私は東京生まれで、地方何都市かと東京の両方で育ったのだが、たまたまあまり関西地方にご縁がなかった。

そんな私が就職活動で大阪に行くことになった。

土地勘ゼロ。
その頃はまだあまりケータイで地図を見るような事がポピュラーではなく、前もって紙に印刷した地図や電車の路線図などとにらめっこしながら、目的地を目指した。

...多分あれは梅田だったのだと思う。
電車を降り、地下に下った私はパニックになった。

出口や行き先の案内の表示が、あまりにもよくわからないのだ。
しかも(記憶によると)案内表示は自分の進行方向に対していろんな角度(自分に正対している表示もあれば、斜め45度に取り付けられた表示もあった) に付けられている。

自分の視界にあまりにも沢山の案内表示が、いろんな角度で...

そんな案内表示に、酔った。

自分の居る位置、またどの方向に向かえばいいのかという感覚が全くわからなくなったのだ。

＊

それはきっと、大阪での就職活動の結果があまりにも悲惨で木っ端微塵に散ったから、そんな私の心情も合わさって、迷路で出口も居場所も分からなくなった時のように、より不安な気持ちになってしまっただけなのかもしれない。

それからの人生も、たまたま大阪にはご縁がなく、あの時以来駅には降り立っていない。だから、自分のアンテナが完全におかしくなり、不安に陥ったあの時の気持ちが、果たして本当だったのか、デフォルメされたものだったのか、本当のところはわからないでいた。

決して梅田の地下通路を批判したいわけでもない。

ただ、残念なことに、大阪滞在での出来事が人生において良くない結果であった為に、不安で寄り付きづらいイメージになってしまっている、ということだ。

＊

しかし、たまたま最近読んだエッセイに、こんなことが書かれていた。

6つの路線が乗り入れている梅田は、「梅ダンジョン」ともいわれる。
ロールプレイングゲームかというほどの発達した地下街がある。

また、ここ数日のニュースで、梅田と大阪は違うのか？と混乱する観光客や外国人がいるために、駅の名称を変える予定であるということが報道されていた。

...そっか、やっぱり私だけじゃなかったんだ。迷子になって困っていたのは。

このエッセイとニュースを読んで、なんだか少しホッとして、胸を撫で下ろした。

勝手に私がパニックになっていたわけではないんだ、と思えたから。

私だけの個人的な経験ではなかった、とわかったから。

梅ダンジョンが、駅名を土地勘の無い人にもわかりやすいように変え、それを機に案内表示も改善してくれたら、
私は今度こそ梅ダンジョンを攻略しに行く。
...RPGゲームは大の苦手だけれど。

食わず嫌いならぬ行かず嫌いにするのは勿体ないし、その街の本質を見ることができていないと思うから。

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