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『3D表現で拡がるグラフィックデザイン』から勝手にデザイナーを紹介したい

 「3D」という言葉を聞くと、90年代くらいのポリゴンの少ないキャラクターが思い浮かびます。初代Play Stationのゲームのような、ちょっとレトロで、どこか未来的な触覚のあるグラフィックです。(世代だからでしょうか...)
 この記事では8月20日に刊行した『3D表現で拡がるグラフィックデザイン』から、事例が掲載されているデザイナーとデザイン事務所を5組紹介したいと思います。この書籍で紹介されている3D表現を使った事例は先進的なものが多いですが、同時にどこかなつかしさを感じさせるものでもあります。昔よりもマシンスペックが上がり、奥行きのあるデザインを制作するためのソフトを比較的安価で手に入れられるようになった今、ワクワクするような未知のグラフィックをつくるチャンスは誰にでもあります。ここで紹介する5組は、スキルとツールを活かして魅力的なグラフィックを創作するデザイナーたちです。

1. another design

 書籍では2018 Shenzhen Design Week(深圳デザインウィーク)の事例が掲載されています。グラフィックデザイン、マルチメディアデザイン、プロダクトデザイン、写真などさまざまな専門技能をもつメンバーで構成された、トランスメディア・ビジュアル・デザインを手がけるチームです。(様々なメディアを横断したコンテンツを手がけて総合的にプロモーションを展開していく手法を得意としているようです)

 トランスメディアを掲げるにふさわしく、another designが手がけた深圳デザインウィークのブランディングは、メインビジュアルを中心に会場内の装飾やグッズのデザイン、プロモーションツールやムービー、Webサイトなど多岐に及びます。
 another designの凄いところは、様々なツールのビジュアルを作っただけではなく、2018年の深圳デザインウィークのテーマである「デザインの可能性」を表現するためにゲームアプリを開発し、アプリを利用して様々なビジュアルデザインを生み出したことです。ゲームアプリは深圳デザインウィークのロゴから抽出した要素を自由に組み立てて遊べる仕様になっており、デザイナーやデザイン愛好家、一般の人々にゲームをプレイしてもらうことでキャラクターや人物、製品、建築物、都市などのグラフィックを制作しています。アプリに投稿された作品はいいね!をつけることができ、高評価を得た作品は屋外広告などに使用されたそうです。another designのサイトにある説明文には”「デザインの可能性」は結果が未知数に満ちていることです。”  とあります。デザインを専門としていない人から専門家まで、さまざまな背景を持つ人が気軽に参加できる取り組みは、デザインの持つ魅力自体をも広げる良い試みだと感じました。

another design  /  http://www.another-lab.com/

2. Irradié 

 IrradiéはAlainとLaurentのVonck兄弟が2016年に設立した、多分野のクリエイティブスタジオ。グラフィックデザイン、アートディレクション、デジタルデザインの分野に、ビジュアルソリューションとコンセプチュアルソリューションを提供する会社です。さまざまなクライアントのために、ブランディング、グラフィカルシステム、パブリッシング、デジタルインターフェースを手がけており、そのクライアントもCHANELやHermès、NIKEなど錚々たる企業が名を連ねています。書籍では「Atelier Irradié」の名前で掲載されています。


 書籍にはパリで毎年行われる電子音楽の祭典であるPeacock Society Music Festivalのビジュアル・アイデンティティ、Adidasの新しいスニーカー「Deerupt」のワークショップ用のビジュアルとモノグラムのデザイン、ユーロ2016サッカーを祝うために作られたポスターシリーズを掲載しています。
Alain Vonckの作品は『idea (アイデア) 2014年9月号』(誠文堂新光社)の「ポスト・インターネット時代のヴィジュアル・アーティスト」にも掲載されている、今後の活躍も楽しみなデザイナーのひとりです。

Irradié http://irradie.com/

3. Tina Touli Design

 ロンドンを拠点としている多分野横断型のスタジオ。グラフィックコミュニケーションデザイナー、アートディレクター、メーカー、教育者として活動するTina Touliが率いているデザイン事務所です。
Tina Touliはさまざまなスタジオで働いた後、独立して自分の事務所を運営し、現在ではロンドン芸術大学セントラル・セント・マーティンズで教鞭を執っています。ブランディング、タイポグラフィ、編集デザイン、Webデザイン、アニメーションなど活躍する分野は多岐にわたり、AdobeやUALなどの幅広いクライアントの仕事を請け負う他、30歳を待たずして『Print』誌の「15 best young designers in the world(世界の新進デザイナー: ベスト15)」のひとりに選ばれました。

 書籍にはAdobe Illustratorの30周年を祝う記念ポスターと、国連が定めた年1度の世界水の日(World Water Day)を祝うためのポスター、ロンドン芸術大学のスタッフ、学生、卒業生のグループである「Digital Maker Collective」のポスターが掲載されています。Adobe IllustratorのポスターとWorld Water Dayのポスターは、どちらもAdobe Live streamでライブ配信しながらデザインされたものです。試行錯誤しながらポスターを制作している姿を見ることができるので、是非チェックしてみてください。

30 YEARS OF ADOBE ILLUSTRATOR → https://tinatouli.com/30-years-of-adobe-illustrator
WHAT ABOUT WATER? → https://tinatouli.com/what-about-water

Tina Touli Design  /  https://tinatouli.com/

4. Brando Corradini

 Brandoは、グラフィック、建築、ファッション、デザイン、音楽をこよなく愛し、常にそれらと共に過ごすことをインスピレーションの大切な源としている、イタリアはローマのグラフィックデザイナーです。ブランド・アイデンティティ、イラストレーション、編集デザイン、タイポグラフィ、レタリング、デジタルアートを主に手がけています。
 彼のwebサイトのプロフィールテキストにはこう記されています。

”絵画やグラフィック、アートに対する情熱は、ずっと昔、私がまだ子どもだった頃に絵を描いてそれに色を塗ったりして過ごしたことがもとになっています。私にとって本当に良い時でした! そして今、それが現実となりました。
何年も粘り強く続けてきたおかげで、私の情熱は仕事へとかたちを変えることができたのです。とても華やかで素晴らしい仕事へと。”

“My passion for drawing, graphics and art comes from far away as my child passed my time by drawing and coloring. This was my fantastic world! And now it is reality.
Over the years, thanks to my tenacity, I managed to transform my passion into work. Glamorous and wonderful work.”


意欲的なものが多いBrando Corradiniの作品の中でも、「The Art of Rei Kawakubo」というCOMME des GARÇONSの創業者である伝説のデザイナー川久保玲へのトリビュートとして制作したブックと、エレクトロニックミュージック界では世界的に有名なSven Väthのアルバムジャケットを掲載しています。どちらもパーソナルワークですが、見ているだけでインスピレーションが刺激される素晴らしい作品です。

Brando Corradini  /  https://brandocorradini.com/

5.BÜRO UFHO

 シンガポールを拠点とし、多分野にわたるブランド戦略を行うクリエイティブスタジオです。美しいブランドアイデンティティやクリエイティブディレクション、グラフィックデザイン、イラストを通じて、企業が優れたブランドエクスペリエンスをつくる手助けをしています。
 社名の”UFHO”は”Euphoria”に由来し、激しい興奮と幸福の感覚と状態を表しているそう。”現代生活のあらゆる側面に不可欠であるグッドデザインはグッドライフでもある"というデザイン哲学とともに、お客様に情報を提供するだけではなく、喜びをもたらす意味のあるソリューションをつくっているます。クライアントにはAdobe、Air Asia、BMW、Coca-Colaなど大企業が名を連ね、彼らの理念が大きな規模で遂行されているのがわかります。


 書籍では、年に1度開催される、毎日指定された特定のアルファベットか数字をデザインしてInstagramにポストし、ハッシュタグ#36daysoftype をつけて投稿することで誰でも参加できる36日限りのプロジェクト「36 Days of Type」で制作されたタイポグラフィを掲載しています。彼らがつくる異空間とそこに佇むオブジェは、文字1つだけでも完結しうる不思議な世界観を持っています。

BÜRO UFHO / http://ufho.com/

いかがでしたか。
どのスタジオも、アウトプットするメディアを限らず、分野を横断して活躍しているのが印象的でした。誰もがスマホを持ってスクリーン上の2Dの情報を浴びるほど享受している時代に、先進的な印象を与える3D表現を使ったグラフィックは、今後さらに目にする機会が増えるかもしれませんね。巻末には作品を掲載している全てのデザイナーの索引があるので、気になる作品を作ったスタジオが他にどんなものを手がけているのか、ぜひ調べてみてください。

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