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たかがビザ、されどビザー文化人類学の調査ビザ

調査ビザ(リサーチ・ビザ)を毎回とっているかといわれると、そうでもない、ときもある。

わたしの海外でのフィールドワークは、あくまで普通の人の普通の食事、普通の宗教(「普通」の定義も必要になってくるが)であることがほとんどなので、
外国人(わたし)が一般世帯に宿泊したりするのが問題のない大都市などでは、あまりとらなくても不都合がない、こともある。

ただ宗教の存在自体をみとめない国だったりすると、宗教の調査はどこでもNGである。
その某国の宗教に関する研究は、日本の学会発表の場であってさえも、当該国の公安が傍聴にきたりしていた、らしい。先輩がおっしゃっておられた。


わたしの調査対象は最近は都市部から生業の場にうつり、国境近くの小集落になってきたりもしているのだが、こちらはいるだけで執拗に警察に追いまくられたりもする。

ちゃんと地区の警察にパーミット(許可)をとってから来たのに、1日でパーミットを撤回されて、ホテルに戻るよううながされたりする。


また、小競り合いをくりかえしている2つの国の国境にまたがって暮らしている小さな民族にかかわったときがあるのだが、どちらでその民族に接触しても反対側には「スパイか!」と目され、秘密警察につけられ隠し撮りされてそれに気づいた私とのつかみ合いになったり(果敢すぎるあたくす…)、ビザ申請時に陸路で両国間を越えると申告しただけで、延長も不可(通常のビザでそんなことありえない)な、通常の観光ビザからみたら半分の日数のビザをだされ、「でも延長すれば大丈夫っしょ」とたかをくくっていたら対処に間に合わず不法滞在→ギャァになったこともあった(「不法滞在」をあまり次回入国のペナルティに換算しない国だったので助かったといえば助かったが…)。

この陸路は十数年前に自前でバックパッカー旅行でも越えたことがあった国境だったのでまったく問題があるルートなどとは思っていなかったのだが、その経験が仇になったともいえる。思えば十数年前は、運搬されている物も人もたくさんあったはずなのに、わたしが越えたそのときにはひとっ子一人いなかった(ガクブル)。必要なのは経験値ではなく、飽くことなく対象と格闘しつづける精神のほうだといえる、のである。


だいたいこの2国はしんどかった。片方は、調査ビザの取得がミラクル大変。
3人の先生からの推薦書(もち英文。当然下書きは自分)、大学からのノー・オブジェクション・サーティフィケイト(NOCともいう。ビザ取得に所属機関は反対していませんという証明書)、当該国からのインビテーション(招待状。これは当然)が必要で、その書類がそろってからの発給審査の期間、なんと「数か月から6か月以上」!
「以上」ってなに?!「以上」ってことは1年かかることもあるってこと!?それじゃ予定たてられなくね!?
そう、たてられないのである……。


しかも、その国、イスラムが調査対象だと、おそらく許可がでない……という裏情報。イスラム、因縁深い宗教だもんね。でもさ、普通に自国民にもちゃんとイスラム教徒いるじゃない、と思うのだが、そういう…もんなので…ある。いろいろ教えてくださった先輩(その国を対象にしておられる研究者)には、「イスラムへの関心は隠して申請しろ」といわれたが、そりゃあなんとなく穏便なテーマを提示することはできるものの、実際行ってから素行を秘密警察に疑われたりするようなことはしたくないんだけど……やれといわれればやるけど……こういう緊張度を知ってしまうと3人の推薦者の先生方にも調査家庭にもあとで迷惑がかかるんじゃないのかと心配になってくる。そして、研究者界隈で、特にその地域の外国人侵入不可地域に潜入した研究者が永久追放になった(何人も!)とかいう噂を聞き、頭をかかえた(観光地としては優秀な国なので、永久追放とかせつなすぎる。)


片側の国では調査はおおむね問題なさそう?数年前にも推薦書と面接で調査ビザとったしな、と思ったものの、今はコロナ後の諸事情で、ビザ申請がオールオンライン化!在外公館はビザ発給業務に従事していない。え、全部本国の内務省直轄ってこと???

で東京の大使館からインビテーションだけで調査ビザでるよといわれたので、いろいろ声をかけ、インビテーションは、取ったど!


でオンラインサイトでポチっとビザ申請してみると、


ビザの取得がミラクル大変な国から陸路通過予定で申請していたのがまずかったのか、「東京に面接に来て」といわれる(ミラクルの国のほうから申請していた)。


そこから押しても引いても相手は動かない(電話、メールで雨あられと働きかけ。調査計画から過去の論文まで送った)。


うん、、、帰国してから再申請すべぇ…。


と一旦申請はキャンセル、帰国後、東京への夜行バス×2(往復)の強行軍を覚悟して、再度、申請!
次の年に2度にわけて行くから数か月分×2...なのでマルチプルエントリー1年ビザを申請(過去もこれで取得したからさ…)。


で、


2週間程待ち。


「レフューズrefuse」!!!


レフューズ!!!
ってなんかメンタルダメージでかいよ?!!
ビザ申請するときってよく「今までどこかの国でビザ拒否されたことありませんでしたか?」って質問あるけどさ!!
これがその経歴になっちゃうの?!!(というかまさにそのビザ申請にその項目があったのだが、これ書き加えたほうがいいのか?笑)
わたし某国にとって危険人物?!!!


もぉ~…い~よいいよスパイでさぁ。てかスパイならもっといいとこ住んでるでしょうよ。うちここだよここ。課税額だってしょぼ~いし…わたしのどこにスパイの素養があるっちゅうねん(子供のころは忍者になりたかったのでそのへんか)。
調査対象の民族の言語しかやる予定がなくてその国の国語はいまのところからきしである。
いったいこれでどこの国のスパイをやれるのか。

ビザ申請サイトには問い合わせのコーナーも一応は設けられているのだが、一体全体まともな答えが返ってきたためしがない。
一応そこにレフューズの理由も尋ねたが、返答は「聞いとくね」という永久に返事のかえって来る予定のないあれである(イスラムあるある)。


しばらくふてくされていた。
なにしろ理由がわからない。
スパイ確定なのかなんなのか、
な~んにも悪いことしていないのにこういうことばっかりは百発百中…としばらく自分のメンタル回復に専念していたが、
次の一手を考えるとすると6か月以上の側の国に賭ける、しかない、のか。
しかれども何人もの先生に書類作成の手間をとらせ、本当にビザが出るのかもしれない状況に身をまかせ、あとあと3人の先生に「行ったのか。成果はでたか」と聞かれるプレッシャーといったら。それにこっちのビザだって1年待って蓋をあけたらレフューズだったりする可能性が無いとはいえない。結局どっちにしたってひどい。


ぐるぐるぐるぐる、


ビザ代を無駄にしても今一度イスラム寛容な国のほうに、東京面接だのレフューズだのの国に(すでに1年4回以上取っ組み合っていた。実は)、
今度は3か月未満シングルエントリーで出してみるか(レフューズ理由は皆目見当もつかないのだが)、
ビザ代金を無駄にするだけかもしれないけどさ、

…。

前のときは東京での面接が条件、ってはっきりいってたのにっとふてくされながら今度は3か月未満シングルエントリーで申請。
はかなく飛びたっていく申請費用(「ビザレフューズの経験は?」の項目には華麗に「No!」と書いておいた。他の国のことを聞いているように見えたしさ(知らんけど))。



で、



出た。




スパイじゃないんならいってくれよ。


申請期間が長すぎたなら「長すぎ」といってくれよぅ(言ってくれない)。



でも、やった(/・ω・)/。牧民世帯に居候しよう(スパイの素養皆無)。
その国では実は調査ビザはもはや印籠である。あらゆる警察がひざまづき(言い過ぎ)時々飯もおごってくれる(というかしょっちゅう連行されて警察飯をいただくはめになる)。内務省と大使館とのあいだでのこれまでの仕打ちはきれいさっぱりあたまから洗いながし(根に持たないのはイスラム世界では大事。大概相手方も何も考えていない、はず)僻地に居候に行こう~とテンション上がるわたしはやっぱりスパイではなく文化人類学者なのである。









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