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水で書かれた物語

吉田喜重監督、『水で書かれた物語』。石坂洋次郎の同名の小説を映画化したものです。

平凡なサラリーマンである松谷静雄は、美しい母との二人暮らし。病弱だった父は早くに亡くなっています。母は町の権力者である橋本伝蔵と関係を持っていますが、静雄は伝蔵は憎めど母のことは憎むことができません。静雄は伝蔵と母から、伝蔵の娘ゆみ子との結婚を勧められるのですが、静雄は、ゆみ子と自分が異母兄妹なのではないかと思っており、その疑念を伝蔵にぶつけます。静雄とゆみ子は結婚するのですが、母の不倫の秘密を抱え、異母兄妹である妻ゆみ子との結婚の中で静雄は迷い悩みます。兄妹である事実を知らないゆみ子はそんな静雄に困惑するばかり。とうとう静雄は全ての生活を捨ててを訪ね、母と関係を持ってしまいます。静雄はもう何の希望もないと母を自殺に誘いますが、その晩に家を訪ねてきたゆみ子と愛を交わし、ゆみ子との間に愛情を感じるのです。ところが静雄がゆみ子と愛を交わしていたとき、伝蔵と静香は二人、水辺で心中していたのです。水辺のほとりで嗚咽する静雄、ゆみ子はそんな静雄をしっかりと支え……といったようなお話。
吉田監督作品を見るのはこれで3作目だったわけですが……やはり難しい。
説明しすぎる映画はあまり好きではないですし、ちょっと「ん?」と思うぐらいが好きなんですが、吉田監督作品は反映画の旗手だけあってストーリーを極限まで削ぎ落としているので、意図を読み取るのに苦労します。見る前に原作を読んでおけば良かったと後悔しました。
ただ映像はやはりスタイリッシュで美しく、浅丘ルリ子、岡田茉莉子がそりゃもう美しく撮られています。小難しいことを考えずにそういうとこを楽しんで見るのもいいかもしれません。
テーマ自体は非常にオーソドックスなフロイト的なものなので、さほど読み取るのに苦労しませんが、なにせ反映画、反物語なのでテーマはわかるけどイメージとかストーリーが私の中で膨らまないというかなんというか…。感性の問題なんでしょうが。
ちなみに監督ご本人は、

映画のテーマは、危険な言い方かも知れませんが、『近親相姦』、母と息子の近親相姦を描いています。しかし、ギリシャ古典劇のように、ある程度抽象化して描いていますから、生々しい表現にはなっていません。近親相姦を具体的に見せるのではなく、『なぜそうならざるを得なかったか』を観客に読み取らせる、観客の想像力に賭けたのです。これは、父、夫、国家、天皇を頂点とした『父』を中心に作り上げてきた日本の歴史、その父権主義、男性優位を批判したものです。

水で書かれた物語 デラックス版
インタビューより

と語っておられます。
どこまでも儚く美しい母、静子。もちろん息子、静雄役の入川保則の母親役としては岡田茉莉子は若すぎるわけですが、それはまあ静雄の心象風景というかイメージなんだと思います。その美しい母に纏わる黒い疑念。そしてそれが原因でゆみ子を愛せない静雄の屈折。暗い母への恋慕と幻想。それらが淡々と美しい画で映し出されていきます。
洗練された美しいカットの連続、その洗練がこの場合アダになっているような。『エロス+虐殺』のようなひりひりするようなパワーが無く静かな分、勢いでは鑑賞できない感じ。
でも岡田茉莉子の楚々として可憐なのにどこかほの暗い情念と生の女を感じさせる雰囲気はすごいです。
このDVDにはNHKが収録した吉田監督と岡田茉莉子のインタビューも入っていて、上に引用したのはその中で語ってらしたことです。
ちなみに岡田茉莉子は「監督にはあまり質問しない、必要なことは脚本に書いてある」と言い、吉田監督は「俳優の感性で演じてほしいからあまり説明はしない」と語っていて、まさに夫婦と言うよりは盟友という感じの2人ですね。
と、いうか、こっちを先に見てから本編見ればよかった~と後悔しましたが。
難解で現代美術を前知識無しに見た時のような当惑を覚える作品ですが、なぜかお腹いっぱいと思ってもまた見たくなるような不思議な力が吉田監督作品にはあるような気もします。でも体力、気力のある時じゃないと厳しいかな?吉田作品、奥深いです。

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