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試し読み: 『世界を変えるイノベーションデザイン  ビジネス誌ファストカンパニーが選んだ革新的事例』


2022年2月17日に刊行した『世界を変えるイノベーションデザイン ビジネス誌ファストカンパニーが選んだ革新的事例』(ファストカンパニー、ステファニー・メータ 著、道添進 訳)から「訳者あとがき」と目次をご紹介します。

本書は、ビジネスとデザインの情報を伝える雑誌『ファストカンパニー』が取材した革新的事例を紹介した書籍です。シリコンバレー、家庭用プロダクト、ブランディング、都市と建築、小売り、環境・社会問題の6つの章に約80本の記事を掲載。60万本のペットボトルからできた耐ハリケーン住宅、リサイクル可能な素材で作られたシューズ、3D プリンターで製作された車いす、コンテナを利用したCOVID-19の処置室など、デザインで世界を変えた革新的なアイデアを紹介しています。

Fast Company
https://www.fastcompany.com

訳者あとがき


 日本でもマーケティングやブランディングに携わる人々に広く愛されている『ファストカンパニー』の、いわば選り抜き集が本書だ。デザインがビジネスや暮らしや社会と結びついて、すばらしい成果が得られた事例がたっぷりと掲載されている。応用する領域の広がりに意外な気さえしてくるが、それはデザインにもっと大きな力があることをふだん見過ごしてきたからかもしれない。紙やスクリーンや製品に表現されるものならすぐに思い浮かぶが、それだけにとどまらず、デザインには本来「計画する」という意味がある。世の中をより良くするための仕組みを考えることがその本質にあり、この『世界を変えるイノベーションデザイン』はそうした事例をたくさん扱っている。

 編集に際しては、2018年に『ファストカンパニー』の編集長に就任したステファニー・メータが陣頭指揮にあたっている。彼女はファッション業界紙の「WWD」との就任インタビューの中で、『ファストカンパニー』はニューヨークに拠点を置いているが発祥はボストンであり、この街のフラットで自由なビジネス風土が雑誌の特徴を育んできたと語っている。それまで歴任してきた『ヴァニティフェア』や『フォーチュン』といったニューヨークの巨大メディアとも異なるし、また、サンフランシスコで誕生したテックカルチャーの『ワイアード』とも違うのだという。たとえば本書では、プロダクトデザイナーのパトリシア・ウルキオラをビジネスパーソンという視点で捉え、一方でJetBlueのフィオナ・モリソンや、P&GのA.G.ラフリーといったビジネス界の人々をデザインの推進者として紹介している。また、建築家たちの事例では、彼らがコミュニティのリーダー的な役割を果たし、プロジェクトを成しとげていった姿が描かれている。こうしたクロスオーバーなものの見方こそ、『ファストカンパニー』の真骨頂と言えるだろう。

 本書に掲載された図版は今でも古さを感じさせず、本当にサステナブルなデザインは経年劣化しないものだと気づかれる。対照的に隔世の感があるのは、ブランド育成への取り組みだ。一例として、崩れかけたコカコーラのブランドシステムに一貫性を取り戻すためにデヴィット・バトラーがデザイン担当副社長となって 解決にあたったくだりがある。実はまるで同様の話を、IBMやキャタピラー社で聞いたことがあり、今でこそ世界のお手本とされるこうしたブランドも、当時はアイデンティティがバラバラとなっていたのだ。1990年代から2000年代にかけて、米国では事業が多角化やグローバル化していった結果、ブランド構造に遠心力が働いたためだ。本書を制作するにあたって、デザイン報道統括シニアエディターのスザンヌ・ラバーレが、同誌25年分の記事から選んだだけあって、こうした時系列的な視点も本書の魅力となっている。

 アップル、グーグル、テスラといった革新的なブランドに限らず、人々を動かすのは人間が中心のデザインだ。人が真ん中にあるということは、つくる人はもちろんのことそれを使う人が世の中をより良くしようという「計画」にかかわっていることを実感させることに他ならない。記事の読後感がどれも爽快なのは、自分もその試みに加わっている一人のような気にさせられるからなのだろう。ビジネスに人を巻き込む上で欠かせないのがデザインなのだということを、本書の多彩な事例は改めて教えてくれる(道添 進)。

目次

1章 デザインと一体化したシリコンバレー
・デザインと一体化したシリコンバレー
・買いたくなるわけ
・IDEOが考える「デザイン思考」
・デジタル書体のパイオニア、スーザン・ケア
・イブのすべて
・テスラのEVデザイン革命
・一人ひとりへの適応作動
・役員室で討議するデザイン
・新デザイン思考を駆使したマイクロソフトの大きな賭け
・コンピューティングの未来を触知する
・表舞台に立った拡張現実
・グーグルのトップシークレット、デザインラボ
・グーグルよ、自動補完はありがたいのだが
・アップルとグーグルの違いを可視化する
・アマゾンのプライムな場所
・不評のオープンオフィス
・ユーザーフレンドリーなデザインの致命的欠陥
・ハンズフリーの搾乳器
・テックジャイアンツに勝利したジョイ・ブオラムウェイニ

2章 家庭におけるデザイン
・家庭におけるデザイン
・生きていくためのデザイン
・野菜の皮むき器が世界を変えた日
・原子力技術を応用したヘアドライヤー
・彫刻のようなコンパクト蛍光灯
・パトリシア・ウルキオラが残した3億ドルの足跡
・地球に優しいシャワー
・ようこそ、マキシマリズム
・キャビンライフ2.0
・ニューヨークに増殖し始めたマイクロ・アパートメント
・ありふれた素材でつくる革新
・煙たくないキャンプファイヤー
・60万本のペットボトルでつくったハリケーン住宅
・3Dプリンターで建てた居住地区
・見た目よりずっとスマートなイケアのスマートライト
・家電同士が使っている言語

3章 ブランディングが何より大切
・ブランディングが何より大切
・「あなた」というブランド
・タイポグラフィを極めたハウスインダストリーズ
・抗議のための書体
・ロゴ刷新で炎上するGAP
・我が心のジョージア、そしてヴァーダナ
・スターバックスロゴに秘められたトリック
・ジェットブルー航空を飛躍させたフィオナ・モリソン
・グラフィックデザインにテクノロジーの魔術を吹き込むエディ・オパラ
・「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」キャンペーンの粗悪なデザインにして秀逸なブランディング
・その選挙キャンペーンはいかにして強力なデザインを手に入れたのか
・パンデミック時代のブランディング
・モナ・チャラビはいかにして大衆にメッセージを伝えるか

4章 デザインと都市
・デザインと都市
・あらゆる場所と、あらゆる人にふさわしいグッドデザイン
・地域と警察のつながりを一新したスタジオ・ギャング
・ブルームバーグ市長らはいかにしてニューヨークを再活性させたか
・9.11悼碑の名前をつなぐアルゴリズム
・ニューヨークで最も革新的かつ物議を醸した公園
・アフリカ系アメリカ人の経験を物語る建物をいかにしてデイヴィッド・アジャイは実現したか
・空港のオアシス
・GMとその企業文化を変革するメアリー・バーラ
・ロンドンの2階建てバスが 未来的な姿でお目見え
・ついに完成した完璧なニューヨーク地下鉄マップ
・空に浮かぶ都市
・スマートシティの問題点
・メキシコシティを変革する注目のデザイン
・グローバルに活躍する建築家の使命
・中国が産んだ卓越の建築家、マー・ヤンソン
・アートは世界を変えられるか
・新しい防災アプローチ
・排水に潜むコロナ から感染エリアを早期発見する企業
・メラニンでできた建物

5章 小売業を再構築する
・小売業を再構築する
・どう売るか
・P&Gが語るデザインの力
・アップルはいかにして小売業をマスターしたか
・ポップ・アーティスト
・マクドナルドをつくり変える
・ナイキはデザインをどう使って顧客とつながっているのか
・世界最速のシューズ
・Warby Parkerを通して見る未来
・このグラフェン・ジャケットは魔法だ
・ビッグボックス・ストアの原点を再考する
・アマゾンGoをつくった2人
・3人の黒人デザイナーはファッションと小売業における人種差別といかに向き合っているか

6章 社会を良くするためのデザイン
・社会を良くするためのデザイン
・不平等をなくすためにデザイン思考を忘れなさい
・3Dプリンターでつくった椅子
・建築家ディエべド・フランシス・ケレが取り組んだ先住民族の手法
・建築ツールが立証する人権侵害
・世界の最果ての建物が教えてくれる気候変動との向き合い方
・データの未来を担う海中サーバー
・100%リサイクル可能なエビアンのラベルなし新プラスチック・ボトル
・アディダスのフューチャークラフト・ループ
・有害物質から優美な陶器を制作する学生たち
・オンタリオ州立芸術デザイン大学のドーリ・タンストールが変えるデザイン教育のルール
・Mass Design Groupが提唱する平等な建築を分析する
・e-wasteがもたらす危機を伝える
・目の不自由な人のための書体
・N95マスクに代わる再利用なシリコンマスク
・より快適なCOVID-19試験綿棒
・デザインの前途に立ちはだかる難題


『世界を変えるイノベーションデザイン 
  ビジネス誌ファストカンパニーの革新的事例』
http://www.bnn.co.jp/books/11456/

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