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現場調査の話②-参与観察-

今回はフィールドワークの中で行われる参与観察に関するお話です。参与観察は、関与型フィールドワークを実施する際の中心となる定性的(質的)なデータを収集する方法の一つです(図1)。

図1フィールドワークの分類


参与観察の目的

参与観察とは、「調査対象となる人々の生活に密着し、行動と体験をともにする中で、その人々や社会の文化を理解する方法」である

佐藤郁哉.フィールドワーク-書を持って街へ出よう-.新曜社.2008

私の言葉で言い換えると、「明らかにしたい問いの答えを持っている対象の活動に参加し、様々な方法を用いてその対象のことを知るプロセス」であると思っています。参与観察は"潜入ルポ”のように対象となる集団に対して密かに行われる場合や、しかるべき説明を行った上で行う場合があります。
※自分がどのような研究設問(リサーチクエスチョン・問い)を持っているかによって、説明するかどうか決める場合もありますが、判断に迷う場合は指導教員や参与観察の経験のある人に相談した方が良いと思います。

参与観察を行う際、「わざわざ外から自分から現場に入って研究しなくても、現場の人がやればイイじゃないか」と思う方もいるかもしれません。フィールドワークはせいぜい数ヶ月、長くても数年程度しか実施しないことが多く、そんな短期間の出来事をまとめたところで、現場のことを真に理解することができないという指摘がごもっともだと思います。

しかし、現場の人は、一般の人から見たらには素晴らしいこと、意味のあることを無意識に行っている場合があり、それは現場の人が気づいていない行動かもしれないのです。その、素晴らしい行動をフィールドワーカーというある意味、"異人"の立場で観察し、明らかにすることで、同様の問題を抱えた他の地域や社会の人々の助けになる可能性があります。

そこにフィールドワークの中で実施する参与観察に意味があるのです。

参与観察を行う場面

参与観察を行う場面として、
・農作業や三輪車の手入れをする場
・生活困窮者支援の活動現場
・地域の伝統的な祭りなどの伝統行事
・病院での看護業務やリハビリテーションの場
など、実際に現場で活動されている人々の近く立ち会い、観察することが多いです。そのため、理論上は自分の関心のある現場全てで実施できるものとなっています。しかし、自分が全ての現場にアクセスできるわけではないため、場合によっては参与観察自体の実施が困難になる場合があります。その場合は、参与観察以外のデータ収集方法を検討する必要があります。

参与観察を行う際の注意点

その際の注意点として、現場の活動に部外者が入り込むわけなので、現場の人々の活動の邪魔にならないような配慮をする必要があります。活動の注意点を下記に列挙します。

・現場の人々の作業を止めないこと
・現場の人々に不快感を与えないこと
・特定の人とのみ仲良くならないこと(開始初期にインフォーマントとしか話ができない状況は別)
・インフォーマントと定期的に連絡を取り合うこと(定期連絡程度で)
※インフォーマント:参与観察を実施する上で現場でのキーパーソンとなる人物

その他にも、たくさんの注意点がありますが、基本的な礼儀を忘れずに真摯に活動に取り組めば、いずれ現場の人々が認めてくれると思います。

参与観察のデータ収集方法

参与観察を実施する場合は、文字で記録をとる事が求められます。

それはフィールドノーツと呼ばれる記録です。フィールドノーツを作成する利点として、「現場で発生した言語化しにくい主観的な体験のの内容を文字で記録することで、後に自分自身の体験や先行研究を踏まえた考察を加えて記録できる点」にあります。参与観察毎にフィールドノーツを作成する事は大変な労力です。しかし、人間は体験したことを忘れてしまう動物です。そのため、一つ一つのフィールドノーツを丁寧に記録しておくことで、参与観察終了後の最終まとめの際に、抜群の効果を発揮します。

フィールドノーツの種類には様々なものがあります。以下に引用します。

①出来事が起こっている最中にメモ用紙、メモ帳、カードなどに書き込んだメモ(現場メモ)
②①などをもとに1日の間の観察や考察をまとめて清書した記録(清書版フィールドノーツ)
③聞き取りの記録(インタビュー中のメモ録音テープを起こした記録など)
④調査の最中につけた日記や日誌

佐藤郁哉.フィールドワークの技法-問いを育てる、仮説をきたえる.新曜社.2007

中でも①と②を作成、活用することが多いです。さらに、フィールドノーツを作成する中で、単に観察した記録だけでなく、その時に理論的覚え書きと呼ばれる考察した内容を記載しておくことで、最終まとめを効率的に進めることができます。

フィールドノーツの書式に決まりはありませんが、私はwordで枠を作ったものを使用していました。実際に、現場で修正を重ねたフィールドノーツの型を載せておきますので、誰かの参考になれば嬉しいです…

図2.筆者が使用していたフィールドノーツ①
図3.筆者が使用していたフィールドノーツ②

以上、参与観察について、その目的からデータの収集方法について簡単にまとめました。もっと学習したいという方は、下記に参考文献を記載しております。こちらを参考にして、現場の問題解決につなげる人が増えたらいいなと思います。

参考文献
1)佐藤郁哉.フィールドワークの技法-問いを育てる、仮説をきたえる.新曜社.2007
2)佐藤郁哉.フィールドワーク-書を持って街に出よう.新曜社.2008
3)グラハム・R・ギブス.質的データの分析.新曜社,2017
4)波平恵美子.質的研究-step by step-.医学書院.2019





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