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祖母の話 - 応援上映

祖母の若い頃の話である

戦前の映画館では、大ピンチというところで颯爽とヒーローが登場すると観客席から拍手と歓声があがった、と聞いた
なので応援上映という制度を聞いたときそのことを思った

当時、大きい商家に限った話ではなく公務員の家庭などにも女中さんがいた
お金を稼ぐのみならず、地方の若い女性が嫁入りする場合の行儀見習いという意味合いもあった

江戸時代だと大奥もまたそういった役割を負っていた
武家の女性だけではなく商家の娘も「箔つけ」のために大奥に入った
ホシモンの三代目のおかみさんの叔母がそれで行った
(フジテレビのドラマ「大奥」で美味でございますとやたらまんじゅうを食っていた、ああいう感じである)
しかし幕末である
肝心の「上様」は若くして亡くなるし、次の「上様」は京都に行ったきりで、帰ってきたら将軍をやめている
大奥は普段とは違うゴタゴタはあるが基本的に暇で、三代目おかみの叔母はせっかく行儀見習いに行ったのに、帰ってきたら単なる酒飲みになっていた
大河ドラマの篤姫で本寿院がやたらお酒を飲んでいたが、あの一味の末端だったかもしれない
それ以外に伝わっているのは「たくさん猫がいた」という話だけである

祖母がセキグチに嫁いだとき、セキグチにもまた女中さんが数人いた
祖母は女中さんとときどき一緒に映画を見に行った
地方出の若い女中さんを連れて何度目かの映画に行ったときのことである
女中さんは主役登場で歓声をあげて拍手をしたが、終わってみると憤慨している
聞けば「途中から出てきたあの人、こないだのアレで死んだ人ですよ」と言う
「あの人が死んで、かわいそうだと泣いたのに」
前に見た映画で死んだ人が生きていて違う役で出てきたので「騙された」とぷりぷり怒っていたのだ

祖母はそれを面白がったが、いまでも映画やドラマなどで悪い役をやるとSNSで叩く人がいるので、当時とさほど変わっていない
いや、じかに本人にぶつけるぶん、当時とちがっておおいに愚かだろう

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