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てんじつきさわるえほん

 5年ぶりになるのだろうか。12月上旬、偶然、店の前で以前取材で知り合った全盲の男性に会った。会社を辞めて本屋を始めたことを伝える。
 「店を見てみたい」
 棚にぶつからないように自分の肘を持ってもらって、5坪ほどしかない店を案内する。絵本の棚を紹介していると、「点字の絵本はありますか?」と聞かれた。記者時代に視覚障がい関連の記事を何本も書いてきた。にもかかわらず、点字の本を揃えていなかった。痛恨の極み。「すぐに発注します」。そう答えるのがやっとだった。
 おかげで今、店には点字付きの絵本が3冊ある。『てんじつきさわるえほん ぐりとぐら』▽『てんじつきさわるえほん ぞうくんのさんぽ』▽『てんじつきさわるえほん 音にさわる──はるなつあきふゆをたのしむ「手」』──だ。それぞれ、装丁もおしゃれだ。

 何人かのお客さんは手に取って見てくれる。購入にまで至らなくとも、少しでも点字に触れる機会を提供できているのではないだろうか。
 知人男性が点字の本を私に思い出させてくれたように、点字付きの絵本が点字を使用する人たちのことを伝えてくれる。その「てんじつきえほん」の本をきっかけに、障がいのある人の人権問題などにも関心が広がるかもしれない。
 誰かの好奇心、関心を刺激する本屋にしたい。

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