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コウフクノジッカン

私は無類の酒好きである。…というとちょっと盛った表現だが、とにかくお酒が好きだ。バリキャリ時代は一人でも時間が余っていたらフラッとバーにお邪魔して一人しっぽりやっていた。なんともおっさんくさいなと思われるかもしれないが、もっと言えば牛丼チェーンでおひとりさまなど余裕である。

そんな私だけども、飲む時は隣にチェイサー…というより、何かツマミを用意することが定番スタイルだった。何かをもしゃもしゃと食みながら飲むお酒はとても美味しい。ペアリングというのだろうか、もっと気軽に味変と個人的には思っている。ローストされたナッツは美味しい。燻製はなおよし、チーズもなかなかいける。お腹がいっぱいでもう固形物を受け付けないという場合を除いてとにかく何かを添えたい。

さて先日家族三人で出掛けた際、目をつけていたフライの店に入った。もともと息子がフライドポテトが大好きで、これなら食べ応えありそうだと是非連れて行ってやりたかった。

店に入ると大人はワンドリンクオーダー制、せっかくなので私はクラフトビールを注文した。一期一会という名前のクラフトビール、飲みやすく美味しかった。いつもの私なら何か前菜的なものをそこでオーダーしている。

しかしふと気づいた。ただただ高いスツールに上手に座りこなし、静かにポテトを頬張りまったくといっていいほど店に溶け込んでいる息子。その姿をツマミに自分は呑んでいる。

もちろん目の前のポテトを摘まむことは可能だ、息子も一つもらうよと言えばあっさりと了承する。私も味を知りたくて一本もらって食べてみたが、それを無意識にもアテとしては必要としてなかった自分に驚いた。

なんとなく、親になったんだなぁと思う。

面白そうなもの、美味しそうなもの。それらを息子に提供し、同じ空間と時間を共有出来ることを幸福と感じられること。またかつての在り方から少しずつ卒業しつつあるということ。

固形物でなく息子の姿をツマミに呑むなど個人史上前代未聞である。日常の何気ない瞬間だが、何にも増して『幸福』を感じた。幸福論を読んでもいまいちパッとしなかった幸福について、何の気なしにふとこれであると確信を得たような気もした。

そのことがいまも少しくすぐったく、またほんのりと心を温めてくれる。

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育児日記

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