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楽園-Eの物語-陰鬱な空

く 陰鬱な空の下、儀式は淡々と進んだ。
 私語を慎み、山道を上っていく。
 村で選ばれた男と女、二十四人づつだ。
 先頭が村長、次が男達、少し間隔を開けてセランとルージュサン、女達と続く。
 セランは辺りを見回して、冬山の景色を楽しんでいるようだった。
 そして振り向いては転びかけ、女達をひやひやさせた。
 山の中腹で村長が歩みを止めた。
そこが洞窟の入口だった。
大人が両手を広げてやっとぬ届く程度の幅だ。
中に入るのは村長、供物を捧げ持つ三人の男、『神の子』と『歌い女』だ。
 内壁は次第に湿り気を帯び、
空気は冷たさを増す。
 光はすぐに届かなくなり、村長とルージュサン持つ灯りだけが頼りだ。
 でこぼことした足元に気を付けながら進むと、程なく行き止まりになった。
 腰の高さに祭壇らしい凹凸がある。
 その中央には燭台、祭壇の手前には何枚もの毛織物が、重ねられていた。
 村長が燭台に蝋燭を置き、手燭から火を移す。
 次は供物だ。
殻が付いたままの穀物と木の実、干し肉と煮詰めた乳を左右対象に置く。
 織物の右奥に水差しと手燭を置くと、村長は後ろに下がった。
 セランがすい、と前に出て織物の上に立つ。
 そこにルージュサンが、背負ってきた織物を巻き付けた。
 ルージュサンが下がると、セラン以外の全員が正座になり、両手と頭を地に付けて、春の感謝と祈りの祝詞を唱和した。
 一回、二回、三回、四回・・・、十回・・・二十回・・・三十回。
 ゆらり。
四十三回目で炎が揺れた。
まず村長が、続いて全員が立ち上がる。
くるりと向きを変え、ルージュサンから手燭を渡された村長が出口に向かう。
ルージュサンの耳には、セランの息遣いが聞こえた。
 セランは背を向けたまま、ルージュサンの足音だけを聞いていた。
 
 
 
 
 
  
 
 
 

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