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1204マカロンとATOLSという人

中毒性のある音楽という敬称が相応しいと感じるものはなかなかないが、もし聞かれたら音楽好きへの答えは平沢進、ボカロマニアックな人向けの答えはATOLSだとずっと思っている。

マカロンという曲があって、そのMVは色味的に美味しくなさそうなマカロンがたくさん出てくるし、黒いでかいマカロンが心臓のように生々しく鼓動するし、しかもゴリゴリの低音が流れるし、イメージしているマカロンからめちゃくちゃかけ離れているせいでめちゃくちゃ怖い。ずっと怖い。ほんとに最初トラウマになるかと思った。

初めて聞いたのはなんだかんだ遅く去年の夏で、多分この曲好きだと思うという圧倒的な直感力の持ち主によって聞かされた。

正直、最初は怖くて全く聞き入れられなかった。しかしどんどん面白くなって、落ち込むとマカロンと合わせてキーウィミントなど他の曲もよく聞くようになった。キーウィなんてめちゃくちゃかわいい曲で、曲調も可愛いしキーウィも回るので、落ち込まなくても見ている。ミントはマカロンに似た狂気があって、面白がりポイントもいくつかあるので見て確かめてほしい。

そうしてATOLSという存在自体を面白がり始めた頃、氏が参加している『中庭』という同人誌を、マカロンを聞かせてきた人に読ませてもらい、そして私は心の底からヤバい人だと思った。
なぜなら書き始めが“私がスケルトンマカロンの開発に励んでいる頃”だったのだから(そして書き始めどころか最後までヤバい)。

もしATOLS氏がビジネスマカロン好きであっても、私はそれを信じられないと思うし、これらはマカロンを狂信的に好いている人間にしか生み出せない産物だろうと思っている。人間が好きなジャンルのことの話をする姿を見る時に近い感情を、曲を聞きながら感じ取っていて、私は多分そういうところで好きになっている。

実を言うとマカロンより普通にドンガラシャンという曲が好きなのだけど、それでもやはり無視できないマカロン熱に突き動かされ、少し駅ビルのマカロンが理路整然と並ぶショーウィンドウに指を指したりした。

例え分からない部分があっても、好きなものの話をしている人というのは輝かしく見え、精神はいつの間にか穏やかになる。そして新たな視点を受け取ることができる。ATOLSという人間の曲は、そういうものがある、と思う。だから聞いてほしい。いつだって面白いから。

追記 このことを書こうと思ったきっかけになった(マカロンのことを思い出させた)短歌があるので最後に引用する。

マカロンの増殖期である弥生にはころんとしあわせが転がっている
柴田葵『母の愛、僕のラブ』より

“マカロンの増殖期”という表現がすごく面白くて目に止まった。

マカロンに意思があって、しかも野生動物のように繁殖期のようなものがある。勝手に増えたかのような印象の持たせ方が、なんだか他人行儀でそこが良い。マカロンも、実は春に恋をするのかもしれないと思いながら再度この短歌を読むと、全体を包む朗らかな空気感に口元を緩めてしまう。