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ムンク「吸血鬼」|詩を添えてみました&絵画のご紹介|雨夜の星の絵画帖


🌱 詩(情景)

あなたの目は
澄んでひかる夜のせせらぎ
ゆらめく水面みなもの奥に光る小石
森の真中まなかに湧く神秘の泉

飛び去った鳥の羽音
遠く響く至聖所サンクチュアリの鐘

あなたの目は
生きている宝石みたい

その目がほしいの
その瞳でわたしを飾りたい

身につけたくて
仕方がないから

黒髪の頭ごと
胸に抱え寄せたの


愛を裏切るなんて
一番いけないことよ

またひとり
どこかで小夜啼き鳥ナイチンゲール
薔薇の棘で胸を刺して
死んだわ




🌱 基本情報


「吸血鬼」
Vampyr
(1893)

🎨エドヴァルド・ムンク
Edvard Munch
(1863–1944)

🇳🇴ノルウェー・表現主義

👶ロイテン🇳🇴
⭐️オスロ🇳🇴

🌎ムンク美術館🇳🇴



🌱 本来のタイトルは『愛と痛み』だったのに・・・


 ムンクはこの主題で少なくとも6点ほど描き、派生作品も複数あったようです。みなさん、フェティシズムですよ〜ヾ(^▽^)ノ ←"吸血鬼"という記号に、ではなくて、"愛と痛み"(後述)に対するフェティシズムです。

(日常生活がフェティッシュだと何かとややこしいので、それで人間には芸術が必要なのだと思います。)

フェティシズム…フランス語の「fétiche/フェティッシュ(物神、呪物) 」から生じた言葉。ある対象、断片への偏愛。18世紀にシャルル・ド・ブロスによって提唱された。


 ムンクの描いた一連の「吸血鬼」。英語サイトになりますが、Descriptionの項目を開くといくつか閲覧できます。↓↓


 ムンク美術館(オスロ)のページを読むと、ムンク自身がつけた Kjærlighet og smerte/愛と痛み というタイトルが Vampyr/吸血鬼 に変わった経緯いきさつを知ることができます。

 まず、ムンク自身は、絵についてこのように記しています。

そして彼は頭を彼女の胸にもたせかけ、彼女のなかで血が血管を駆けめぐるのを感じた。鼓動に耳をかたむける。そして、彼女の胸に顔をうずめると、燃えるような両の唇を首筋に感じた──身震いがぞっと全身を走った。

(And he laid his head against her breast, felt the blood rush through her veins. He listened to her heart. And when he hid his face in her breast he feøt two burning lips to his neckc-it sent a shudder through him.)

ムンク美術館サイトより抜粋


「まるで吸血鬼だね」と評したムンクの友人(※)が、こう手紙にしたためました。

いずれにしても、彼はヴァンパイアから逃げるつもりはなく、痛みから逃れる気もないだろう。そして女は常にそこに座っていて、千もの蛇の舌、千もの毒牙で彼を噛み続けるだろう。

( In any case, he won't get rid of the vampire, he won't get rid of the pain either, and the woman will always sit there and will always bite with a thousand snake tongues, with a thousand poisonous teeth. )

(同上)


 くして、ムンクはこの絵画を「吸血鬼」と呼ぶことにした…のだそうです。
(よかったのかどうかは、なんとも...内面的な愛と痛みを描いたのでしょうから、本来吸血鬼ではないはずです。タイトルが一人歩きしているところはありますね。)

 《死への不安》という根源的なテーマを描いたと言われるムンク。たとえば「病める子」や「思春期」など、間違ってもオカルトに見えない作品をじっくり見てからなら、『叫び』も『マドンナ』も『吸血鬼』も、ホラー絵には見えなくなる、と思います(^^)/
 有名な絵が一人歩きして、誤解されている気がする気の毒なムンクさん・・・。

(※)スタニスワフ・プシビシェフスキ(Stanisław Przybyszewski  1868-1927)。ポーランドの詩人、小説家、劇作家。デカダン派、自然主義文学に属し、戯曲は象徴主義の流れを汲んでいる。(オカルトも好きで、悪魔主義者を自ら名乗っていたそうなので、「吸血鬼」に仕立て上げたかったのかもしれません。)



🌱 あとがきに替えて


 最近特に、(世の中が閉塞しているからか)心温まる、なごむものが好まれているように思うのですが...本当にひとはそれで癒されるの? と思うのは、私だけでしょうか。
 対処療法と同じで、一時的にほっこりするけれど、次々と摂取し続けない限り結局心は埋まらない。
 逆に、一見沈痛でも、心の奥底を見つめている作品のカタルシスのほうが、根治できる気がしています。ムンクの描く絵も、そのような性質なのではと感じます。



 余談ですが、頭書の詩、厳密にはこの絵を見て書いたわけではありません。最近書きつけていた断片をこの絵が統合してくれた、という流れです。(絵にあわせてアレンジはしました。)

 最後の2連はもともと、音楽ライターをなさっているnoterさまとお話ししていたところ、とあるフランスの作曲家の恋愛遍歴を教えてくださって。あまりの乱脈ぶりに驚いて、(でも音楽は美しいので、)たしなめるならこんな感じ? ふつうに正論を述べても耳を貸してくれそうにないし...と、少しキレイめに綴ってみたものでした。くっつけたせいで、ニュアンスが変わった気もしますが...。


 ムンクの有名な「吸血鬼」モチーフ。男性のみなさまはどう見るのか──もちろん女性のみなさまもですが、コメント欄で、こっそり教えていただけるとうれしいです(◔‿◔)♡


 いつか、ムンク美術館に行ってみたい...(◍•ᴗ•◍)✧*。好きな画家さんの序列を考えたことはないのですが(決められないから)、ムンクはたぶん5本の指に入ると思います♡ 浴びるほど見たいわ〜〜思わず涙する絵を描いて下さった方です(-人-)

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