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いつかの旅のこと

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旅の記憶をたまに思い出します。
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記事一覧

幽玄世界 田沢湖【2023/03/26】

盛岡で友人に会ったあと、すこし自然に触れたくて田沢湖に行くことにした。 天気は既にして雨。田沢湖も例に漏れることなく雨の予報である。 これは、幽玄世界に足を踏み入れられるチャンスだ。 漱石好きの血が騒いだ。その時にはもう、田沢湖行きの新幹線のチケットをとっていた。道中、場所が場所なら名がついていたであろう、無名の滝たちを数えていた。 雨の水面は何時間見ていても飽きない。同じ水面はない。きっと、この湖面は多様な表情をしていてキラキラしている。はれのひに見せる、一面的な笑顔

陸に戻れば【2023/02/12】

先月末から月初にかけて、外部の研究機関の船に乗せてもらっていた。 メンバーはおおよそその道の研究者と、その道を志す学生に二分されるが、私はどこに属して振る舞えば良いのか、そこからいつも悩んでしまう。 とはいえ、学生たちは初めての航海な人もおり、皆等しくきゃっきゃしている。モテるだのモテないだのといったことで盛り上がっており、もはやその眩しさにさらされることが辛くなった私は研究者サイドに属することに疑いはなかった。 とはいえ、研究者はみな先方の組織内の人間で疎外感は否めない

贅【2022/10/26】

贅沢な食事というものは、時々したほうがよい。心の惹かれるままに、躊躇なくおこなうのはさらによい。 よいお店にはよいマスターがいる。近年はコロナの影響で食材の無駄を省くということもあり、完全予約制を取る店も多い。そうすると、客の数よりも、ひとりひとりのお客さんを丁寧にもてなそうというお店が増えてくる。 苦手な食べ物はないか。たくさん食べる人なのか、或いは少なめでいろいろな種類をだしたほうが喜ばれるのか。そういったことを考えながらコースを提供してくれるマスターは非常によいマスター

日陰【2022/07/24】

僕は不眠といっても睡眠ゼロなことはすくなくて、薬を飲めばたいてい3時か4時には眠れるので、眠れない夜というものを称していいのかわからないけれども、それでも眠れないものは眠れないし苦痛の時間が数時間続くことは極めて拒絶的な気持ちになる。 この話を最近何かに書いた気がするけれども書いていないかもしれない。 この間歩いていた町の、ビルディングの屋上に迫力のある煙突というか、排気口があった。2本。 地方都市の中心部から少し外れた、郵便局と地方物産館を兼ねた建物とか、よくわからない彫

美味しいもの・美しいもの【2021/06/25】

仁王窯の人に教えてもらったお店は、 坂を登ってすぐの沖縄の古民家。 真っ白な屋根に昔ながらの門構えのテラスと玄関。ぬちがふぅさんです。 あれよあれよと座敷に通されると一息つくことができた。せっかくなので、いちばん良さそうな御膳を注文。せっかくですからね。 みてくださいよ、この豪華さ。 どれも素材のよさを生かした繊細でさっぱりした幸福。誰もがきて良かったと思います。 食事も終わり、お手製のちんすこうアイスも食べたところで、本来の陶器探しに戻りましょうか。ちなみにちんすこう

壺屋、やちむん【2021/06/25】

中城からのバスはおよそ一時間半。左手に海、右手に山を望みながら、小さな町から町をわたってゆくと、不意に都市部に入る。 姫の名前を冠したバス停に止まると、追い越した乗用車が斜め前で停車し、その後ろのタクシーがクラクションを鳴らして急かしている。南国の人間もせっかちなものだ。 那覇についたことに気づくと同時にバスの窓に雨が降り始めた。 後部ガラスに叩きつけるような音がしたかと思うと突然のスコール。車内の人々もわずかに無言ではっとしている。 降りようとしているバス停まで三駅。

指宿【2020/06/25】

半島に沿って走るローカル線は二両編成。一時間に一本の列車に遅れないように尿意を無視して急いで乗り込むが、車内にトイレが設置されていたので安堵する。暑いホームから車内に入ったときは涼しさを感じたが、ややけば立ったシートに腰かけると、開け放たれたドアから押し寄せてくる熱気のほうが意識を支配する。 駅を出た列車はゆっくりと都市部を抜け出てゆく。入居者の気配のない老人ホームや宗教色の強い政治広告を車窓に流してゆくと、次の駅で大勢の高校生が乗り込んでくる。コロナの影響で友人の弟は午前

二重虹@ハワイ島

大阪(海遊館・梅田)【2020/02/03】

今や全国区で有名になった海遊館は案外梅田市街から近い。海辺に面した駅を降りるとシンプルな街並みが海遊館に向かって続いている。 大阪の友人とお好み焼きを食べた後、街を行ったり来たりしてから目的地に向かった。 海遊館にはお魚ばかりだと思っていたけれど、水回り(?)の動物たちが幅広く飼育されているコーナーが最初にある。カワウソは可愛い。「嘘」みたいに「かわ」いいので「カワウソ」という学説が現在では有力なのも納得である(嘘) 鴛鴦の鮮やかな羽の色は作り物のような色をしているとい

大阪(百舌鳥・堺・天王寺)【2020/02/02】

夜行バスを降りた早朝の御堂筋は乾いた冷たさ。大阪に来るときはいつも早朝だった気がする。人間はいないけれど、ビジネス街という場はそこに残されたままになっていて、もうすこし時間がたてば再び人間で満たされてゆく。丁度一年前に大阪に来たときは、中国へ飛ぶために関空へゆく中継地点だった。そのとき、行こうと思った珈琲店は定休日で、泣く泣く梅田の地下街で早朝にあいている喫茶店を探した結果、泉の広場の一角に流れ着いたのだった。あの日のリベンジをしようと再び珈琲店に向かうも、また定休日。奇しく

2019/09/24 (回想録 Vol.16: 台湾[7])

旅先から国へ帰るのは寂しい。 朝はかなり気に入った朝食の蛋餅を。 豆漿は多すぎるなぁと思ったが、体もあったまる。 帰りの飛行機からは桜島が見えた。 いつも通り、噴煙をあげていた。

2019/09/23 (回想録 Vol.15: 台湾[6])

故宮博物院、頭のおかしい彫刻と名品たち。 玉でできた白菜とお肉は有名だが、それは色がいい感じだから有名になっているだけで、すごいのは二つだけじゃない。ゴーヤを始め、リアリティを追求した彫刻たちがたくさん。 玉だけではない。これは香木に山水画の如き人々を彫りこんだもの。議論をしている人たちがいたり、書きものをしている人がいたりする。 一見、見た目が派手な壺や器だが……。これは内部が何層にも彫られていて、自由に回転するようにできている。手前の青いのも、奥の黄色いのも、全部だ

2019/09/22 (回想録 Vol.14: 台湾[5])

台南は台湾の古都。古都と言っても清代や東インド会社統治からの独立時代以降の中心地である。 高鐵で読書をしていたら平然と乗り過ごし、終点左營まで行ってしまった。こういう悠長なことをするようになるあたり、台湾生活に慣れてきた感じがする。幸い外国人限定の高鐵乗り放題チケットを使っていたので、せっかくだし駅の外へ出たものの、あまり面白くなかったのですぐ折り返した。 高鐵台南駅から台南市街地まではさらにローカル線を乗り継いで20分くらい。 台南到着後は市街地。。。ではなく、さらに

2019/09/21 (回想録 Vol.13: 台湾[4])

現在の首都台北と、古都台南のちょうど中間あたりに位置する台中は、台湾で最も住みやすい街とも言われている。 前夜、週末の帰省で立ち乗りの乗客も多い高鐵で台北から約1時間かけて高鐵台中駅までやってきた。友人からのメッセージ通りの系統のバスに乗り、高速道に入ると渋滞である。かれこれ1時間。乗り換えのバス停で友人と待ち合わせた。 彼女は日本語も流暢で、この数日において日本語で話しかけられることは少なかったので驚いた。久々の再会は夜市などを散歩して深夜まで遊んでいた。 宿泊していたド