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小学生で読書感想画に予告殺人を描いた私はピンク色を見ました

「ライター志望!」なんて銘打っている自称エッセイストの私めですが、義務教育で評価を受けることが非常に苦手でした。「2通りのやり方で解きなさい」という問題に堂々と同じ式を2回書く子供です、「先生は生徒にこう育ってほしいの!」を読み取って行動なんてできません(要するに人の話聞いてない)。本を読むのは好きなのに、「先生がこの本から学んでほしいこと」等が全然わからないので、クライマックスに一切言及せず「ここの台詞いいと思ったー」とか「この人かっこいい」とか書くのです。読書感想文としては0点ですよね。

そんな私が小学校四年生の時、読書感想画の題材に使ったのが予告殺人という推理小説でした。今ではすっかり思い出の本になったこの作品との出会いを振り返りたいと思います。

予告殺人はミステリの女王アガサ・クリスティの作品で、お婆さん探偵ミス・マープルの登場するシリーズになります。アガサの書く人気探偵は灰色の脳細胞で知られるエルキュール・ポアロも有名ですが、マープルが登場する作品は動機などトリックより心理面から推理する傾向が強いのが特徴です。

…ここで私、推理小説なんていう最もネタバレがよろしくないジャンルで読書感想文を書こうとしていることに気がつきました。なぜここで気づいた。


私はこの予告殺人を小学校の図書室で偶然見つけました。今思えば小学生が利用するのによくアガサなんて置いてくれていたなぁと思うのですが、私は児童向け図書の中に埋もれる殺人という物騒なワードに興味を持ち手に取りました。

表紙は綺麗なピンク色をしていました。例えるならサンゴほど穏やかではないけれど、椿の花ほどビビッドでもない、そんなピンクです。なんだか殺人っぽくないな、という第一印象でした。


あらすじとしては、まず新聞の広告欄に記載された「殺人お知らせ申し上げます(略)リトル・パドックス館にて」という殺害予告に興味を持った人たちがリトル・パドックス館に集まります。ゲーム感覚でやって来た村人たちは指定時刻に現れた男の「手を挙げろ」に喜んで手を挙げますが、その後本物の銃声が聞こえたことに大パニック。電気をつけてみると当の犯人がなぜか死んでいた…そんなシーンから始まります。


(※推理小説の内容を大っぴらに書いても読んでもらうためのレビューにはならないので、主にお婆ちゃん探偵について話します)


子供向けの文庫だからか少し挿絵があったのですが、マープルは上品な白髪を持ち編み物をする老婦人として描かれていました。

マープルはイタリアへの留学経験を持つなど教養深い家に育ちながらも、結婚を反対されたことを機に生涯独身を貫くと決めたという知性と自由に溢れた女性です。しかし、マープルを見ていて一番感じたのは子供心を忘れない愛くるしい人柄でした。

人が大好きで時には自ら事件に巻き込まれていくほどの社交性、推理の材料となる豊富な経験、そこから話を始めるため一見全く事件と関係のない昔話。どれも穏やかな声でニコニコと話す様子が頭に浮かびます。

またこの予告殺人では真犯人に対しある人の声真似をすることで正体を浮き彫りにするシーンがありますが、悲鳴を上げる犯人を前にマープルは「物真似は多少自信があるのでやってみた」というような全く緊迫感のない台詞があります。まるで子供が肝試しをする様でした。


私はふと、彼女はピンク色のようだと思ったのです。マープルには様々な色がありました。

好奇心に目を輝かせ、時に穏やかに語り、時に事件を自分の経験と重ねて楽しそうにしている。少女のドレスのようなベビーピンクや包容力のあるコーラルピンク、刺激的なカメリアピンクまで、私はひとりの老婆の後ろに色とりどりのピンクを見たのです。表紙のピンクはマープルをイメージしたんだ!と思いこんだほどでした。


私は読書感想画を描きました。

真犯人とマープルが同じ部屋にいるシーンです。

我ながら超絶ロックだと思う。イギリスだけに(は?)。


あと幼馴染のお母さまにめちゃくちゃ心配されました。タイトル予告殺人だもんね無理もない。



その後高校生になった私は書店の古書フェアでたまたま予告殺人を見つけました。何の飾りっけもないラックの中から取り出した40年前の予告殺人は、グレーの堅い表紙に油絵のような模様が付いていました。

「マープルじゃないなぁ」と思いながらも予告殺人を私が見逃すという状況がとっても癪だったので(どゆこと?)、黙ってレジに並びました。思い出すように捲ることもありますが、あの本にはあまり愛着を感じません。


中学では図書室のアガサを制覇する生活を送っていましたが、まだ私はマープルのピンクを求めているのかもしれません。

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