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『スノウ・クラッシュ(上)』

 様々なテック企業の経営者に影響を与えたと言われているニール・スティーヴンソン著、1992年発表のS・F小説。私が一番好きな小説のジャンルは恋愛小説なので、S・F小説はあまり読んでないのだけど、「メタヴァース」という言葉がここから生まれた、とどこかで読んだのをきっかけに、手に取りました。あと、尊敬している先輩がS・F小説好きだったので、これ知ってる?とドヤ顔したかったというのもあります笑

 私はKindle電子書籍で読むことが多くて(本屋に行く時間がないのと、これ読みたい、と思ったらすぐに読めるし、マーカーつけても罪悪感が湧かないし、マーカーも気分によっていつでも変更できるし、何よりも重い本を何冊も持ち歩かなくていいし、いつの間にかKindle電子書籍のファンになっていました。あれ、何の話だっけ?)

 Kindle電子書籍で、冒頭の数行、数ページ読んで、あー、もうこの本はドキドキワクワクする、これはじっくり読まないと、と期待感がマックスに。
近未来ロサンジェルスを舞台に、高速ピザ配達人のヒロ・プロタゴニストが池に突っ込んでピザを遅配しそうになり、ヒロの車にプーンしていた(電磁石と繊維ケーブルでできた銛を車の鋼鉄部分に打ち付けて、車の動力を使って高速道路をサーフする。スマートホイールをつけたスケートボードで)特急便屋クーリエの15歳の少女Y・Tが、そのピザ、持ってけるわ、とピザを受け取り、ヒロの窮地を救う。

 ここのくだりで、Y・Tがピザの箱を縦に抱えて持ち、チーズがべっとり箱にくっつく様をヒロが想像するところとか笑えるし、自分の職業に真剣な人、仕事に命かけてる人の話が好き。

もうこのシーンだけで、この世界にどっぷり浸れる予感がする。
ヒロが遅配しそうになった訳は、ピザを作っていた店がボヤ騒ぎを起こしたから。動転したマネージャーが話しかけようとしてきたくだりを読んで赤面しそうになる。

 アブハジア人のマネージャーが窓に近寄ってくる。インターフォンを使えば車内にいる<配達人>と直接話せるのに、牛車の御者を相手にでもするかのように、面と向かって話しかけてくるのだ。

『スノウ・クラッシュ(上)』

 こういうこと、絶対思われている自信がある。職場でも、以前は電話をかけることは普通だったが、よっぽどじゃないと最近は電話を使えない雰囲気。石器人のように思われてしまう…

 ヒロとY・Tの共通の価値観は、スピード命ということ。そして、死んでも送り主に荷を届ける、という至上命題を持っていること。

 ヒロは、名刺(ハイパーカード)をY・Tに渡す。

 ヒロは貯蔵庫と呼ばれる我が家に帰る。場所は、ロサンジェルス空港(LAX)の近く。JTBとかでツアー組んだら、行きたいです。スノウ・クラッシュの聖地を訪れる、みたいな。予算と相談したら無理かもですが…

 ヒロの財産が二つ、紹介される。すばらしい性能のコンピュータと、祖父の形見である、刀二振り。Y・Tに渡した名刺には、このように記載があった。

 ヒロ・プロタゴニスト
最後のフリーランス・ハッカー
世界最高の剣士
セントラル・インテリジェンス社特別通信員
専門分野:ソフトウェア関連情報(インテル)
(音楽、映画、マイクロコード)

『スノウ・クラッシュ(上)』

ヒロはヴァイタリ・チェルノヴイリという名のミュージシャンと貯蔵庫をルームシェアしている。
ヒロは在日韓国人の母ゆずりのアジア的な目とテキサス育ちのアフリカ系アメリカ人の父ゆずりのカプチーノ色の肌とドレッドヘアをしている。

目にゴーグルをつけ、耳にイヤホンをつけ、ネットの情報を漁り、CICのデータベースにアップロードする。CICのクライアントが有用と認めると、ヒロに支払いがある。半年間仕事をせずにのんびり暮らせる金額を稼いだこともあった。

 一方、Y・Tはヒロから受け取ったピザを脇に抱え(笑)、<ホワイト・カラム(白人占有地)>のゲートへ入っていく。彼女の特急便屋のユニフォームには、あらゆる場所のビザとなるバーコードがつけられており、入管ゲートでスキャンされると、大抵のフランチャイズ(マフィアが組織する地方自治体のようなもの)にアクセスできる。

鉄のゲートがゴロゴロと重々しく開くのをアイドリングしながらのんびり待っている暇などない。(略)彼女は点々と続く小型プランテーションを見ながら、戦前から<ホワイト・カラム>にある並木道を、あのスタッドリーの車からもらった運動エネルギーの残りで惰走していく。世界はパワーとエネルギーに満ちている。そのほんの一部を選り抜いて手に入れることで、人ははるか遠くへ移動できるのだ。

『スノウ・クラッシュ(上)』

ここの部分、すてき。
ヒロとY・Tの出会いのシーンでは、二人ともスピード命で、共通の価値観を持っていて、出会うべくして出会ったと思ったし、
ここの部分は、後から出てくるもう1名の主要人物の価値観とすごく似ていて、だから恋に落ちたの?と思わせられた。(ネタバレ)

 ヒロは、メタヴァースに実体化していた。ヒロのアヴァターは現実のヒロの姿そっくりにできている。それは、ヒロのプログラムを書く能力による。そして、ヒロのアヴァターは剣を差し、黒革のキモノを着ている。

 ヒロのアヴァターは、ヒロの名前を知る大男(のアヴァター)に出会った。スノウ・クラッシュを試してみないか、という。男は名刺大のハイパーカードを取り出した。ハイパーカードには、デジタル形式のデータをなんでも入れることができる。

当然のことながら、ヒロはこんな状況下で触ろうとはしなかった。タイムズ・スクウェアで見知らぬ男からもらった注射器を首に刺したりしないのと、同じことだ。

『スノウ・クラッシュ(上)』

ヒロは大学時代に付き合っていたジャニータと社会人になって再会する。
しかし、忙しく働くうちに、自然消滅し、ジャニータはヒロも在籍していたハイテク企業ブラック・サン・システムズの若き創業者と結婚してしまった。そして今、メタヴァース上で再び出会った。ジャニータはDa5idとは離婚していた。ジャニータからハイパーカードを受け取るヒロ。ジャニータによると、このカードにはライブラリアン・デーモンが入っていて、情報を探す手伝いをしてくれる。それから、L・ボブ・ライフという人物に関するビデオテープがたくさん。

 ヒロはジャニータの元夫であり、かつての仲間であったDa5idと会う。
Da5idはヒロの前で、スノウ・クラッシュのハイパーカードを破ってリリースし、脳をクラッシュしてしまう。

 ヒロはジャニータから受け取ったハイパーカードからライブラリアン・デーモンを呼び出す。このライブラリアン・デーモンのコードを書いたのは、ラゴスというアメリカ国会図書館の研究者だという。

ヒロは同居人のチェルノブイリの安全運転でコンサート会場に向かう途中でゴーグルインする。

L・ボブ・ライフのビデオクリップでライフにインタヴューしていたインタヴュアーはライフをこき下ろし始めた。

むかつく発想だ。人間のことをそんなふうに考えるなんて信じられない。

『スノウ・クラッシュ(上)』

チェルノヴイリのコンサート会場には、人が押し寄せている。 

とはいえ、面白いことというのは、全てが同じ状態の中心部でなく、つねに変化する周縁部分で起こるものだ。

『スノウ・クラッシュ(上)』

 ここだけ、文脈から切り離して色々なことに思いを馳せる。そうかもしれない。職場でも、上の方のメンバーは固定化していて、前例を踏襲することが多く、どっしり構えているといえば聞こえはいいが、変化に乏しい。
一方、新しく加わったメンバーは異文化の文脈を持ち運んできたり、斬新な発想を備えていたり、異動も多く、新しい風を運んできてくれる。

 ラゴスは、ガーゴイルとして描かれている。ガーゴイルは、コンピュータをいくつかのモジュールに分解して、腰や背中にぶら下げたり、頭にかぶったりするという。ヒロもガーゴイルになりたいと思っている。一方、Y・Tはガーゴイルを嫌っている。途中何度か、ヒロとY・Tでガーゴイルじゃない、ガーゴイルよ、などと言い合うところがあって微笑ましい。

 ジャニータも、ラゴスも、ヒロに、レイヴンには近寄るな、と言い残した。ヒロにビットマップを見せようとした男がレイヴンだという。スノウ・クラッシュをジャニータの元夫に見せてクラッシュさせたのもレイヴンだった。
マフィアの運営するフランチャイズには警察や刑務所といった場所はない。その代わり、他者に警告するための入れ墨が見える場所に彫られる。レイヴンの額にも入れ墨が彫られていた。

<POOR IMPULSE CONTROL>
(衝動のコントロール不能)

『スノウ・クラッシュ(上)』

ラゴスがチェルノヴイリのコンサート会場にきていたのはレイヴンが目的だった。しかし、レイヴンと会ったラゴスはサケのように身体を切り裂かれて、横たわっていた。

 ヘリコプターがヒロの貯蔵庫を訪れる。ジャニータの迎えだという。ヒロはお金を払って最上級豪華化粧室を選び、身支度を整える。

 ジャニータは、ハイパーカードのスタックを見たあとで、会いに来て欲しいとヒロに告げる。

 ヒロはバベルのスタックの中身を、ライブラリアンの解説を聞きながら調べていく。
ジャニータは、シュメール文明の女神であるイナンナに心酔しているらしい。ヒロはイナンナについて調べていく。

 一方、Y・Tはドイツ製の消防車を車椅子に改造したというフロンジャンキーのNgと待ち合わせし、スノウ・クラッシュを探しに行く。

 アメリカのいいところは、ドライブスルー方式でなんでもすませられるところだ。オイル交換、酒、銀行、洗車、葬儀、なんでもござれだー車のままでな。こいつはおれの身体の一部なんだ。

『スノウ・クラッシュ(上)』

一方、ヒロはライブラリアンを相手に、ジャニータを理解しようと調査を続ける。ここで、言語とウイルス、宗教の類似性、伝播方法などが延々と語られる。(初回の読書では、ここで挫折した。)

私は初回は上巻だけ読んで、満足していた。
以前の感想はこちら


下巻の感想は、後日まとめます。




 


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