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セイレンの月


天空のちさき月よりちさき声宿縁として聴こえ降る音

先の夜の月あかりなど纏ひつつきみは銀河を背負って降り立つ

雲いつもどれも完全なるかたちあなたの雲のあなたであなた

正解のなき晴れ方の空の色ホットケーキはいつもほくほく

冤罪のはや十度目で虹を出す人を愛してそののちのこと

閏秒その一瞬に封じられきみのあいなるまぼろしの愛

満月は昇る無実の顔をしてあなたを求め続ける剣

愛し方知らずに凍て蝶の吐息月桃の真下ににシャーマンの影

あの街の美術館へと時違え通ったきみと見据える来世

朝焼けに残月許し許されてすべてはつぎの世へのしゅくめい

キリストもマリアも消えて聖母子画きみとわれとを埋め込む罪に

三つ買う呪文月夜の露店にて使う使わぬ使わ、ぬ、使え。

青インク重く重くと綴る文字折れた翼はきみだけのもの

セイレンのごとく愛せば遠ざかるきみの自由を泳ぐ海とは

掌に載せた焔の後日談空より生える耳へと煙

しあわせのまぼろしですねヨーグルト白きこんとん混ぜてこんとん

ネモフィラのすべては風に放ちますゆるい青いになれますように

わたくしを遠くへ逃がす光ありパッションフルーツその香りごと

逃亡や一切の月従えて走れ海へと無敵無敵と

てれとっと階段降りて辿り着く花屋の前のきみのたましひ

夏の風腕時計つとはずしおり時間の澱と革の汗染み

ひとりへ降りてビル・エヴァンスに包まれるカフェにながれる時間の厚み

月あかりキース・ジャレット萩の花秋のわたしを創りゆくもの

たましいはほろびないねと告げるときキースのピアノそれだけ聴こゆ

ゆく末を案じ花火の消えた痕あなたはわたしそれを生きよと

神の手の届かぬ星のひとつ墜つ受ける掌あらばその身焼けても

選べずに鞄の中の空と海いまもまるごとどこへ運んで

雨脚をずっと目で追う日のひとり満ちるはずなき空のただ空

運命や窓から届くものすべてやがての海の内なる凪へ

厭世のさいごの枝に藤枝垂る焉わりて続く紫の音

亡き人と尽きぬはなしの白式部その揺れ巾は狂れ巾にして

泣いたのは大樹の上のほうの枝世界見る目の上から下から

見えなくてどこかに居るねバンクシー撃ち抜く風船みんなあなただ

たたかひはひとり風ごと吸い込んでアラビカジャスミンどこまでも白

肩越しにぐいと香った梔子のあの世この世を跨ぐ香りの

散りぢりの雲とわたしのほどけ方時の流れの風なる正義

焉われない空群青へ落ちてゆくわたしのなかで飼い慣らすもの

ほどほどの闇茄子紺のワンピース祭壇の前幾歳経ての

蒼い薔薇夢を叶えてのちのこと月あかり降れ夢の在り処へ

エイエンに答えのなくてマトリョシカぱこぱこ出してちいさく生きて

白黒と転生やがて透ける猫ぬくもりもどきだげを遺せば

わすれものわすれるように世は開けて無垢は無垢向くあ、か、る、い、ほうへ

鳩尾の宇宙に湖面たふたふとたふんとやがて闇を鎮める


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