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SF小説ジャングル・ニップス 4-4

土着系SF小説「ジャングル・ニップスの日常」第4章シーン4

タツノオトシゴ

「キヨミちゃん来てたの?」

エースケが嬉しそうにショーネンの肩を叩いた。

「来てんだったらちゃんとオメカシして来たのに、なぁヤスオ。」

エースケはどうやらキヨミの視線が苦手なようだ。

美人の保母さんに抱きつきたいけど近くに寄れない、純情な男の子のように浮き足立っている。

キヨミの存在感には普通の男は古今東西一目置かざるえないだろう。

「マチコさんから何も聞いていなかったよ。待たせてしまったかな?すまなかったね。」

ヤスオがキヨミの横に立ち一緒に姥ヶ池の水面を眺め始めた。

ショーネンがエースケの傍に行き、今起こった事を断片的に映像で伝えた。

「オマエにはカッパ様の姿で現れたのか・・・。」

エースケは少し呆けた表情で空を眺めた。

「始めはカミツキガメの姿がバーンと現れました。」

ショーネンは判っているだろうと思ったが一応付け足した。

「ということは、エースケさんには他の姿でお現れになるのですか?」

「お現れにってオマエ、その変な日本語気持ちわりいぞ。」

「エースケちゃんには天女様に遣える龍とか、でしょ?」

いや、それが・・・。

エースケが頭をかいた。

「キヨミちゃんに言っていいのか判んないんだけどさ。」

エースケがダンガリーシャツの袖を伸ばし、手首のボタンを両方とめる。

「チョーロー様、あのお方、オレにはタツノオトシゴの姿で現れんだ・・・。」

タツノオトシゴ?

キヨミの顔がキョトンと固まる。

ヤスオが二人の表情を交互に見て笑った。

「百匹以上の子供を、お腹に抱えた卵から、空に羽化し続けている宇宙タツノオトシゴ・・・。」

キャーッ!

キヨミが奇声を上げて、トンッと飛びあがり、ピタリと柵の上に乗りヤスオに笑顔をむけた。

「ヤスオ君がエースケちゃんにベタ惚れなの判る、もうっ、なんて才能しているのこの子。」

キヨミの照れのないホの字の視線が遠慮なくエースケに注がれる。

「ああ、だからキヨミちゃんは苦手なんだよぉ。」

エースケが肩身狭そうにショーネンの肩にもたれかかる。

まんざらでもないようだ。

ショーネンはエースケのこうゆう所が好きだ。

エースケといると中学生にでも戻った気分になる。

「あの失礼かもしれないけれど、キヨミさんには?」

ショーネンが尋ねた。

キヨミがヤスオとエースケの表情を確認してショーネンを足下から頭のてっぺんまで観察した。

そうね。少しオメカシはして来るけど。

「アタシには普通のオジサン。」

えっ?

「だってパパだもの。」

パパ?

「そう。パパ。」

キヨミが柵の上でクルリと回り、ヤスオの横にストンと飛び降りた。

つづく。

ありがとうございます。