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ハードボイルド書店員日記

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ハードボイルドな書店員が綴る、本屋が舞台の掌編小説。いつか紙の本で書籍化したい。毎週日曜日に更新。
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記事一覧

ハードボイルド書店員日記【184】

「すいません、抜けます」 GWの真っ只中。通常よりもやや大きいハヤカワ文庫のカバーを折って…

Y2K☮
3日前
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私小説「ハードボイルド書店員の独り言」

雨上がりの朝七時。誰もいない路地を歩く。 タバコの残り香が鼻孔を掠める。湿ったアスファル…

Y2K☮
10日前
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ハードボイルド書店員日記【183】

「求人情報誌は置いてますか?」 学習参考書を品出ししていた平日の午後。棚はすでにパンパン…

Y2K☮
2週間前
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ハードボイルド書店員日記【182】

「月末に○○書店がオープンするね」 週刊誌を買いに来た常連の老紳士がレジで呟く。 春休み…

Y2K☮
3週間前
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ハードボイルド書店員日記【181】

「『あさいち』売れてますか?」 日曜の午前中。嵐の前の静けさを感じつつカバーを折る。3月…

Y2K☮
1か月前
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ハードボイルド書店員日記【180】

「国に何かしてもらおうとは思わないよ」 書店以外にも苦しい業界はあるからねえ。メンターは…

Y2K☮
1か月前
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ハードボイルド書店員日記【179】

「使えますか?」 平日も賑わう春休みの午後。鼻の奥と眼球がムズムズする。カウンターを出て文庫エリアの前を通り過ぎる際、中学生ぐらいの小柄な男性に声を掛けられた。赤いリュックを背負っている。自治体から配布されたであろう「図書カードNEXT ネットギフト」の大きな紙を差し出された。 「ご利用いただけます」 「この部分だけでも?」 四隅に印刷されたQRコードを指で差す。 「はい。ただレジの機械がなかなか読み取ってくれないことが多いので、保険としてIDとPINコードもあった方が。

ハードボイルド書店員日記【178】

「オカダの本、ある?」 静かな平日の午前中。レジにふたりは要らない。抜けて品出しを続ける…

Y2K☮
1か月前
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ハードボイルド書店員日記【177】

「俺もひとつ訊いていいすか?」 春の襟足が目立ってきた週末の昼。外国人に「イングリッシュ…

Y2K☮
1か月前
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ハードボイルド書店員日記【176】

「ピーターラビットの500円を5枚、1000円を3枚。1枚ずつ包装ね」 図書カードがやけに売れる月…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【175】

出勤の日に寒気が戻る 「いらっしゃいませ」 「ちょっと面倒なこと訊いていいかしら?」 「ど…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【174】

「これはおかしいでしょ」 4月並みに気温が上がった休日。昔の職場へ足を運ぶ。某スーパーマ…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【173】

書店の1日は荷開けから始まる。 雑誌と新刊、そして補充分。雑誌は付録を付けて棚に出す(コ…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【172】

「ない? ああそう」 閑散期の平日。しかし荷物は多い。先月ひとり辞めたから尚更そう感じる。混み具合に留意しつつレジを抜け、品出しを急ぐ。昼休憩を半分削るという切り札が脳裏を掠めた。だがよくよく考えたらそんなカードは配られていない。あったとしても私には見えない。少なくとも最低賃金でサービス早出を繰り返す非正規書店員の手元には。 「取り寄せもできないの?」「すんません」「そこは『申し訳ございません』だろ」カウンター脇のPCの前で、小柄な年配の男性がハードカバーの大きな本を肩に