公共交通機関で行く北海道限界旅行記0日目/4泊4日

【0日目:2020年7月31日(金)】

金曜日は落ち着かない。というのも、旅行に出掛けるのがだいたい土曜の始発だからである。旅行で最も大事なものは天候であると私は確信しており、それゆえに週末の天候の予測精度が最高になる金曜日の土壇場まで旅行の決行判断を先延ばしにすることが多い。ゆえに金曜の午後ともなると、天気予報とにらめっこしながら、今週末は旅行に行くべきか行かざるべきか、行くとしたらどの順番で回るべきかについて何度も脳内で会議が開催される。

しかし今回に関しては、タイムリミットはそれよりも半日早い。というのもきっぷと旅程の都合で、出掛けるのであれば金曜の午後には家を出て、その日中に北海道に入っておく必要があるからだ。

まずきっぷであるが、これは北海道love6日間パスを使用するためである。この切符はgotoトラベルの一環で発売された周遊券で、従来通年発売されている北海道パス(7日間道内の普通・特急列車乗り放題、27430円)と同等の範囲の列車が6日間乗り放題で12000円と、非常に割引率が高い。なんとしても使いたいが1つ大きな制約があり、使用開始日の前日までに道内の駅で購入する必要がある。そのため前日入りするか、道内の知人に代理購入を頼むしかない。

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旅程については詳しくは後述するが、今回は火曜まで休みを取る予定のため全4日で計画している。そのなかで、サロベツ原野・天売島・焼尻島・留萌本線・日高本線・襟裳岬・登別・神威岬・霧多布岬・層雲峡・大雪山のうちなるべく多くの目的地を回りたいと思っており、その遂行のためには初日、すなわち土曜のうちに道北の羽幌まで到着している必要があった。これについてはわざわざ金曜に渡北せずとも土曜夜に羽幌まで到達することは可能なのだが、それだとサロベツ原野を回れないし、初日がほとんど移動だけになってしまって面白くない。

そもそも回る場所を減らせば良いのではないかと思われるかもしれない。もっともな問いであるが、これについては私にも考えがある。

旅行のスタイルは人それぞれである。一ヶ所の目的地に長逗留して温泉やその土地の情景をゆっくりと楽しむのもよいだろう。私の場合はなるべく多くの目的地、それもそれぞれが遠く離れた目的地を、移動を介しながら梯子してゆくことに愉しみを感じる、云わば移動ジャンキーともいうべきスタイルであり、一ヶ所に長く留まっていられない回遊魚のようなものだと思ってもらえればよろしい。この限られた時間で複数の目的地を巡るというスタイルは「最長片道切符の旅」の冒頭で宮脇俊三先生も仰られているように、楽しく旅行を計画するための手法のひとつでもある。旅行の日程とは何らかの制約の上に成り立つもので、限られた時間のなかでいかに効率よく回るかを探ろうとするとき、旅行計画の楽しみは限りないものとなるのである。

そうはいっても東京大阪間ほども離れた道北のサロベツと道央の襟裳岬をたった4日の旅行で一度に回ろうなどというのは欲張りで駆け足に過ぎるように感じられるかもしれない。しかし毎回出直す度にかかる北海道までの航空機代だって馬鹿にならないし、なにより人生で旅行できる時間というのは限られている。尾瀬沼を歩き燧ヶ岳には登ってみたいし、知床や野付半島にも行ってみたいし、4年ぶりに運行を再開した豊肥本線にも乗りにいかねばならぬ。今年だけでもまだまだ行きたいところは沢山有るのであり、つまりはなるべく効率的に回るに越したことはないのである。それに早々に切り上げて少しぐらい未練を残して去るぐらいの方が、再びそこを訪れるモチベーションにもなろうというものだ。

かような理由から、やや無理をしつつも金曜中の出発を計画する必要があった。折しも新型コロナの感染が拡大傾向にあり、いつまた緊急事態宣言など出て大っぴらに旅行しづらいことになるか、予断を許さぬ状況である。本当はお盆明けにでもゆっくり計画するつもりではあったが、幸い週末の天候は良好そうであるし、今を逃しては次いつ行けるようになるかわからない。留萌本線や日高本線の余命も幾ばくもないことであるしグズグズしている暇はない、と決行する運びとなった。

昨今のコロナ情勢の中、私の会社にもリモートワークが導入された。リモートワークの最大の利点は通勤時間の短縮であり、今回はそれを最大限に活用することにした。14時過ぎに早々と仕事を上がり、名鉄でセントレア空港に向かう。

出発は昨年秋にできたばかりの第2ターミナルであるが、これが遠い。以前福岡からLCCでセントレアに帰ってくるときにはじめて使用したのだが、これまでの第1ターミナルの感覚で考えていたら予定よりも15分以上歩かされて酷い目に合った。その教訓から今回は余裕をもって出たために十分間に合ったものの、遠いものは遠い。連絡バスを運行するとか、もう少しなんとかならなかったのだろうか。第2ターミナルを使用することで空港使用料が抑えられるというが、この夏の暑い盛りに15分も余計に歩かされるぐらいなら数百円の使用料分安くなっても割に合う気があまりしない。ターミナル内部も余計な装飾を廃して徹底的に簡素化されており、売店などもごく最低限しか存在しない。あまりに殺風景すぎて唖然とするが、これも合理化と節約のためと思うと受け入れざるを得ない。実際、これだけの仕打ちを受けても私はLCCを使い続けるだろう。

旅行代をなるべく安上がりに済ませるにあたり、もっとも差がつくのは航空券代であり、次いで鉄道>バス>船の順に差が生じやすいように思われる。LCCとJAL等の大手航空会社では運賃に数倍の差が生じることは珍しくないし、大手航空会社であっても早割を利用するかどうかで大きく変わる。もっとも早割は天候や情勢の変化に対応できないから、私の旅のスタイルには適さない。

鉄道は新幹線や特急の一部区間であれば早割があるが、より広範囲を動く場合はいかに適切な周遊券、いわゆるフリー切符を見繕えるかで大きく旅費が変わる。今回のように1万円以上差が出るパターンも多いし、18きっぷシーズンであれば全行程とは言わずとも途中1日だけ18きっぷを使ってみたりすると数百円程度でも旅費の節約になることもある。

バスの場合、○○市内フリーパス、のようなローカルなフリーパスがあることは多いが、広範囲にわたるものとなると鉄道に比べると種類は少ない。例外は九州で、九州だけは鉄道よりもバスの方が使いやすい広域周遊券がある。

但しこれらの割引運賃および周遊券は、各交通手段の中で範囲が完結しているパターンが多く、複数の交通手段を組み合わせていくごとに旅費の節約難易度は上がる。それでもたまに効果範囲が鉄道+バスに跨がるものもあるほか、極たまに航空券とセットとなっているものもあるため、注意が必要である。

話が脱線したが、つまりそれだけ今回の旅行を安く仕上げるのには苦労したのだ。なにせ今回は飛行機・鉄道・バス・船を全て使う予定だからである。その際に使用する各フリー切符類については随時解説する。

飛行機は定刻通り17時に中部国際空港を離陸した。今回は窓側の席を取ったので下界がよく見える。たちまち名古屋の上空を過ぎ、おそらく北アルプスと思われる山塊の上空を行く。右手の向こうに大きな湖らしきものが見えるがおそらく諏訪湖であろう、となると目下の盆地は松本盆地でその向こうに見えるのがきっと善光寺平で…などとやっているとあっという間に海上に出てしまった。あとは本でも読んで時間を潰すしかない。

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定刻より若干早く、18時40分頃新千歳空港着。早速北海道love6日間パスを購入する。特急乗り放題で1日あたり2000円という価格は破格も破格であり、前日入りして一泊余分に宿泊費がかかっても十分に元が取れる。前述したように今日は期間外であるので、宿は空港からなるべく近い千歳に取ってある。

コロナの影響か新千歳空港は閑散としている。普段であればラーメン道場の外まで伸びる長蛇の列を作っている有名店・一幻も、今日は並ばずに食べることができる。「人の行く裏に道あり花の山」ともいう。胸中でそんなことを思いつつ夕食のえびしおラーメンをすすり、今晩の宿へと向かったのだった。

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