初恋という狂気の日々 第五十章〜五十一章

第五十章 練習と伴奏

そうして 噂話で盛り上がっている中 合唱コンクールの時期が近づいてきた。

私達のクラスは 体育祭でボロ負けした雪辱をバネに最優秀賞を狙うことになった。
クラスは真面目な生徒が多いので、練習も真剣に励みスムーズに進行していく そして生徒会長の温厚さんがリーダーシップを執り、非常に可憐な指さばきで伴奏もこなすコトで、練習に深みが増す。
そうした日常が続くと、クラスの一体感は自然と強まり よりクラスの雰囲気が良好になっていた。

そんな日々が続き、私は思わず 絢辻さんにこの合唱練習の一体感について 理由もなく話したくなった。そしてタイミング良く下駄箱で彼女が靴を履き替えていたので、私は彼女に話しかけた。
「合唱練習 そっちのクラスはどう?」 
絢辻さんはいきなり話しかけたからか、少し驚きの表情「えっ?  あぁ……練習ねぇ… やる気ない人は多いけど、クラスのカースト上位の輩はまとめる気はあるみたいよ。 でも最優秀はあなたのクラスでしょ
だって温厚ちゃんいるし 」

私は謙遜する 「いや そうとは限らないでしょ  それこそ 詞はリーダシップがあるし、ピアノのはお前も上手いだろ?  だから手強い相手だと思うぜ?」

それを聞くと彼女は冷めた表情で答える
「え、あたし? 別にいようがいまいが、大して変わらないでしょ。 それにあの子に比べたら、私は大したことないし… それより あなたのクラスは練習どうなの?」

私は待ってましたと言わんばかりに喋りだす
「そうねぇ やっぱり温厚がリーダシップをとって的確に皆を導いてる感じかな 周りも大人しいから、従順に従うし 指揮者との息もピッタリなのでやりやすいよ。あと 去年までと違って一体感が凄いから練習が楽しいと感じるよ」

それを聞いて「へぇ 楽しそうじゃない あなたも可愛い温厚ちゃんや綺麗な美人ちゃんと一緒に練習出来て良かったじゃないw」

私は思わず突っ込む「いやそれは関係ないだろ まず楽しい理由そこじゃねーし 」

そうすると彼女は どうだかw と呆れたリアクションを取り、会話は終わった。

第五十一章 劣等感は唐突に

前章から数週間が経ち、本番当日となった。

着々とプログラムが進んでいき、そうして 三年生の順番となった。 
前の組が終わり 私達のクラスの出番となる。

指揮者と伴走者が息を揃え 合唱がスタートすると、すぐに会場を圧巻する程の一体感が生まれる。
温厚さんの可憐な指さばきの伴奏と、指揮者の的確なリズム取り、そして歌ってる全員がクラス一丸 になった瞬間だった。
そうして 盛り上がる勢いは止まらず、あっという間に私達のクラスの出番は終わる

そうして 私達のクラスが終わり、次は絢辻さんのクラスの出番だった。

周りは自分達のクラスの発表に満足していて、全く気にしてない感じだったが、私は固唾を呑みながら絢辻さんの伴奏を聞くことにした。

合唱が始まると、すぐに彼女の顔付きは変わった。真剣そのものであり、誰にも近寄りがたい職人の覇気を感じさせるオーラが纏う。
そうして次第に曲が進んでいくと、彼女の指が目で追えないほど 繊細で的確な動きへと昇華していく。サビの段階にはいると、彼女は技巧を凝らし己の全身全霊で演奏曲を表現していた。

この時 私は確信した。❨絢辻詞が学年で一番 演奏技術があるに決まってる❩

そうして 素晴らしい 演奏が終わり、私は拍手をしようとした……………………



その時だった。




なんと絢辻さんが泣き始めたのである


そして泣きながら 彼女は戻っていく途中で、温厚さんや美人さん 愛嬌さんが近くに寄って慰めに行く。 私もその瞬間 自然と絢辻さんに駆け寄った。

先程の女子三人が周りを囲んでいる中を突き抜け
私も近くに走っていくと、彼女も気づき走って近づいてきた。 そうして私に触れると、彼女が私の胸に顔を伏せたので、私は彼女を抱きしめた。 

絢辻さんは泣きながら呟く 「ありがとう……近くに……来てくれて………」

私は黙っていると、彼女は続けて話す「やっぱり……私は駄目……………」 

それを聞いて 「そんなことはない」私は呟き返す

彼女は何か言おうとしたが、むせび泣きで上手く話せない。その様子を見て 私は提案した「とりあえず 保険室に行って落ち着こう」 そうすると彼女はコクリと頷いた。

私は温厚さんに状況説明して、先生への報告を託すことにした。 

そうして 私は絢辻さんの手を取りながら、ゆっくり歩く。道中で「どうして……」と呟きが聞こえて とても気になったが、後で保険室でゆっくり聞くことにした。

保険室に入り 養護の先生に説明を済ませると、私は保険室の隣の空き教室に案内させられた。

私は入らない方が良いかな?と彼女に聞くと「話したいから いて欲しい」とはっきり言われた

そして私は彼女に話しかける 「詞にとっては辛かったかもしれない………でも俺にとっては 素晴らしい演奏だったよ? 自信持って良いと思うんだ」

絢辻さんは泣きながら答える「ありがとう……でも私、、、の演奏は所詮 二番手だよ。 実際 あの子の演奏を聞いた後の私だから 余計 劣っているのがわかったでしょ?、、、 あの子の絶対的な上手さでは勝てないんだから。 あなただって、、、あの子とわたしで比べたら、わたしが下位互換なのはわかってるでしょ?」

私は思わず食い気味に反論する 「そんなことない!俺は演奏を聞くプロじゃないから薄っぺらい意見になるけどな、詞には詞の良さがあるんだよ。
むしろ 温厚と違って表現や技巧を凝らしてる感じがするから味がある。例えるなら詞はレコードで、温厚はCDなんだよ。 CDとレコードなら俺はレコードのアナログで滑らかな音質が好きだね」

絢辻さんは少し照れた表情「そうかしら…………
でもわたしの演奏を好きって言ってくれるのはうれしいわ、ありがとう」

私は褒め続ける「そうだよ お前の演奏が大好きって人もいるし、そこまで卑下されると悲しいよ  君は才色兼備を体現した人なんだから」

絢辻さんは少しうつむきながら話す「そうよね……ごめん、、、 でも私に才色兼備なんて使わないでよ      ”あの子”には何やっても勝てないんだから…才色兼備っていうのはあの子の為にある言葉よ」

私の彼女に対する想いは止まらない「俺はその謙虚なとこを含めて好きだけどな。  自分自身では満足してないのかもしれないけど、誰か一人でも 君の才能と努力を認めていて、そこが大好きな人がいる。それは忘れないでほしい」

絢辻さんはそれを聞くと涙声で質問をしてきた。「えっ、、 、ありがとう……………でも どうして わたしにそこまで優しくするの?」
思いがけない質問で言葉をつまらせつつ、恥ずかしくなり ゆっくりと答える

「えっ?えっ…………それは………好きだから」


絢辻さんはハッとした顔になる
「えっ………本気なんだね…………ありがとう」
その時 彼女の顔に涙はまだあったが、少しずつ笑顔は戻ってきていた。

私達はそのまま 数十分 喋った後に戻ることにした。

空き教室から出ると、温厚さん 美人さん 愛嬌さんの三人が待っていた。三人は「大丈夫?」と絢辻さんを心配する。 絢辻さんは「皆のおかげでもう落ち着いたから 大丈夫だよ」と笑顔で答える。
その様子を見て 私が安心していると、温厚さんは私に対して、何かを納得した表情で  「やっぱり そういうことね」と呟いた

自分のクラス位置に戻ると、私は周りからの視線が気になったが、ゆっくりと着席した。

そうして 休憩時間が終わり、結果発表の時間になった。

まず始めに 優秀賞から発表となる 


選ばれたのは 絢辻さんのクラスだった。


そして 遂に 最優秀賞の発表の時間だ


選ばれたのは私達のクラスだった。


周りがどんちゃん騒ぎしている中 私は絢辻さんの精神状態が心配で仕方がなかった。

そこで私がソワソワしていると、温厚さんが察して 「行ってきなよ。 こっちで誤魔化しておくからさ   やっぱり気になってるでしょ? それに長年寄り添ってきた人じゃないと、わからないだろうし」

私はそれを聞いて また再度 絢辻さんの様子をうかがうことにした。 彼女は少し疲れた様子で大人しく座っているが、表情はどこか悲しげで虚無感が漂っている。 私が話しかけに行くと、少し明るい顔に変わり 「最優秀賞おめでとう 私もあなたのクラスが最高の合唱だったと思うよ」と祝福した。

私はそれに対して謙遜する「詞のクラスも優秀賞おめでとう 俺は詞のクラスが一番良かったと思ってる少なくとも伴奏は詞が一番素晴らしかったと断言できるね」

その発言に対し 彼女は「さっきから ずっとありがとうね………お世辞だったとしても嬉しいわ でも私があの子に勝てないのは事実 だから下位互換であることに変わりはないの……」と諦めた表情で話した。

私はそれを否定しようとしたが、集合時間となり 彼女から離れざるを得なくなった。

教室に戻っている時 私は考えていた
❨どうにかして 詞を温厚に勝たせないとなぁ… 
でも温厚さんを引きずり下ろすのは気が引けるし……
どうすれば良いんだろ❩

この記事の時点での時系列 中学3年生 秋 出会って五年以上


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