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一読の夢~短編小説集~

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ジャンル問わず、全短編をまとめたものです。 更新は不定期。小説を読みたい方はぜひ読んでみてください。
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記事一覧

白露に映るものは

 顧問の黒田しづねが文芸部の部室を覗き込むと、鷺橋美織だけがいて、彼女は机や椅子を雑巾で…

106

四姉妹の話~赤(ルージュ)~

 その家を選んだのはほんの偶然だった。  私はけちな空き巣だ。かといって、元々盗みで生計…

107

カメリア~紅蓮~

■前回までのお話はこちら■本編「椿、着替え終わったか」  ノックもせずに扉が開けられ、そ…

水瀬 文祐
10日前
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写真小説家~小説家の追憶~

■前回までのお話はこちら■本編 そのホールは古びていた。あちこちの壁に雨だれが見られたし…

水瀬 文祐
12日前
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写真小説家~英雄の肖像~

■前回のお話はこちら■本編 牧場の中は寂れていた。日曜日の、しかもこんなにも天気のいい昼…

水瀬 文祐
13日前
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聖者の揺り籠(後編)

■前編はこちらから■後編 母が死んだとき、世界はまだ混沌に包まれてはいなかった。  葬儀…

水瀬 文祐
2週間前
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聖者の揺り籠(前編)

 エリス・如月は殺すな。生け捕りにしろ。  教官は命令の最後にそう付け加えた。それを聞いて教官の教えに人一倍素直に従ってきたグレンは初めて疑問を抱いた。  エリス・如月は世界を混沌に陥れ、破壊と死の風をもたらした魔女だとされている。ならば、これ以上世界に悪を成さないように速やかなる死を与えるべきでは。万一仕損じでもしたら、厄介なことになる。グレンは正直者だったために挙手をし、その旨を教官に直接ぶつけた。  教官は火のように顔を赤くして、グレンの頬を激しく打った。「愚か者が。貴

蜃気楼の街

 男は旅人だった。旅の目的がなんだったのか忘れるぐらい、彼は旅をした。もはや旅をすること…

水瀬 文祐
2週間前
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シルバームーン

 緑のフェンスをよじ登り、くるりと反対側に回ると飛び降りた。  こんなことならスカートじ…

水瀬 文祐
2週間前
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ぜい肉くん

 まず驚いたのが、我が家のドアチャイムが鳴ったということだ。思わずぜい肉だらけの体を揺す…

水瀬 文祐
3週間前
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言牢

■まえがき通常の更新は本日はお休みさせていただきます。 なにぶんばたばたとしてしまってい…

水瀬 文祐
3週間前
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ゆうぐれあさひ

 夕方になると、夕日を見に行きます。  何を当たり前な、となるかもしれませんが、わたしの…

水瀬 文祐
3週間前
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■通常の更新はお休みです昨日から風邪をひいてしまい、発熱のため小説を考えることができま…

水瀬 文祐
3週間前
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エクストラクト

 砂塵の向こうに霞む街が見える。  男は立ち止まっているとずぶずぶとブーツが沈んでいく流砂の流れに抗うようにして、一歩一歩街の方へと向かって行く。 (また蜃気楼じゃないだろうな)  空を見上げると、太陽すらも砂塵に翳っている。そこに雲がかかっているものだから、正午近い時間だというのに、辺りは夕刻のように薄暗かった。  以前こんな天候の中街を見つけたとき、遠くから見えた街は砂塵の黒と茶色の色彩の中にあっても、彩り豊かな街並みに見えたのだが、近づいてみて男は愕然とした。街は砂に埋