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ウェンズデイ

どうでもいい葬式で君の顔を見た。10年振りくらいに会った君の少し伸びた前髪がうざったそうで工作バサミでざくざくと切ってあげたいななんてことを考えていた。「ほら、挨拶しなさい。」そういわれて無理やり下げられた頭から君の方をちらっと見上げるとうざったい前髪から覗く君の瞳があの時の瞳と重なってフラッシュバック。君はあの時どんな気持ちで私を見ていた?君は中学の時やってきた所謂転校生。スポーツも出来る、顔もそんなに悪くない君は気づけば皆の中心にいた。男子からも女子からも好かれる君はいつも運動場でサッカーをしていた。そんな、君とは別のクラスだったからそれ以外何も知らなかった。2年の時同じクラスになったけれど、君と私の接点は何一つなく日々は過ぎていった。その頃から私はどんどんと崩れていって、クラスに学校に行けなくなっていた。あの頃の私は、家にも学校にも居場所がなくてただ布団にくるまって現実逃避をすることしか出来なくなっていた。そんなある日、学校に行けない私に痺れをきらせた母がパジャマのまま私を車に放り込み学校に私を投げ出したことがあった。そんな時に限って、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いていたのをよく覚えている。ドクドクと焦る心臓を感じながら、私は何も出来ずただアスファルトの上に座り込んでいた。ガヤガヤと音を取り戻している学校の3階の窓から君の姿が見えた。サッカーボールを持って笑う君は私の姿に気づいて立ち止まる。そんな君を私は思いっきり睨みつけた。きっと笑うんだ、馬鹿にするのだ、毛玉の着いたボロボロのパジャマの私を見世物にしてアイツも笑うんだ。拳を握りしめながら君を睨みつける。そんな私を君は笑いもせず、馬鹿にもせず見下ろしていた。君は君はあの時何を思っていた?何秒間か私の姿を見てから踵を返してどこかに消えた。その何分か後、数人の先生が私を保護しにきた。何故かバスタオルをかけられて、駅伝の選手みたいに扱われてるのが面白くなって少し笑っていた私を1人の先生は薄気味悪そうな顔で見ていた。ガヤガヤとうるさくなっている学校の方を見ると何人かの男女たちが私を見下ろして騒いでいた。見て見て!と普段見れない珍しい光景を見れて嬉しそうな女子に、バカにしたように大爆笑する男子、そして、そんな私をじっと見つめる君の姿。ずっと学校の方を見ている私に、先生が私の頭を肩に寄せて「何も見なくていい」と言われた瞬間、私は先生の肩で号泣した。君が、先生を呼んでくれなかったら私はもっと大人数の前で何も出来ず笑いものにされていたんだろう。結局、君との思い出は私の中ではそれしかない。でもあの時、同情でも好奇の目でもないあの瞳は私にとって本当に救われた。なんてそんなことを言えずに、君にお茶を出す。出し終えた私が、部屋を出ようとすると「○○くんとボニコちゃんは同級生でしょ?ほら、なんか喋ったら?」と親戚のおばさんらしき人がにやにやしながら声をかける。君の方を見ると少し困った表情、だから「○○くんとは同級生でしたが、話したことがないので、、ね」と君に笑いかけて部屋を出た。それから、少しして君は帰って行った。1人になった部屋でGalileo Galileiのウェンディを聞いてみる。くるくるの髪を触りながらウェンズデイアダムスとは程遠いなぁなんてこと考えていた。


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