見出し画像

楽園-Eの物語-小龍のキャロ

《腕の良い船頭を乗り継いで夜通し急げば、四日とかからん》
 ムンはそう言って、船を手配してくれた。
 帰路を急ぐセランとルージュサンには、有難い話だった。
 ムンの言葉通りに三日めの朝、二人は船を下り、馬車を頼んだ。
 ルージュサンが切り揃えた、セラン銀髪が肩辺りでさらさらと揺れる。
 一方、ルージュサンの癖毛は、四方八方、好き放題に跳び跳ねていた。
「花火に頭から落っこちた、入道雲みたいに可愛らしい!!」
 と、セランは誉めちぎり、ルージュサンを複雑な気持ちにさせた。
「また、行こうね。今度は二人であの広場に入れるかな?」
 右肩に頭を預けるルージュサンに、セランが聞いた。
「『神』次第なのでしょうね。ですが招いたのは『神』なのですから、歓待してくれるかもしれません」
 黄金の龍が消えていく時、二人には『神』の声が聞こえたのだ。
『有難う。また、歌を聞かせてくれ』
と。
「伸びた髪も置いてこようね。切る練習もしとかなきゃ」
 セランがルージュサンの頭を撫でると、髪の間から赤い物体が、ぴょこりと飛び出した。
 真っ赤で掌より小さいそれは、細長く四本足で、尻尾と羽が生えている。
 大きな目と口がついたその姿は、新種の蜥蜴に見えなくもないが、空を飛ぶ。
 洞窟からムンの家に戻って、ベルトを外そうとした時、懐ですやすやと眠る龍を見て、ルージュサンは驚いた。
 そして何度も山に帰そうとしたが、ルージュサンから離れなかったのだ。
 なので二人は『キャロ』と名付けて、家族に迎えることにしたのだ。 
「家族以外の人の前では、隠れていてくださいね」
 ルージュサンに言われて、キャロは胸元から、彼女の懐に飛び込んだ。
「龍とはいえど、そこから入られるのは、少し気になります」
 セランが注文をつけると、キャロは胸元から頭だけを出し、火を吹いた。
 ルージュサンが頭を起こし、愉快そうに笑う。
 そしてふいに、真顔になった。
 
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?