もののあはれをきく
セミが鳴き始めた
猫がしきりに網戸を掻く
僕は歯を磨いた
多くの心が駅へ走る
セミの声が薄れる
彼らの声は今しか聴けないのに
少し悲しくなった
6年も土にもぐって
手探りで樹液を吸う
脱いだ殻を見ないまま
突き動かされる衝動
根をたどり幹を登る
光も風も温度も知らないのに
少し楽しくなった
そして、また殻を脱ぐ
自ずと見、感じ、飛ぶ
それを誰も知らない
僕は弱い
同じ声でしか鳴けないけれど
好みのタイプはあるのかな
ひと月の恋だから大事にしてほしい
朝の子がいいな、夜の子がいいな
涼しいときに気の合う子と会いたいな
モテないし一日中鳴いていようかな
僕はいつ鳴くんだろう
鳴いてみたいけど鳴き方がわからない
聴いてくれる子はいるのかな
僕はすごく恵まれてる
誰かに食べられもしないし
70年は生きられるのに
少し嬉しくなった
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