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極私的批評 ネクライトーキー

今回の極私的批評は初めてバンドを取り上げます。好きなバンド多過ぎて死ぬまで好きなだけ語ってて良いよって神様に言われても語る時間がきっと足りない。両手両足で数えても絶対足りないな。とりあえず一歩ずつ、一組ずつ。

それは一冊の文庫から始まった。それまで読書もしたことのなかった人間が文字の羅列に魅せられ文字通り「文を楽しみ」文学の宇宙を自由に遊泳する。新しい思想や想像も及ばない未知の体験。ページをめくりまた誰かの人生が終わり始まっていく。読むたびに生まれ変わり、研ぎ澄まされていく。一定数の人種が教室の片隅で読んでいる小説というモノは、もしや、めちゃくちゃ面白いのでは?そうして段々と寝るのを惜しみ出すようになった。それが読書の始まり。

それは一枚のコンパクトディスクから始まった。ラジカセのトレイにキラキラと光る円盤を乗せる。周り出す未来。細胞が歓喜しているのが分かる。血液にラメが混ざったようだ。眩ゆいプリズムが循環していく。違法薬物より絶対絶対絶対気持ちいい。初めてロックンロールを聴いた時の気持ち良さは他の何にも変えられないと私は思う。高校の軽音部の部室。腰上くらいの高さがあるタンスの様な大きさのアンプから鳴る

Nirvana Smells Like Teen Spirit

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新入生向けの入部歓迎の場で荒々しくかき鳴らされて、ギターリフが響き渡った、あの瞬間。  絶対絶対絶対に自分が求めていたはコレだ。って思った。毎日ギターを練習して毎日MDを持ち歩いて手当たり次第に聴きまくった。週末はライブハウスで大人ぶって、同級生とバンドを組んだりし始めた。それが音楽の始まり。

それから少ししてから、またしてもたった一枚のコンパクトディスクから始まった。もうすっかり社会的には大人になっていた。空いた時間があればブックオフやGEO、地元の古書店をループする毎日。学生時代から変わらない日々の中で変わった名前のバンドの背表紙が目に入った。

ポップソングと23歳 コンテンポラリーな生活

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「うぅーーん…なんか聞いたことあるんだよなこのバンド名。名前のセンス的にサウンドはオーサムシティクラブとかパスピエとか本棚のモヨコみたいな感じかな。あんまり好みじゃなそうだけど安いから買う前にググってみるか。……ほぉ…スリーピースで…え!ナンバーガールの中尾さんがプロデュース!買うしかないしょ!」

ラウドなサウンド、ぶ厚いギターリフを振り回すバンドはあまり好きではない。それはサウンドの好みではなくて単純にそんなぶ厚めサウンドを効果的に鳴らせるバンドがあまり少ないからだ。生意気に耳が肥えてすっかり辟易するようになった。ベタベタと音圧ばかり高く、どっかで聴いたような楽曲展開。そんなバンド出くわす事が多く、歌詞も意味不明な内容が薄いかのどちらか。

しかしコンテンポラリーな生活は違った。アルバムの二曲目「彼女はテレキャスターを手放さない」でがっちりホールドされた。スリーピースで歌いながらガッツリとオカズ(ググってね)を入れて弾きながら歌うボーカルの朝日。しかも芸が細かくリズムもタイトでスリリング。巧みだ。鬱屈した感情や感傷に溺れる事なくしっかりと歌詞に落とし込むバランス感覚。歌詞を書いた経験がある方なら分かると思いますが、書くのも歌うのもかなり難しいであろう歌詞と譜割り。それでいてシンプルにバンドとしてのアンサンブルがかっこいいんだから1000000点。こういうバンドに出会えるから中古CD巡りはやめられない。

焦燥感案件発令。はーいみなさーん。案件が発生したので部屋に散らばる小銭達や来月貰えるであろう給料のみなさん全員集まってきて下さい。はい。集まりましたかー。大切なお知らせですよー。ただ今から私たちは一丸となってコンテンポラリーな生活のCDを買い集めてコンプリートする事となりましたー。はーい。拍手ありがとーう。絶対にブックオフなどで見逃さないように注意深く行動して行きましょうねー。はーい。いいお返事です。さぁそれぞれベッドの下、リュックの奥底や口座の中などにそれぞれ戻ってくださいねー。ベストを尽くしましょー。

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コツコツ時間をかけて2年ほど前に大体のアルバムやEPが集まった。その頃にはもうバンドは解散していた。と思いきやオリジナルのドラムは脱退してしまったがコンテンポラリーのサポートドラムをしていたカズマタケイと新ボーカルを引き込んで既に新しいバンドを組んでいた。その名も

ネクライトーキー

ね暗いトーキー

引き続き作詞作曲は朝日が担当だが、ボーカルのもっさが担当する場合もある。今では正式メンバーとなったキーボードの中村郁香、首謀者であるギターの朝日とベースの藤田、もっさ、カズマタケイ、合計で5人のバンド。

焦燥感や疾走感は抑えられてはいるが楽曲のドライブ感は全く損なわれていない。どこまでも全力で走れるような気にさせられる。しかしガラリとバンドの雰囲気が変わったのも事実。可愛らしい歌声と見た目のもっさに起因する所が大きいかもしれない。いわゆるアニメ声。朝日の書くアグレッシブなロックサウンドに不思議と馴染むもっさのあどけない歌声がネクライトーキーを唯一無二なバンドにしていると感じる。可愛らしくも恐ろしいおとぎ話のような題材の歌詞やモチーフも増えていて幅広い層にリーチするように絶妙に変化している。初期は単純に可愛らしい曲をやっている印象だったが段々とリズムやアンサンブルも複雑になり、もっさのスター性も出てきてバンドの無敵感が漂ってきている。何より全員楽しみながら演奏しているのがライブ動画から伝わってくる。朝日の髭もじゃな口元がニヤついてると言いようのない幸福感を感じる。「あんな暗い歌詞書いてたのにSONYからメジャーデビューまでして最高のメンバーに囲まれてあんためちゃくちゃ幸せそうに弾いてるじゃねぇーか!」

首謀者の朝日はかつて石風呂という名でボカロPとしても活動していた。

コンテンポラリーな生活のような鋭いバンドサウンドなのにボーカルが初音ミクで初めて聴いた時は度肝を抜かれた。まず石風呂って。なんだよその名前。とにかく才気に溢れた男なのは間違いない。ボーカルもっさの歌声は朝日の求めていた理想のボーカロイドでありモジュラーシンセであり最高のサンプラーなのかなと推測します。というのも石風呂時代の曲をセルフカバーしたMemoriesというミニアルバムがあるのですが、もーコレが最高。

めちゃくちゃ幸せそうな演奏なんですよ。イキイキして5人がぴょんぴょん跳ねてるいるのが目に浮かびます。今まで朝日はギターソロに入る前に自分で

ギタァーーーーー!!!!!

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と叫んでからソロを弾いていたのに水蜜桃弾ける様なハイトーーンのもっさが

ギターーーーーっ!!!!!

と叫ぶ。それに呼応して朝日がぶっといチョーキングでバンド全体の体温を一気に上げる。水銀が一気に音を立てて沸騰して体温計のガラス片が乾いた床に散らばる。不思議と踏んでも痛くない。気付けば踊っていた。全力で首を振っていた。酒を床に撒き散らしながら気付けば泣いていた。袖で目元を拭う。絶対絶対絶対コレなんだ。はじめて音楽のとてつもなさに圧倒されてから1ミリも変わってない。生きる理由だから変われるわけもない。死にたくなるほどの憂鬱から救ってくれて、今世界が滅んでも後悔しないってくらいの多幸感をもたらしてくれる音楽

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ネクライトーキーの良さが1ミリくらい伝わっているといいな。彼らのメジャー2作品目であり3rdアルバムに当たるFREAKが2021年5月19日発売決定。ここまで読んだ人なら買うべきかどうかは言わなくても分かるよね。彼らの凄さを体感して欲しい。



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