・ジョバンニ(銀河鉄道の夜)
・クララ・ゼーゼマン(アルプスの少女ハイジ)
・栗花落カナヲ(鬼滅の刃)
・ニコ・ロビン(ONE PIECE)
・成瀬順(心が叫びたがってるんだ。)
Chapter7 うつ病・双極性障害
・フィンセント・ファン・ゴッホ
・播磨薫子(人魚の眠る家)
・ウィンストン・チャーチル
・アーネスト・ヘミングウェイ
・織田信長
Chapter8 統合失調症
・ジャンヌ・ダルク
・近藤直弼(半沢直樹)
・ニナ・セイヤーズ(ブラック・スワン)
・エドヴァルド・ムンク
・李徴(山月記)


著者:須田 史朗 (著), 小林 聡幸 (著)
出版社 ‏ : ‎ 金原出版 (2022/9/30)
発売日 ‏ : ‎ 2022/9/30
言語 ‏ : ‎ 日本語
単行本 ‏ : ‎ 191ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4307150740
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4307150743
寸法 ‏ : ‎ 14.8 x 1.4 x 21 cm


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