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お別れ

 10年ほど付き合ったのだろうか。3週間前にローバーミニとお別れした。新聞記者時代、転勤に合わせて一緒に異動。水戸から鹿児島市までを運転したことも懐かしい。
 2020年7月の熊本豪雨では、豪雨当日に川のような道を走ったこともあった。そんな過酷な現場で文句も言わずに走ってくれた。いや、もしかすると、不平不満はあったのかもしれない。が、ストライキという手法に訴え出ることはなかった。「ガソリン生活」(伊坂幸太郎)の中でなら、我がミニは「こんなところ、走らせるなよ!」と愚痴っていただろう。
 ミニを購入していいのだろうか。当初はそう思っていた。地方支局で働く記者として、車が故障して目的地にたどり着けないなどということがあってはならないからだ。インターネットで故障しないか何度も調べたものの、個体差があり、どうにもよくわからない。考えてもしようがない。えいやっ、の気持ちで購入。走行距離約4万キロの赤いミニだった。
 車屋でミニを受け取った直後、国道上でエンストしたことをついこの間のことのように思い出す。当初は感覚がつかめず、1速がうまく入らないこともしばしば。後方の車に何度クラクションを鳴らされたかわからない。3~4ヶ月後にはマフラーが落下(これは、ミニにはよくあることだ)。そんな小さな故障はあったものの、大きな故障に見舞われることはなかった。
 機械は故障、不具合を起こして当たり前。それを教えてくれたのがミニだった。ちょっとした不具合であれば、工夫すれば問題なく、ちょっとした不具合も愛嬌に思えてくる。自分にしかわからないコツがあるという点も愛嬌だ。それを教えてくれたのもミニだった。人生も同じかもしれない。そう思わせてくれたのも、ミニだった。
 本屋を始めるために鹿児島に引っ越してからはミニに乗る機会が減った。駐車場にぽつねんとたたずむミニ。走らないので、灰も積もったまま。その姿がかわいそうでならなかった。車は乗られてナンボ。誰かに乗ってもらった方がミニも喜ぶに違いない。そう思い、別れることにした。
 今はどうしているのだろうか? 本当に、ありがとう。良い相棒が見つかってほしい。

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