初恋という狂気の日々 第五十四章

第五十四章 偶然の出会いは突然に

そうして 月日は過ぎて入試の日となった。

当日 私は緊張より、さっさと終わってくれ という気持ちの方が朝は強かったし、この頃は最後の勉強漬けだった為か絢辻さんのコトは頭の中から抜け落ちていた。

入試会場に行くため、朝早く電車に乗り込むと近くに愛嬌さんがいた。
ちなみに愛嬌さんと私は志望校が同じだ
私は愛嬌さんに話かける 「今日の入試頑張ろうな」
愛嬌さんは笑顔で返答する「うん やっと勉強漬けの毎日から解放されるね〜」
私は頷く そうして数駅過ぎると、会場の最寄り駅についた

数時間後 入試が終わり帰宅路につく、当時の手応えとしては “多分受かっているんだろうな”といった感覚だった。そんなことを考えて電車に乗ろうとすると、接続が悪かったからか、予定の一本後の電車になってしまった。

そうして数分後 電車が到着する 
乗った瞬間 目の前に驚くべき光景が広がっていた。

なんと 絢辻さんが暗い表情でいるではないか、私はその瞬間 今まで忘れていた“好き”という気持ちが爆発した。

絢辻さんも私に気づく その瞬間 涙をこぼし、しがみつかれた。

私は困惑しつつも、とりあえず落ち着かせるコトにした。  絢辻さんは「うぅっ(泣)」とむせながら私の胸で涙を流す。私はなだめることしかできない
周りには同じ入試帰りの学生ばかりなので、ジロジロと視線を感じる。その中には同じ学校の人達もいるので、余計恥ずかしい。

自分の服が濡れてることで  絢辻さんが泣いてるのだと改めて認識した。数駅過ぎると、絢辻さんは落ち着きを取り戻し、自分達の最寄り駅に着く時には涙は乾いていた。

 改札を出て二人でベンチに座ると私は様子を伺った 「とりあえず 話を聞くよ」
絢辻さんは淡々と喋りだす「ごめんねいきなり 試験の結果に自信が無いってだけよ……だから気にしないで」
 私は驚く「えぇ…詞みたいな “優等生すら自信ない” なんて言われたら 凡人の俺も不安になるんだが……でもここで気持ちを整理した方が良いと思う」
絢辻さん「アナタに偶然会えて良かったわ 正直 家に帰るまでに、心を開ける人に出会えなかったら、どうなっていたかわからない」
さらりと “心を開ける人”と言われ 安堵する 
そして私は彼女に慰めの言葉をかける「でもさ 結果がどうであれ 詞がいつも本気を出して努力していた事実は変わらないワケじゃん そこに関してはきちんと自信を持って欲しいかな ソレに今回仮に失敗しても、詞の性格的に、その失敗をカテに後々 大成功を収めると思うんだよね」 

絢辻さんは ハッとした表情「そうね……今更何ができるわけじゃないし、、、それにまだ全てが終わったわけじゃないし ありがとう 視野が狭まっていたわ」

私は続けて鼓舞する「だろ?ソレにお前程 自分にストイックな人間みたこと無いけどなw だからどうせ受かってるだろw」
次第に絢辻さんにも笑顔が出てきた
そして思い切って絢辻さんに質問する「ところで 詞はどこを受けたの? もしかして地域No.1 進学高校(仮称)かな」  絢辻さんは「うん……そうだよ」と頷く

※進学高校はその地域なら誰もが知っている スーパーエリート高校で 偏差値70代の難関校

私はその事実を知ると(やっぱり 俺と詞じゃ人としての格が違うな…… 俺なんかが慰めても意味がなかったかな………申し訳ない) と内心は罪悪感で一杯だった

絢辻さんも私に聞いてくる「アナタはどこなの?」
「凡人高校(仮称)だよ」と答える

※私が受けた高校は偏差値60代の凡人自称進学校なので絢辻さんの高校とは比べ物にならない
「なら愛嬌ちゃんと同じだね〜」絢辻さんが話す。

私は思わず自虐してしまう「そうだな 愛嬌とは会場でも会ったよ まぁでも凡人高校 受けたヤツが、詞みたいなスーパーエリート高校を慰めても説得力ないよな 薄っぺらい話ばっかでごめんよ」

それを聞くと 絢辻さんは不思議がる 「どうして?別にドコを受けたとかは関係ないじゃない。 私はアナタの優しさを何年も感じてきたから、嬉しいことに変わりないよ 薄っぺらいとも思わない、アナタはいつも論理的だと思うよ」

私は予想外の回答に驚く 絢辻さんは続けて話す
「むしろ私の方こそ謝りたいくらいだわ アナタだって色々な感情があるはずなのに、一方的に吐き出す結果になってしまって……いつも そうだったよね 私ばかり愚痴を吐いたりして………八つ当たりも数え切れない……迷惑かけていたのは私の方だよ」

私は即座に否定する 「それは絶対ない 詞が本音を話してくれるだけで嬉しい」

絢辻さんはその発言を聞くとキョトンとした表情で喋りだす「やっぱりわからない………どうして そこまで私に寄り添ってくれるの? 私ならそんな身勝手な人間 許容できないわ 」

私は正直に言おうと決心し、顔を真っ赤になりながら目を合わせて本音を話す「そりゃ………女性として好きだから 魅力的だから 寄り添いたいから  前にも言ったじゃないか」

絢辻さんもあっ……っと呟くと数秒 黙り込んだ後
「えっ……その……ありがとう でもやっぱり理解できないの だってアナタには美人ちゃんとか温厚ちゃんとかいるじゃないの……

私は思わず 「いやいや なんでいきなり 美人と温厚を引き合いに出すんだよ」と突っ込む 

絢辻さんは淡々と説明する「だって 美人ちゃんは綺麗で大人しいし趣味や好みが合うでしょ?ソレに昔から仲良いじゃない  温厚ちゃんも優等生だし、私と違って人格者でもある。私はたしかにアナタと趣味や好みは似通ってるし優等生かもしれないけど、美人ちゃんみたいに綺麗じゃないし、温厚ちゃんみたいに人格者でもない。だから不思議で仕方ないの」

 私は淡々と説明する姿に唖然としつつ反論する
「別に 綺麗とか優等生とか それだけが人の魅力じゃないと思う お前は努力家だけど ソレを他人に見せない謙虚さがあるし、ブラックユーモアが面白くて人間味がある  もちろん それ以外にも魅力はたくさんあるけどさ、、、逆に聞くんだけど 昔 俺がお前に告白した時 正直どう感じたんだ?」

“センスが全く無い”って感じたかな アンタはてっきり優しくて落ち着きのあるタイプが好きだと思っていたからね。 まさか私みたいな 癖のある ろくでもない変人を好きになるなんて想像出来ない」と絢辻さんはバッサリと答えた

私は思わず苦笑いをするしかない 「中々 本人の前でズカズカと発言するなw まぁそういうトコが好きなんだけどさ ってか すっかり調子を取り戻してるから良かったわ」

絢辻さんも笑顔で返す「ありがとう アナタと話すと気持ちが楽になるわ やっぱり聞き上手だからかしら? 私も見習いたいのよね」

こんな感じで 1時間くらい 今までの思い出話やぶっちゃけトークを続けた。
 最寄り駅なので、同じ学校の同級生がジロジロと見てきたり、不思議がる視線を浴びたりもしたが、途中から気にならなくなった。

そうして お互い解散とする時だった
絢辻さん「今日 本当にありがとう アナタと喋れて 心底良かったと思う やっぱり 何年も関わってきたけど、アナタには恩しか感じないわ
私も続けて「俺の方こそ 詞と喋りたいと思っていたトコだし、唯一本音で喋れる相手だからこそ 話せる内容だった 本当にありがとう」
最後に二人で抱きしめ合い肩をポンポンと叩くと、二人とも帰路についた

この記事の時点での時系列 中学3年生 冬 出会って五年以上


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