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クリスマスに寄せて

一枚の写真。
水に反射する周りの風景たち。

蘇州の歴史文化街区のひとつ、山塘街 (さんとうがい/シャンタンジエ)の写真を上海で見て以来、僕はここを朝から夜までただ見つめて過ごしてみたい、と思うようになっていた。

悠悠生死別経年
魂魄不曾来入夢
悠ゆう々たる生死別れて年を経たり
魂魄こんぱく曾かつて来たりて夢にも入らず
長恨歌 白居易 より

1000年以上前、唐の時代に開かれた歴史ある町── 山塘街。 詩人・白居易 が蘇州長官として赴任した際に、蘇州城と虎丘を結ぶ水路の町として造られたそうだ。
白居易は、自身の作品(約2900首の詩と770篇の文を収録)を『白氏文集』としてまとめた。平安時代の文学に大きな影響を与えた。
この時代最大の漢詩人である菅原道真 はもとより、紫式部 や清少納言 ら女性も含めて、多くの貴族が愛読したようだ。

僕は長恨歌も好きだ。

遥か昔に白居易が治めた山塘街は職場近くだった。
けれど、周荘へ向かったりと、山塘街でゆっくり過ごすタイミングがなかなか見つけられなかった。
それにこの1週間でコロちゃん大爆発中だ。
ゆっくり外で滞在はリスキーだ。

ある日を境にして政策が180度どころか270度くらい変わった。
健康コード/行程表もあまり気にせずどこでも通過できるようにもなってきた。

そうした状況でコロちゃんが暴れてPCR検査場のある公園は朝から1時間〜2時間弱並ばないといけない。
自覚症状のある人達が多い。
並ぶ=感染に近い。

ちなみに症状がおさまれば出勤okという緩さだ──これじゃ、かかりに来たようなもんじゃないか?──何ともやりきれない気分で実は数日落ち込んでいた。

諦めて、今を楽しむしかない。
いつ、また政策が方向転換するかわかったもんじゃない。

だいぶ髪が伸びた。 
僕は天然パーマで放っておくとボンバーヘッドになる。
クリスマス・イブの午後。
1か月半ぶりに髪を切ろうと思い立った。
この前登場した周瑜もどきの先輩に山塘街近くの理髪店を教えてもらい、切ってもらった。

髪を切るとぶらぶらしたくなる。
僕は人もまばらな寒い夕暮れの山塘街をほんの少しだけ歩き、知らない地元のおばちゃんに写真を撮っていただいた。

古民家カフェのようなおしゃれなカフェの店先に、「ホットワインあります」みたいなお品書きが出ていた。気になった。
自宅にいるとき、たまに妻にホットワインを作ってあげた。
12月の夜空を見上げながら、寒いねと言い合って仲良く飲むとほわーんとする。
クリスマスイブにうってつけの飲み物かもしれない。
そんなイエスさまの降誕日前夜。
ひとり異国の水郷でホットワインを飲むのも悪くない。

無宗教のひとたちもクリスマスを「イベント」として楽しむ。
一体彼らの何%が24日をクリスマスと勘違いし、あるいは資本主義の欲望丸出しの消耗的な「何か」を贈り合い、何のためにそうしているのか?
ピンクのつるつるした女の子に調査させてみたいときがある。

僕の知人女性が在日トルコ人彼氏と付き合っていたことがあった。彼氏はムスリムで知人女性は無宗教だった。
ある年の11月、僕と彼らは三宮で食事をしていた。
クリスマスイブの計画に全く無関心な彼氏にモヤモヤした彼女。
彼氏に「クリスマスくらいカレカノだったら楽しむよね?」と言い放った。
「ムスリムだから、そんなのを祝う義理はないし、きみの意向には沿えない」と割と当たり前のことを彼氏が返した。
宗教に寛容的に見えて無理解すぎる知人女性に彼氏も僕も少し苛立ちを持っているのをお互いに何となくわかり可笑しくなった。
彼らはそれからしばらくして別れた。

妻は結婚前、ロシア正教徒だった。
結婚する少し前にカトリックに改宗した。
ロシア正教では1月7日をクリスマスと言うし、12月24日をクリスマスと言い祝うひとは無宗教という宗教の《主》の誕生祭だ。

ニヒリストな側面が顔を出してどうでも良いことに突っかかりたくなる、非・寛容な僕。

そんなことをとりとめもなく考えながら、「古民家カフェで見かけたホットワインをやっぱり飲めば良かったし、今夜、妻はきちんと僕がお願いしたとおりに娘の枕元に準備してくれているだろうか」、となぜだかホテルに戻ってとりとめもなく考えていた。

カベルネ・ソーヴィニョン系のボルドー赤ワインを選ぶ。
メルローの配合が高いものは鉄サビ感があり、あまり好きではない。
白ワインやブルゴーニュ系のピノ・ノワールだとミカンやオレンジなどの柑橘類ともよく合う。

ボルドーと言えば贅沢するならシャトー・ラトゥールだとかマルゴーだろうけれど、ホットワインにするのなら、1000円前後のオーストラリアやチリ産で十分だろう。

イチゴジャム、レモンと蜂蜜にシナモンスティック、ナツメグ、生姜を適当にマグカップに入れて、ワインをなみなみと注ぐ。
600Wで1分ほど電子レンジでチンする。
面倒くさいから電子レンジでこうしているけれど、日本酒の熱燗を作る要領でやった方が私は美味しく思える。
※ 鍋で直接やってしまうと、風味とアルコール分がどうしても揮発してしまう為、鍋ではおすすめしない。
僕のホットワイン作り方 

朝、身を切るような寒空の下、知らない土地の教会のミサへ向かう。
帰りにホットワインの材料を買おうと思う。

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