見出し画像

#エト可の図書室 〜その1 東欧の小説に耽溺するのがミッションだ。

 投稿したつもりで長いこと下書き保存に入れて温めてしまっていたらしいことに気付きました。

 えぇと、無駄にテンション高いタイトルですが、要は「僕が思う東欧のオススメ小説5選」っていう一言に集約されますね。ランキングではありませんが、5冊ほど選書してみました。これは東欧というか中欧では、という地域のものもあるのですが、結構東欧のカテゴリでまとめられていることが多い作品も含まれているので、簡単にエト可のお気に入り本が5冊紹介されているなあと簡単に読み飛ばして頂けると嬉しいです。

 まず、前置きとしてですが日本から見て東欧の小説って海外小説が好きな方からしたらそんなにマイナな分野ではないと思うんですよ。なのでこれらの本ではわざわざオススメで教えてもらわなくても知ってるよ、とお言葉を頂戴することは覚悟しているのですが、読むと読まないとでは見る世界が変わるであろう本を集めました。

 ちなみに東欧の小説なら『東欧の想像力』という凄く良いシリーズが出ているんですね。ですので、それをそのまますすめるのもありだし、東欧の小説に興味を持ってそちらをどんどん読んでいくというスタイルも全然良いとは思うんですよ。僕もこのシリーズの素晴らしさには太鼓判を押したいところではあるんです。

 ですが、あえて何故シリーズそのものをすすめなかったかというと、ご存知の方も多いかと思われますが、東欧の世界って物凄く凄絶な歴史を通じて存在しているんですね。なので、そこで生まれた小説もなかなかインパクトの強いものが多いのでこれは読むのが辛くて無理な人といるんじゃないかなというのが入っていたりとか、あと、僕のススメタイ本がこのシリーズに入っていないとかそもそも論的なところもありまして、バラバラに選書しました。ですが今回オススメする作品の多くは東欧の想像力シリーズに含まれている作品になります。(それくらい東欧の小説を語る上でこのシリーズの存在感は偉大なのよ。)

 それでは早速いきます。

1.エペペ

カリンテイ・フェレンツ

 文句なしに面白い。もう好きすぎて行く先々、オススメ本を紹介する度に東欧の枠でなくてもすすめているので、ある意味特定モノ。それくらい好きで勧めている本。キーになるイメージはバベルの塔。前情報一切なしで読み始めて下さい。カテゴリは幻想文学になりそうですが、しっかり東欧らしさもある。ただ、好みは分かれると思います。ハマれば最高級、ハマらなければ疲れる本。そんなピーキーさも僕は好き。

2.死者の軍隊の将軍

イスマイル・カダレ

 東欧の想像力シリーズ収録本。東欧の小説の真骨頂です。初めて読んだときは、とんでもない本と出会ってしまったという感想を持ちました。これぞ東欧の小説。これが東欧の小説。文句なしに名作です。政治色はかなり強いですが、東欧の小説の殆どは政治色が強いです。現実と幻想の間なんです。でもその幻想はまさに現実的な狂気と隣合わせのものとして主人公を追い詰めるものであり、主人公の焦燥感をこれ程までに描ける作品も珍しい。

3.あまりにも騒がしい孤独

ボフミル・フラバル

 主人公は書物に限った情報に拘るわけではないのですが、情報を常に集めていなければ生きていけないビブリオマニアの方々にとっては他人事とは言えないであろう物語です。紙に書かれた全ての情報を収集する男の人生が閉塞感としか表現の仕様がない余りに狭すぎる空間で展開されます。砂と血の味のする密室。物理的ではない、心理的な密室がどんどん狭くなっていくような、そしてまさに異常な脅迫感を伴って描かれた作品。若干グロテスクですが、東欧の小説に挑む覚悟をもつ以上はそこは諦めて頂く他ありません。吾こそは強迫観念の淵を覗かんとするもの也、という気概のある方は是非一読を。


4.火葬人

ラジスラフ・フクス

 東欧の想像力シリーズ収録作品。穏やかな家庭で展開される日常が少しずつ狂気に蝕まれていく。この感覚はもうひたすら怖いですね。怖い怖い怖い。初見はとにかく語彙を失わせてきます。狂気。恐怖。それしか言葉が出ませんでした。一つ言えるのは、何かが誰かを狂わせたのではない。初めから狂っていただけ。

5.シュルツ全集(肉桂色の店、砂時計サナトリウム)

ブルーノ・シュルツ

 現代日本におけるヨーロッパのシュールレアリスム文学で有名な小説家としてまず名前を挙げられるのはカフカかなと思いますが、シュルツも知る人ぞ知るという作家です。悲劇的な一生を過ごした両者ですが、やはり作品の毛色となるとだいぶ異なってきまして、シュルツはカフカほどの読みやすさはないものの、持ち味となるのは圧倒的な透明感のある文体です。
 彼の描く透明感は水分の全く感じさせない乾燥した透明感と表現したくなる特殊な魅力を持っています。この透明感と繊細さ、儚さ、どことない哀しさを纏ったシュルツ作品は一読して心を掴まれる方もいらっしゃると思います。シュールレアリスム小説という分野からこちらも万人受けはしそうにありませんが、この分野が好きな方のほか、自身で創作をする方には一読をすすめたいところです。作風の懐を深めるいうか……、言語で表現しにくいのですが読む前と読後では世界という場が持つ空気に対する感度が変化するような不思議な作品です。

まとめ

 なんだかんだと長文を書いてきましたが、僕自身どれも好きな作品なので順番をつけれないものの、1番思い入れのあるのは「エペペ」です。ただ、この中から読みやすさや作品そのものの面白さ、独特な世界観などを総合して判断して是非この1冊としてオススメ致しますと、「死者の軍隊の将軍」になりますかね。 

 ちなみに、感想だけを書いてあらすじを書かなかったのは、気になる作品がもしおありでしたらご自身でそのまま読んでみるとか、あらすじをチェックしてみるとか色々な好みのアプローチの仕方を試していただくのがベストかなと思ったためです。僕の頭で編集したあらすじから作品をご紹介するのは少々一方的すぎる気がしますし、僕は語彙が貧弱なので、作品の魅力を損ねることになりかねませんしね。

 それでは今回はこの辺りでお後がよろしいようで。ではまたー。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?