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外食のこと。気心の知れた店について

 アレルギーが発覚した際に心のよりどころとなったのが、気心の知れた店の存在だった。メニューに食べられないものがあるか気兼ねなく尋ねられるのはありがたい。それどころか、私が食べられるものがあるか向こうから先に気を配ってくれて、少しの融通を利かせてくれる店もあり、何度も涙が出そうになった。夜な夜な飲み歩いていたことも無駄ではなかったのだと思えた。

もっとも通っている店のじゃがバター

 そこまで親しくないとしても、行ったことがある店とない店では、入るときの緊張が全然違う。行ったことがあれば、食べられるものもあるだろう、もしくは入店は難しいだろうというアタリをつけられる。そして食べられるものが多そうな店なら、どれが食べられるか質問しやすい。そういうつもりで、何度か行ったことのある店に行ったら、実は味付けに魚醤とか出汁を使っていてダメだった、という失敗もあるけれど、だいたいはそれでなんとか食べられるものにありつける。行ったことのない店は、外観や店のSNSなどから、食べられそうなメニューがあるか、アレルギーについて尋ねる余裕がありそうかを判断するしかない。

青菜炒め

 しかしどちらにせよ、調べてもらうのには手間がかかる。あるいは、尋ねた相手が材料を把握していたとしても、「アレルギー対象のものが確実に入っていない」ことをその場で判断し回答することは、その人や店にとって重荷となる場合もあるのだとわかってきた。ここでいう重荷というのは確認作業の手間ではなく、命に関わるかもしれない判断を下すプレッシャーのことだ。
 それに気付いたのは、とあるワインバーでのことだった。メニューが豊富なので食べられるものも結構あるだろうと思って友人と行ったのだが、実際には食べられないもののほうが多かった。それで結局その時は、店の人に聞きながらパテやチーズを頼んだ。私にとっては想定の内、というか2つ3つ食べられるものがあれば、ワインもあるし全く構わなかった。しかし店の人はそうではなかったようで、終始不安そうで気まずそうだった。そしてその時に、「事前に連絡をもらえれば…」と言われたのだ。「…」のあとはわからない。「他の店をすすめていたのに」かもしれないし、「食べられるものを事前にリストアップ出来ていたのに」かもしれない。とにかくそれで、私が良くても店の人に気まずい思いをさせてしまうことがあるのだと知った。

だるまのジンギスカン

 そんなわけで最近は、よく知らない店に行くときには、なるべく事前に問い合わせるようにしている。ちなみに、アレルギーについて問い合わせるときは電話ではなくメールやSNSのメッセージのほうが良いと思う。アレルギーの内容が1回で伝わるし、店側も余裕のある時に検討できるだろうから。
 これまでに何件か、直近で行きたい店に問い合わせてみたが、店の大小を問わず、細かく教えてくれたり親切に対応してくれることが多くて驚いた。もちろん、このメニューは大丈夫ですという店でも、調味料やちょっとした材料、仕上げに振りかける青海苔や鰹節などに漏れがあることは十分に考えられるのだが、前向きな回答をしてくれた店であれば、そういう場合にも対応してくれるのではないかと思えるし、直接店に行って尋ねるよりはるかに安心できて、気持ちよく過ごせる。

新玉ねぎとスナップエンドウのビアフリット

 発症した瞬間、二度と行けないであろう店が走馬灯のようにいくつも頭をよぎった。でも、これからも通える店や、行ってみたい店も同じくらいある。カレーが好きなこと、ベジタリアン向けのメニューがあるレストランや湖のまわりのレストランをチェックしていたことも役立ちそうである。お酒は大丈夫なので、バーに行けるのも嬉しい。予約が必須の店やコース料理のみの店は、ダメな場合は予約時に断ってもらえるし、予約が取れればあとは気にせず食事が出来るので気が楽だ。ほかにも、こういう店なら行けそうというのはいくつかある。

ダルバート。ネパール料理はだいたいオッケー。

 最後に再び、なじみの店の話にもどる。これは勝手な話だが、はじめて行く店では、私はアレルギー患者として扱われるが、知っている店では今までと同じように接してくれる。アレルギーがわかってすぐの頃は、このことに本当に救われたし今もありがたく思っている。食べられないものに配慮してくれたりすることよりなにより、なじみの店や友人があって良かったと一番に思ったのはそういうところかもしれない。
 とはいえ、いつまでもその精神でいるわけにはいかない。私はこれからおそらく死ぬまでアレルギー患者だ。アレルギーは自分の一部として受容していかなければならない。そして、アレルギー患者の私としても気心の知れた店が増えていったらいいなと思う。その道を今踏み出しつつある、という記録でした。

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