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依存症の捉え方~依存症の背後にある三つの要因~


依存症の背後にある三つの要因


1.依存症は脳神経の報酬系のバグ

脳には報酬系と呼ばれる神経回路が存在し、これは私たちが快楽を感じるための主要な部分であります。この系統はドーパミンという神経伝達物質を中心として動作します。何か良いことがあると、例えば美味しい食事や楽しい活動、褒められると、ドーパミンが放出されて私たちが「気持ちいい」と感じるのです。

しかし、依存物質(例:アルコール、麻薬、タバコ)や依存性のある行動(例:ギャンブル、オンラインゲーム)は、この報酬系を過度に刺激します。その結果、脳は常に高いレベルのドーパミン放出に慣れてしまい、普通の活動では快楽を感じにくくなることがあります。これは「バグ」と見なすことができ、依存物質や行動なしでは快感を得られなくなる可能性が高まります。


2.依存症はトラウマからの自己修復(自己治療仮説)

トラウマは、身体的または心理的な危険や脅威を伴う極度なストレスの状況、特にそれが突然や予期せずに発生した場合に、個人が経験する心的傷害を指します。これには、身体的・性的虐待、戦争、災害、事故、目撃経験などの極度なストレスやショックを伴う出来事が含まれます。

多くの研究が、虐待やトラウマを経験した人々が依存症になるリスクが高いことを示しています。トラウマを経験した人々は、痛みや苦しみから逃れる方法としてアルコールやドラッグを使用することがあります。依存物質や行動は、一時的な逃避や安堵感を提供するため、トラウマの影響から逃れるための「自己修復」の方法(自己治療仮説)として機能することがあります。

トラウマと依存症の関連
逃避と麻痺: トラウマを経験した人々は、その痛みやトラウマの思い出から逃れるためにアルコールやドラッグを使用することがあります。依存物質は、トラウマの記憶や感情を一時的に麻痺させる効果があるため、一時的な逃避手段として使用されることが多いです。

自己治療: トラウマの症状(例:不安、抑うつ、不眠など)を和らげるために、依存物質を自己治療として使用することがあります。しかし、このような使用は短期的な解決策であり、長期的には依存症のリスクを増加させ、トラウマの症状を悪化させる可能性があります。

神経生物学的な要因: トラウマは脳の構造や機能に変化をもたらす可能性があります。特に、脳の報酬系やストレス応答系に影響を及ぼすことが知られています。これらの変化は、依存物質の使用に対する脆弱性を高める可能性があります。


3.依存症はハイマートの欠如や自己肯定感の低下からの弱いレジリエンス

「ハイマート」はドイツ語の「Heimat」という言葉から来ており、「故郷」や「原風景」、「心の故郷」などという意味合いを持っています。この概念は、人々が属するコミュニティや文化、地域とのつながりや帰属感、安心感を指すことが多いです。

現代社会のハイマートの欠如や喪失は、人々が属するコミュニティや文化、地域とのつながりや帰属感が失われることを意味し、これが孤立感やアイデンティティの喪失を引き起こすことがあります。

自己肯定感が低いと、人は自分の価値を疑問視し、外部からの評価や承認を求めることが増えます。このような状態の人々は、自分を良く感じさせる何か(例えば、アルコールやドラッグ)に依存するリスクが高まります。

レジリエンスは、逆境や困難に対して適応し、回復する能力を指します。自己肯定感が低く、ハイマートの欠如があると、レジリエンスが低下し、ストレスや困難に対処するための健康的な方法を見つけるのが難しくなります。このため、依存物質や行動に対する依存リスクが高まる可能性があります。


依存症には多くの背景や要因が関与しており、それを理解することは予防や治療・支援において非常に重要です。
これまでは、「底つき」が支援においてキーワードとなっていましたが、最近はハームリダクションの考え方など依存症との関わり方も多様になっています。依存症を社会的価値との相互作用で考えることも今後大切になってくるでしょう。

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