SF小説ジャングル・ニップス 4-3
土着系SF小説ジャングル・ニップスの日常 第4章シーン3
蓮の池
ラミーとバッカスだなと少年は思った。
さっきからラミーかバッカスが食べたい。
車の中にスニッカーズの袋を置いてきてしまった。
「ラミーねアタシは。」
そう言ってキヨミは笑った。
ああ、そりゃそうか。
ショーネンは観念した。
「ラミーですかね。バッカスも美味いっす。」
笑うしかなかった。
全て見通される美しい女の前では開き直るしかない。
「日本が世界に誇れるお菓子って聞かれたら。」
「アタシなら鯛焼きよね。」
あああ鯛焼きか。
「あんことチーズのコンボがいいわ。」
あああそれだ。
「日本のプロセス・チーズは世界一美味しいしね。」
ああチーズだな。チーズ。
「ウン。外国人に日本を知ってもらうには、過去現代を象徴する何かを通して、味わってもらわないとね。鯛焼きはちょうどいいかな。ルックスも質問、ツッコミ安いし。答えも説明しやすいから。」
だな。
流石キヨミさん。
深い。
鯛焼きは、日本のどこでも鯛焼きだし。
「ラーメンもありだけど、通ぶったアホウが煩いよね。」
柵に両手を置き、キヨミが軽く腰を突き立て背を伸ばす。
ネコ科の仕草だ。
「チョーロー。そろそろショーネン君に挨拶してあげてよ。」
キヨミの目の前に鯉の大群が集まる。
「鯉濃とか鰻とか。日本は無限にコンテンツがあるし。一生かかっても理解なんて不可能よね。」
伸びの快楽に身を震わせるようにキヨミは池に語りかけた。
鯉がまな板で口をパクパクと動かしながら、出刃包丁で腹を割かれる絶望に身を任せている。
ああああ。
ショーネンが身を震わせる。
受容の悦楽。
ショーネンは包丁にされるがまま、天を見上げた。
「オハヨウ。」
ショーネンの脳裏に巨大なカメ。
カッパが現れた。
「紹介するは。チョーロー。ショーネン。」
「ショーネン。」
「そう。忍苦三人衆の三男。」
「ヤスオとエースケ。それとショーネン。」
「そう。」
ショーネンは切り分けられ、冷水で洗われている。
「洗いより、唐揚げになりたいすっは。」
ワッハッハッハッハー。
チョーローが愉快そうに笑うと、池に波紋が現れ、辺りの木々が揺れざわめいた。
「知りたいか?」
ショーネンはベッドで苦しそうに浅い息を繰り返す少女の姿を想い描いた。
「数年ぶりの心地よい笑いだった。感謝する。ショーネン。また来なさい。」
チョーローが消えた。
空だ。
雲一つない。
正座したキヨミの膝に頭を置いたまま、ショーネンは空を横切る鳥の姿を目で追った。
「エースケ君に来るように伝えて。」
はい。
もう大丈夫とキヨミの目が言っている。
つづく。
ありがとうございます。