見出し画像

中村健太郎×小山龍介「コンサル脳をつくるー3大基本スキルを身につけて市場価値を最大化する」ーBMIAリスキリング・セッション(2)

中村健太郎×小山龍介「コンサル脳をつくるー3大基本スキルを身につけて市場価値を最大化する」ーBMIAリスキリング・セッション(1)の続きです。


iPhoneの登場が引き起こしたこと

中村 日本の文化とビジネスモデル、そして、それがポストコロナ、デジタル時代にどう変革したのか。まずはどんなことが起きたか、見ていきましょう。

二〇〇七年七月一一日にiPhoneが出ました[※編集注 アメリカでの発売は同年六月二九日]。右側の上のコメントは某通信キャリアのエグゼクティブの方のものです[図1]。

[図1]

「スマートフォンの総販売数を見ても、端末の魅力は低いと言える。まだ携帯の方が使いやすいというのが本当のところだろう。入力方式にしても、日本の携帯ユーザーにとってはテンキー入力が当たり前。テンキーを前提にした日本語変換が便利になっており、今のスマートフォンより圧倒的に打ちやすい」

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0809/17/news089.html

中村 要は、「日本人はiPhone使いません。HT-03A、Googleフォンの失敗があったんで、PDAは使いません。」と言ってるんです。一方、下のコメントは、iPhone の日本独占販売権を獲得した孫正義がジョブズから言われたことです。

「マサ、君はクレージーだ。まだ誰にも話してないのに、君が最初に会いにきた。だから君にあげよう」と。

[Charlie Rose インタビュー:Bloomberg

「日本人はiPhoneを使わない」と日本人の通信の専門家が言ってる頃に、孫正義はスティーブ・ジョブズに会いに行っていた。

その後どうなったか。二〇〇七年、既存社がシェア九〇パーセントだった。ところが二〇一九年、利益ベースでいくと、アップルiOSのシェアが九二%とむちゃくちゃ増えた[図2]。

[図2]

中村 二〇〇一年当時、フィーチャーフォンといわれるガラケーは一一社でつくってたんです。ところが、スマートフォンになったら、五社になってしまって、さらにほとんど赤字になってしまった[図3]。

[図3]

国境を壊すほどの大変化

中村 これはハンドセットが変わっただけではなくて、大きく日本のビジネス構造も変わってしまったということです。なぜこんなことが起こったのか、非常に興味深いところです。

この図[図4]の左側にはスペックが書いてあります。フィーチャーフォン時代のスペックとスマートフォン時代のスペック、メモリーやカメラの画素数が飛躍的に伸びています。

[図4]

中村 なんで伸びてるかっていうと、台数の違いが大きくて、フィーチャーフォンは、たとえば当時のシャープでさえ、一〇〇万台売れればトップセラーだったものが、iPhoneだと、二桁も三桁も違う[図4 右]。そうすると、生産から、調達から、搭載する部品から全部変わってきますし、単価も変わってくる。生産の規模が変わり、もっと言うと、国境がぶっ壊れた。

単なるフィーチャーフォンからスマートフォンになった、というだけではなく、それが国境を超えてサプライヤーのビジネスを大きく変えてしまった。こういう大きな変化は、われわれの身の回りでほかにも起こりました。

最近のNetflixブームもありますけど、二〇〇四年から二〇一〇年を見ると[図5]、Netflixは後追いで、もともとオンラインDVDレンタルをやってたところが、ブロックバスターを凌駕していく。

[図5]

トイザらスもどんどんどんどん収益、業績が下がってきてしまった[図6]。

[図6]

こうした例は枚挙にいとまがなく、なにかの変化でビジネスの構造自体が大きく変わってしまった。

グローバルマーケットから取り残された日本

[図7]

中村 このときに、日本企業はどうしていたのか、またはグローバル化でどんなことが起きたのか。図7は、時価総額を上から順に並べたものですが、この紫の部分がソフトウェアのプラットフォームの業界で、右側にいくほど増える。最新だと、もう少し違う風景になっていますが、ほとんどの企業が何らかのソフトウェアのプラットフォームまたはデジタル関係の会社になっています[図7]。

この潮流をうまく生かした企業が変わっていますし、収益のモデルも大きく変わってきています。

一方、日本の企業はどうだったのか。ほとんど変化がないですね[図8]。

[図8]

中村 グローバルではソフトウェアのプラットフォームとか業界変革がバカバカ起こってるんですけど、これが日本だと、「ずっとトヨタ」「ずっとドコモ」というように、変化がすごく少ない。

ただ、二〇〇〇年にはNTTドコモ、NTTは、グローバル需要のところに入ってましたし[図7]、トップテンの少し下にトヨタが入っていました。二〇二〇だと、たしか四〇何位でした。

日本のなかで変化がない、ということはグローバルで見るとマーケットからとり残されてしまっているということです。世界でビジネス構造が大きく変化してるときに、その変化をとらえる企業のなかに、日本企業が入っていない。つまり、相対的にビジネスを失ってしまっていることが見てとれます。

いち早く決断し、いち早く動く

中村 この変化の要因はなにか。デジタル時代、ソフトウェア時代の勝ちの要諦は、スピードとスケール。いち早く決断し、いち早く動いて、寡占、少なくとも複占、五〇から八〇パーセントのシェアを取らないと勝てないといわれています。

これにはいろんなファクトがあります。いち早く挑戦した先行企業が成長し、出遅れ企業は駄目だ、とか。キャズムがどんどんどんどん上に伸びてきているとか。あとはユニコーンとよくいわれますけど、時価総額一ビリオン、日本円で一五〇〇億以上にいくまでにかかった時間が、Googleでさえ七年かかっているのに、二〇一六年に上場したインディゴ・アグリカルチャーは、たった一年で一ビリオンまでいっている。めちゃくちゃ速くなってきていますよね。

この図[図9]は、右にいけばいくほどコンベンショナル、要するに昔からある業界、製薬とか自動車、左に行けば行くほど、デジタル時代に入れた新しい産業、サーチとかeコマースとかのマーケットシェアなんですが、左のほうは、シェアの大きさがえげつないですよね。トヨタでさえ八パーセントですが、Googleはサーチエンジンで七七パーセントですし、eコマースは地域ではほぼ独占か複占しています。

[図9]

中村 早く始めて勝ち切らなきゃいけない。ひとつは、テクノロジーの指数関数的な発展で、これは通信料と通信の速さ、マイクロプロセッサーのクロック数をとっているんですけど、ここ五年、一〇年で数桁倍になってきています。

それから、限界費用ゼロですね。すべての富はひとつの企業に収斂されたり、ひとつのものをつくるにあたっての限界コストは限りなくゼロになっているといわれています。固定費さえあれば全部できます、という時代がきているといわれていますよね。

昔ちょっと調べたことがあるんですけど、仮にですよ、モビリティサービスという括りで見たときに、日産とUberの市場価値が同じだとすると、日産はトータルアセット、有形資産を数えて五兆円あって、Uberは一三〇〇億円。昔は、車をつくるための工場をたくさん持ってることが収益を継続させる仕組みだったのが、必ずしもアセットが必要なくなって、テクノロジーで大きなバリューを出せるようになってきています。


小山 ここで無料配信のYou TubeFacebookは終了です。BMIA会員はアーカイブでも見られますので、ぜひご検討いただければと思います。



コロナが加速したデジタル化

小山 ということで、ここからはコロナ時代のビジネスモデルがどう変わるか。さらに大切なことを次々にお話ししていただきます(笑)

中村 これからが本番ですね(笑)

ここまで、コロナ前の話で、デジタル時代に大きく変わりました、という話をしてきましたが、コロナでデジタルはすごく進展しました。

このリスキリング・セッションもオンライン配信していますが、コロナの前ってZoomでセミナーやってなかったですよね。コロナ禍で、いわゆるGAFA、デジタル系の企業は、すべて最高益を出しました。

あんなに一生懸命DX、DXって言っててもなかなか始まらなかったのが、コロナが加速させました。コロナはほとんどいい影響なかったんですけど、唯一あるとしたらデジタル化が非常に加速したことですね。これは個人のレベルでも、企業、行政のレベルでも起こりました。マイナンバーも進みました。

こうしたデジタル化の加速で、ソフトウェアのプラットフォームの企業が優位に立っている。だけどなぜかそこに日本企業が入れない。

なんでわれわれ日本人は、デジタル化に強くないのか。または日本企業、日本のガバナンスの仕組みはどうして強くないのかと、いうところをお話ししていきます。

デジタル化がかなえた、経済学の三つの要諦

中村 デジタルは、資本市場、資本主義の特性を強めていく、強化していくものだというのが、ひとつの解かなと思います。

経済学をやられた方はよくご存知だと思うんですけど、「完全競争市場」が、経済学上のひとつのリアルなモデルでした。それには五つの要諦があったんですけど、そのなかの三つがデジタル時代に強調されていきます。

[図10]

中村 ひとつは「財の同質性」。昔は高島屋で買ったものと伊勢丹で買ったものは、包みが違うから違う価値がありました。いまや、Amazonで買おうが楽天で買おうが、モノが一緒だったら違いはないし、比較もすぐできます。

「完全情報」(買い手、売り手ともに相互の情報が開示されているという状態)、「完全取引」(トランザクションのコストが限りなくゼロになるというリフキンの考え方)を前提にいろんな戦略が書かれたんですけど、デジタル化によって、未完成だったものが、だんだん、だんだん最初の理想的な経済モデルに推移してきました。資本主義の根本を考えたときにつくったモデルに、ようやく世の中が追いついてきたということです。

勝ちの要諦 スピードとスケール

中村 マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で書かれていますが、「資本主義はプロテスタントから生まれた」という有名な話があります。本当かどうか知りません。ただ、事実として、マルティン・ルター(ドイツの神学者、教授、聖職者、作曲家)とかジャン・カルヴァン(フランス出身の神学者、キリスト教宗教改革初期の指導者)の予定説が生まれたあとに、資本主義ができました。

私はアクセンチュアにいたのですごくよくわかるんですけど、マネジメントはキリスト教のプロテスタンティズムがやるとばっちり合うんですね。これは非常に興味深いところで、なにが合うかっていうと、まず、意思決定がめちゃくちゃ早いんです。なぜなら、一神教は行動することが大事で、決めることが大事。基本的には砂漠の宗教ですので、そこでは「停滞」は死を意味するからです。

アクセンチュアでリーダーシップになったときに、「明日までにハンドレッドデイズプラン(最初の三ヶ月のプラン)を出せ」といわれたんです。前任者と同じことをやると評価されないんですよ。「お前を任命した意義がないだろう」って。だから、前任者とは「違う」ことを「早く」やる、敵に勝つための必要なリソースを持ってくることが求められます。目的からさかのぼるんです[図11]。日本は、いまここにあるものでつくる、あるものでやろう、うまくやろうとするところがありますが、そこは非常に目的に適っています。

[図11]

中村 行動の早さという点で非常に面を喰らったのが、私はけっこうなポジションにいたのに、「事業計画をつくってはいけない」ということでした。

事業計画は、上から降ってくるんですね。で、「これを達成しろ」するのが私の仕事だったんです。達成する方法はお前が考えていい、と。しかし、その計画自体は、なにを言っても変わらない。そうすると、考えてる暇がないんで、めちゃくちゃ速くなるんです。

コーポレートの役割は事業計画をつくること。僕はそれを達成するためのプランをつくるのが役割。これは極めて「超越」という言葉が正しくて、ここから先は神の領域、ここからは人の領域っていうのが、パカンと分かれるんですね。

小山 日本だと、積み上げで、いったん足し算してみて、足りないと「ちょっと足りないぞ」みたいな大枠のぼやっとした指示があって、各部門でまた積み上げて、と、すり合わせで事業計画がつくられていきますね。

熟考し、忖度し、コンセンサスをとる日本企業

中村 さらに言うと、これはコンサルティングの現場で何度も経験するんですけど、経営戦略が決まったあと、社長または事業担当の副社長が方針を決めて、それを部長や課長に落としたりすると「なんでやんなきゃいけないんですか。納得できません。腹落ちしません」っていう言葉が絶対返ってくるんです。

外資ではそんな話は一切聞かない。「うるさい、やれ」って言われるだけ。いいか、悪いかは別として、考える人と行動する人は別、という考え方なんですね。

日本的な考えだと、全員が納得してコンセンサスとってから動く。これは、スタートのピストルが鳴ってから位置につく感じで、考えて考えて考えてから動きますから、けっこう差がついちゃうんですね。この戦略の要諦よりも、行動の早さが成否を分けている。

[図12]

中村 対比的に見ると[図12]、やっぱりこのあたりが、われわれが持ってるディスアドバンテージです。日本企業は熟考主義で、契約で「お前これ」「俺これ」って決めるのがあまり好きじゃなくて、あの人はなにを考えているんだろうと忖度したり。目的も、日本の場合は、再定義して「そもそもこれはなんのためにやってるんだろうか」っていうのをみんなが考える。だから、スピードとスケールは出ません。

これは私の観察なんですけど、文化宗教的な背景が影響していると思うんです。物の本によると、日本は世界の文明のなかで唯一、農耕、定住しながら狩猟時代を過ごしたという、極めて特殊なところです。要は物がいっぱいあって、食うに困らなかった。なのでゆっくり休めばいいし、ゆっくり考えればいい。

フランス人の同僚がよく言ってました。「釈迦は東洋だから出たんだ」。キリスト教やユダヤ教が生まれたメソポタミアとか、バビロニアとか、ああいうところで一〇間菩提樹の下で瞑想してたら死んじゃう、と。熟考できるのは豊かであり、その豊かな際が日本にあったからで、われわれは「すぐ動かなくてもいい、よく考えればいい。自分なりに目的を再定義しよう」という思いが非常に強いんじゃないかなと。

『コンサル脳を鍛える』で最初に日本語を取り上げましたが、文化を体現するのが言語ですから、非常におもしろくてむずかしい問題かなと思ってます。

(3)につづく

【BMIA会員限定】BMIAリスキリング・セッション動画をご視聴いただけます。
BMIAホームページにログインしていただき「限定動画」からご覧ください。
BMIA会員入会案内はこちらです。

中村健太郎

株式会社FIELD MANAGEMENT STRATEGY 代表取締役

大学卒業後、ベンチャーのITコンサルティングファーム、フューチャーに入社。
その後、ドイツを本拠とする外資系戦略コンサルティングファーム、ローランド・ベルガー、アメリカを本拠とするボストン・コンサルティング・グループを経て、2016年にアクセンチュアに参画。
通信・メディア・自動車・鉄道業界をはじめとする多数企業の成長戦略、新規事業戦略策定などを手掛け、技術トレンドにも精通し、ロボティクスや AI を活用した新規事業戦略策定/実行支援にも従事。
2022年9月にフィールドマネージメントに参画し、2023年1月1日よりFIELD MANAGEMENT STRATEGYの代表取締役を務める。

小山龍介(BMIA代表理事)

株式会社ブルームコンセプト 代表取締役
名古屋商科大学ビジネススクール 准教授
京都芸術大学 非常勤講師
ビジネスモデル学会 プリンシパル
一般社団法人Japan Innovation Network フェロー
一般社団法人日本能楽謡隊協会 理事
一般社団法人きりぶえ 監事

1975年福岡県生まれ。AB型。1998年、京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後、松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに広告メディア事業、また兼務した松竹芸能株式会社事業開発室長として動画事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。
コンセプトクリエイターとして、新規事業、新商品などの企画立案に携わり、さまざまな商品、事業を世に送り出す。メンバーの自発性を引き出しながら商品・事業を生み出す、確度の高いイノベーションプロセスに定評がある。また、ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、ビジネスモデル・キャンバスは多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。
2013年より名古屋商科大学ビジネススクール客員教授、2015年より准教授として「ビジネスモデルイノベーション」を教える。さらに2014年には一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会を立ち上げ、4年間代表理事を務め、地域おこしにおけるビジネスモデル思考の普及活動に取り組む。2014年〜2016年沖縄県健康食品産業元気復活支援事業評価会員。2016年より3年間、文化庁嘱託日本遺産プロデューサーとして日本遺産認定地域へのアドバイス業務。2019年〜2021年大分県文化財保存活用大綱策定委員。2020年〜大分県文化財保護審議会委員。2020年〜亀岡市で芸術を使った地域活性化に取り組む一般社団法人きりぶえの立ち上げに携わる。
2018年京都芸術大学大学院 芸術環境研究領域 芸術教育専攻 修了・MFA(芸術学修士)取得。2021年京都芸術大学大学院 芸術研究科 芸術専攻 博士課程 単位取得満期退学。2021年京都芸術大学 非常勤講師。

著書に『IDEA HACKS!』『TIME HACKS!』などのハックシリーズ。訳書に『ビジネスモデル・ジェネレーション』など。著書20冊、累計50万部を超える。最新刊『名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継 03 ビジネスモデル 』。

2013年より宝生流シテ方能楽師の佐野登に師事、能を通じて日本文化の真髄に触れる。2015年11月『土蜘』、2020年11月『高砂』を演能。2011年には音楽活動を開始、J-POPを中心にバンドSTARS IN BLOOMで年2回のライブを行う。ギターとボーカルを担当。2018年からフォトグラファーとしても活動を開始。2018、2019年12月グループ展覧会『和中庵を読む』に作品を出展。

写真・編集 片岡峰子(BMIA事務局長)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?