11月5日午前0時。わりと泣けなかった。わりと私は今まででいられた。わりとふつうっぽくわりといつもの堕落した登校拒否児のようにいられた。涙は流れているようで流れているのはべとついたつめたい汗で、感情というものは敷き詰められた皮の重なりの一番下で窒息していたけれど、たしかに泣いていたし、全身に青い血が巡るように身体は燃え、冷めていた。泣いてしまいたいのにうまく涙も流せず、ただ模範的な笑みを浮かべるばかりで、時々、ショック…とワイドショーの街頭インタビューに出てくる都会の女のように嘆いてみたりもした。眼筋と表情筋のこわばりをよそにふつうを演じていたけれど、明日にはこの痛みに慣れてしまってるんじゃないかと思うと瞳を閉じるのも息をするのもこわかった。いつまでも夜が明けなければいいと思ったし、この夢が醒めてしまえばすべて元通りに、ただ退屈の中に沈んだきらきらを拾い上げるだけの徒労が戻ってくるんだと思っていた。現実逃避をするように両耳へ大音量の音楽を流し、出来る限りを尽くし五感を塞いだ。そうしていると、わりとふつうだった。どこか他人事のような口調で脱退を語り、そして移ろいやすい雑談をこなしているうちに夜が明けていった。焦燥と動乱と怒りと悲しみとはがゆさと、ひとびとの負の感情が一つに詰まったようなタイムラインに共感したくもないのにハートを飛ばして次なる居場所を求めた。彼らだけが私のよすがだった。

あの日から数日、さまざまな憶測が未熟な脳の間を縫って飛び交う中、私がいちばん怖れたのはこの言いようのない痛みにいつの日か慣れてしまうことだった。分裂を受容して楽になるよりも、この痛みにもがいていたかった。5人が5人でいるという普通を手放したくなかった。
私にとって彼らをうしなうということは自らの居場所をうしない、生きがいをうしなうことと同義だった。

でもこんなままならない時も私の心を救ってくれたのは彼らだった。さびしさがつきまとうけれど画面越しの彼らを見ているときはすごく満たされた。彼らの生きる姿を見つめる度に私もかけがえのない今をあますことなく記憶していこうと思えた。やはり彼らが私のよすがだったし、彼らが私の幸福だった。

11月4日から5月22日までの半年の間にふたつほど季節が巡った。この半年間は私の余命だった。余命半年。そう思ってせつなさと悔しさをひた隠しにして晩秋を冬を春を越えていった。冬が終わるのがひどくこわかった。花々も人々も芽吹く春なのにすごく淋しかった。

またたく間に訪れた最後の日も相変わらず臆病な私は思うように泣けなかった。泣いてしまうとすべてを受け入れてしまうような気がして泣けなかった。半年前と同じように他人事のような顔をして、最後の姿を噛み締めていた。もう会うことのないかもしれない世界でいちばん大切なあなたを見つめる。最後の最後まで私の大好きなあなただった。変わらずつよくて優しいあなただった。とても痛切な思いでこれからもあなたを愛しつづけるとひそかに誓った。
私の道標でよすがで活力で憧れのあなたのままで、私の第一の推し活人生も、あなたの第一のアイドル人生も幕を閉じた。

どんなことがあっても私の中の彼だけを信じる。それがたとえ幻影であっても。私自身が作り上げた都合の良い偶像だとしても。信じたいものだけを信じていよう。私の中にあるものなのだからそれは真実だろうが偽りだろうが関係ない。いつも私を励まし、生かし、私の五感を握る大好きな彼だけを信じる。それだけを心に置いて過ごした半年は、私を今も励ましつづける大切な記憶になってしまった。
彼らと過ごした日々が過去になってしまうのがこわくて、今も記憶の頁をひらいて懸命に思い出しては、埃を払ったり色をつけ直したり、去年の冬あたりの自分に思いを馳せてみたり、まだまだ未練ばかりだけれど、痛みすら忘れたくないほど誰かを愛すことができたなんて幸せ者だなとも今は思える。

彼らに出逢ってたくさんのことを教えてもらった。
誰かを心から愛すことの難しさ、何かに依存するという恐ろしさ、大切なものをうしなうこわさ、そしてそれらを超越する幸福。
孤独な日常を送っていた私はずっと居場所と依存先を探していた。
誰かに心揺さぶる愛を与え、与えられたい。家族のような寛やかさと友のような親しみやすさと恋人のような刺激とときめきを持ったひとに出逢いたい。そのすべてを叶えてくれたのが彼らだった。
数え切れないほど私を死の淵から救ってくれて生きがいを与えてくれた。
彼らには本当に感謝しかないし、私を幸せにしてくれたように彼らも幸せに生きてほしい。
些細な状況の変化があっても大切に思う気持ちだけはきっと永遠だと思う。
もしも私の世界が閉ざされて、息ができなくなっても彼を思って叫ぶだろうし、彼の世界が閉ざされて、希望を見出せなくなっても彼を愛しつづけるはず。息苦しく生きづらい現代でも、私は彼が息をして輝いているこの世界に生まれてこれてよかった。彼が生きているというその事実だけで死にたくないと思える。彼を信じ愛することで自分自身をも信じ愛することができる。
それは、変幻自在に素敵に変化していくあなただけれど、今もこうしていつも変わらずに微笑みかけてくれているから。
あなたのまばゆさが私を輝かせる。
あなたの幸せが私の最高の幸せ。
𝑪𝒐𝒐𝒍 𝒘𝒊𝒕𝒉 𝒚𝒐𝒖…