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生きる理由と生き延びる理由。

読書感想文です。
重大なネタバレはないように書いたつもりです。多少(必要なところだけ)、本文中の表現を引用しました。


河野裕『さよならの言い方なんて知らない。7』


読了時間 300P約3時間(いつも通り)

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やっぱり私は、河野裕さんの描く世界を愛している。
それは必ずしも正解ではなく、作り手の意図通りでなく、もしかすると作り手には描きたいものだけがあり読み取り方など読み手の数だけあって良いと思っているような気もする。私が(都合よく)読み取る世界は、偏っていて、単なる理想で、同時に言い換えるならば虚構であり、同時にそれ自体が不幸で、そもそも悲観的であるのかもしれない。その全てが、正解ではないのかもしれない(正解があるのだとすれば)。

第一、作り手はこの作品を、エンターテイメントを重視して作ったと言っていたはずだ(ニュアンスは多少違っていたかもしれないけど)。

でも本当に?

例えば今連載中の作品と同じくテーマのない作品だ、とは言えない。ゲーム要素があり、今の社会に受け入れられる設定と世界観であり、誰もが考えてしまう命題の答えを知りたくなる。その巨大で曖昧で形もなく触れられないはずの概念に、触れられる気がしてしまうような。それをゲームの中で、キャラクターたちが、プレイヤーたちが、考えるだけのエンターテイメント。

本当に?

私は、香屋に限りなく近い価値観を持っている。
驕りを承知で言葉にするならそうなる。

生きる意味なんてない。

香屋は、間違っているんだろうか?
香屋の抵抗も、思考も、他人への気持ち悪さも、私はよく理解できる(気がしてしまう)。

その一方で、やはり、より一般的で他者に寄り添い理解できるのは、秋穂の方であるんだろう。



生きることの意味とはなんだろう。

それを考えるのが、生きるのが、
不器用で苦手で。


生きる理由と、生き延びる理由。それは、似ているようでいて全く性質が違う。

うわあ。そうだ、確かにそうだ。そしてその解像度が、私にはまだ足りなかった。ウォーターとビスケットのテーマで、やっと私の前にその解像度が現れた。
悔しく、けれどその鋭さに憧れる。圧倒される。


信者になんて、なるもんじゃないな。
けれど私は、この物語を生み出した世界観を、ずっと前から信頼している。

ピストルスターを信仰する、あの少年に出会ったときから。


私は、ある一面を切り取れば、ウォーターに憧れ、生きるのがひどく不器用な香屋にそっくりだ。

香屋の物語に続きが出るなら、私はそれを明日に据えるのかもしれない。そして明日は、また別の希望をそのまた明日に添えるのだろう。

私はあくまで、生き延びることにしか目を向けない。けれど明日に、小さな希望がある喜びを知っているし、手の届かない希望が、あるとき名を変えてしまうことをなんとなく知っている。

私は、今日も息をし、眠り、また明日を迎えるのでしょう。

『さよならの言い方なんて知らない。7』


**

私はきっと、他人に酷いことをしている。その自覚のないまま、心底意味がわからないと問い返す、あの香屋のように。

僕が必然的に、あるいは直感的に掴んだ思考の意味を、香屋があるひとつの"物語"として描いていくのだ。
ならばやはり、生きる意味を見出そうとする物語を読んでみよう。今まで、そうした物語についていけずに、あらすじだけで棚に戻してしまうことが多かった。買っておいた分が何冊かあるから、それを読んでみたい気がしている。そこには、(香屋側ではない)多くの人がきっとそうするように、生きる意味を探すような世界が描かれているのでしょう。

そうした作品の多くが共感を呼び、多くの人が手に取るということは、やはりそれもひとつの描き方であるのだろうから。




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